第7話 事件を解決する

 夜。辺りは静まり返り、そこそこ日の辺りが良く暖かく朗らかな雰囲気に包まれていた森は静けさと共に冷たさをもたらし、身を一層引き締めさせた。

 そんな糸が硬く、一切のぶれも無い様な雰囲気の中で音がした。

 乾いた音を響かせ、どこかに潜んでいたのであろう、どこからか森の中に入って来たのではなく、突如そこから湧いて出た様に音を立たせない様息も静かにして『ソイツ』は動いていた。

 「ソイツ」は真っ直ぐにある場所へと向かい、しっかりとした足取りで向かっていました。それは明らかに転移魔法に失敗し、ココがどこか分からずに彷徨う歩くヒトの動きでは無かった。

 そして目的の場所に着いたであろう『ソイツ』はしゃがみ込むと皮で出来た出ろう固い手袋をはめた手で何かを掘り起し始め、そしてその土の下に埋まっていたであろうものを手にした。

 その瞬間をわたしは魔法を使い、強い光を一瞬だけ放った。『ソイツ』は驚き、光った方向を見た。そこで『ソイツ』はこの場にいるのが自分一人だけではない事に気付いた。


「まぁ気付こうが気付くまいがどうでも良い。今使ったのは『写し取る』魔法。名前の通り指定した範囲をそのまま写し取る魔法だ。

 アンタが今した事、そしてその行動による結果は綺麗に収めさせてもらった。」

「なっなんだお前は!」


 漸く喋ったかと思えば、ソレはあまりにも自分の立場を分かっていない発言だった。どうやらわたしのした事をきちんと耳に入れず考えていない様子だ。


「もう一度言ってやる。今お前がした『狸に罪を擦り付ける為の行動』はしっかりと見たって言ったんだ。今動けばお前がただただ不利になるだけだ。大人しく」


 言い終える前に『ソイツ』、もとい事の犯人である密猟者は隠し持っていた短剣を出してわたしに向かって駆け出した。


「…トロいんだよ、アホが!」


 静かに、ただ感情任せながらもしっかりと密猟者の攻撃をいなし、そのまま密猟者の手を掴んで引っ張り、勢いのまま思い切り地面に叩きつけてやる。そして鞘から剣を抜くと刃を密猟者の首に押し当てた。密猟者は自分の首に剣に刃が中っている事に気付くと、顔を青ざめて短い悲鳴を上げて体を固まらせた。


「ヒトの話は最後まで聞け!そんなに死に急ぎたいのか?だったらこっちからお前の息の根を止めてやる。」


 言いながらわたしが剣を振り上げた瞬間、どこからか飛んで来た何かが私の手に中り、弾みで剣を手放してしまった。急ぎ剣を拾おうとしたが、今自分が相手していたヒトとは別の気配を感じて、わたしは動きを止めた。

 茂みから人影が出て来て、ソイツらは全員手に射撃武器などを構えていて、それら武器の照準をわたしに合わせていた。


「ははっ…まさかこっちがつけられていたとは思わなかったな。だが、こっちも念の為に備えておいたとは思っていなかったらしいな?

 見られたからには、お前はこのまま森から無事では出させはしないぞ。」


 そう言い、密猟者の仲間と共にこちらににじり寄って来た。一人に対して大勢で囲まれるのは非常に劣勢になる。だが、わたしはそんな状況を決して劣勢とは思わない。


「むしろ優勢!いや、愉快でしかないなぁ!?」


 わたしは今の自分の状況がただ愉しく思い、声を荒げて笑った。そんなわたしの姿を見て、密猟者もその仲間も皆顔を歪めて後退りした。


「なっなんだあいつ?大勢に囲まれて、恐怖で頭がおかしくなったか?」

「…ん?いや、あいつの目の色…まさかこいつ、『逆人』か!?」


 密猟者の誰か口にした『逆人』を聞き、他の密猟者もどよめき出した。


「はぁ?逆人なんて呼び方、正直そっちの方が知られてるのって不本意なんだけど?本来はこっちじゃ『夜紅族』って名乗ってるんだけど。」


 余所で知られている別称に、わたしは眉間にシワを寄せ溜息を吐きつつ、あからさまに不機嫌な表情をしてわたしは呟いた。

 『夜紅族』、ソレがわたしの種族名であり、昼時とわたしの様子が変わっている由来だ。

 妖精種の中でも戦闘能力が特に強く、魔法による属性攻撃の他に補助による身体強化での接近戦も行い、同じく身体能力の高い竜人や頭角人と並ぶ戦闘民族とされている。

 一番の特徴は目の色だ。昼間は緑色の目だが、夜になると緑から赤色に変わる。活動時間も昼間では無く本来は夜の時間帯で、日が沈めば気だるげだった気分も向上し、体調も良くなる。


「むしろこんなに大勢で来てくれて嬉しいよ。おかげで、切れる肉が増えたワケだからなぁ?」


 恐らく、今のわたしの表情は相手にはまるで物語に出てくる様な恐ろしい怪物の顔そのものに見えているのだろう。その証拠にさっきまで威勢が良かった密猟者共が見ず回避名を上げながら更に後退りして、中には背中を向けて逃げ出そうとするヤツもいた。

 でも関係無い。一度その姿をさらしたのだから、最後まで付き合ってもらわねばならない。


「逃げたきゃ勝手に逃げ出せ!ただし無事には帰さねぇがなぁ!?」


 わたしは楽しさに再び笑い声を上げて、密猟者共の群れの中へと突っ込んだ。そして蜘蛛の子を散らす様にして密猟者共は逃げ出し、最早狩りをするのは誰なのか、傍目では分かりはしないだろう。

 そんな楽しい時間を過ごす中、師匠は草むらに隠れて様子を伺っていたと後で聞いた。


「ハァ…相変わらず性格の豹変が極端なヤツだなぁ。まぁ夜紅族ってのは大体こんなもんだ。

 夜のアイツを相手するのは私も手を焼くくらいだからなぁ。コレであの密猟者共も懲りただろう。まぁ逃がす気は私も無いがな。」


 逃げ回り、へばった所を師匠に縛り上げられるまで後数十分までの出来事だった。


 こうして夜が明け、密猟者達は捕らえられました。

 証拠となる魔法による写し取った画像は後で兵士の方に提出し、無事に密猟者達は牢屋へと入れられる事となった。むしろ密猟者達は牢屋に入れられる事に喜びを感じている様だったと後に兵士は語った。まるで、恐ろしい獣から逃れる事が出来た避難民の様だったとも。わたしは目を逸らします。

 狸の親子も、濡れ衣を着せれる事も無くこれからも西のむらの森で暮らす事が出来るでしょう。


「ひぃっ!?…あっあの、今回は…ほんとーの本当に、助けてくれて…あの…ありがと…こざいます。」


 そして明らかに狸の私に対する態度が一変した。おどおどとしてわたしからも距離が明らかに離れていました。お子さんも親の背に隠れてわたしに姿を見せようとしません。完全に怯えているのが分かります。

 そんなワケで皆から恐怖の対象と見られたことに、わたしは非常に落ち込みました。


「うぅ…こうなると分かっていたから、夜に動くのはイヤだと前から言ってるんです。」


 わたし自身、夜になると性格が豹変するという事は重々自覚していました。しかし、師匠の指示めいれいとなれば逆らえません。おかげで厄介な相手であったハズの密猟者に囲まれても乗り切る事が出来ました。

 夜のわたしは種族の特性から戦闘能力に特化しており、逆に昼間は眠気も重なり本調子を出せないのです。そこも師匠は分かっていて夜に張り込む事にしたのでしょう。

 師匠の判断は間違ってはいませんでしたが、わたしは不名誉な傷を心に負いました。


「ソレもお前自身なんだから、恥ずかしがらずにしっかりと背負っとけ。」

「うぅうぅぅ…でも怖がられるのはすごく悲しいです。」


 体調を崩したむらのヒト達も良くなり、再度むらを訪れた際、診察もしてもう心配ないと師匠も判断し、改めてお礼を言われました。

 当然、密猟者が森に入り込んだ事も話しました。


「そうでしたか。いや、私共もほんの少し…いえ、狸の事を疑わなかったと言えば嘘になります。だから、近い内に私共の方からその狸の親子に謝罪をしたいと思います。」

「別に良いだろ。今回アンタらは完全な被害者だ。狸のヤツだって謝罪を求めてはいないし。」

「でも、一歩間違えていたらきっと酷い事をしていたかもしれません。だからこそ、次も何事も無いよう、互いの事をよく知っておく必要があります。同じ土地に住むのであれば、それ位するのは当然かと。」


 むらのヒト達の言う通り、今回はわたし達が犯人を見つけたから事も無く終える事が出来ました。しかし、知らずにむらのヒト達が森へと原因を探りに行き、そうして狸と衝突をした可能性だってありました。

 知らないから恐ろしい。誰かが言った言葉はその通り、無知だからこそ害を及ぼす危険性があります。

 師匠もむらのヒトの言葉を聞き、納得したのでしょう。今度はむらに住む者と森に棲む者同士、上手くやっていく為の橋渡しをするという事です。


「まっちゃんと事情は言ったとは言え、密猟者の侵入を許し、密猟者に狙われている動物の事情も聞かずにいた私にも責任があるしな。

 ハァ…こんなんじゃ、川の土地守にも顔向け出来んな。」


 師匠自身も反省し、今後も気を付けて対応するとの事です。

 わたしは、一先ずもう少し夜になった時の自身の自制を図る事にします。


「お前のソレは無理だろ。絶対。」

「そんな事言わないでください!」


 絶対に自制出来るようにします!

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