第4話 解毒を完了する
結果として獣人は助けられて、胞子によって眠らされた娘さんも助かりました。
獣人の方は、師匠の治療により徐々にではありますが正気を取り戻していき、後遺症は残る事ですが、獣人さんが野生に帰ったのは接触してから大分経ってからの事でした。
「結局あの獣人はどこから来たのでしょうか?」
「さてね。でも獣人てのはヒトのまちに暮らしているヤツよりも野生のヤツが多い。それが偶々茸人の生息する森に迷い込んで来たって不思議ではないさ。」
野生故に会話もままならず、結局本人も何が遭って茸に寄生されたのか覚えていませんでした。でも傷も手当てされてとても感謝しておりましたし、これからは茸に気を付けて暮らしていくとの事です。茸以外にも気を付けなくてはならないものを多いですが、今回は良い教訓となった様です。
そして本題である娘さんの治療ですが、こちらの治療は早くに終わりました。
「茸の胞子自体は一緒だが、矢張り土台に違いがあると解毒の仕様も変わる。もし茸人の胞子をそのまま使っていたら、治せるか分からなかったな。」
当然でしたが、師匠の調査は正しく、おかげで娘さんも後遺症無く目を覚ます事となりました。娘さんのご両親から感謝され、お礼をもらった後直ぐにわたし達はむらを後にしました。
さて、一方で気になる事もあるでしょう。そう、獣人に寄生した茸の胞子を浴びたハズのわたしが何故眠らずにいたかという事です。
それは一重に種族という身体の違い故です。
茸人の胞子は、人間に対しては眠りや麻痺といった効果をもたらしますが、相手が変われば効果も変わります。
人間と妖精種は、違いはあれど見た目はほとんど同じなヒト型です。しかし、矢張り根本的な違いがあり、特に薬の効果にも違いが出ます。
ヒトが食べられるものを、犬や猫が口にする事すら出来ないのと同じく、人間には無害でも妖精種には害のある効果が出る、逆もまた然りです。
なので、人間の娘さんは胞子を浴びて眠りにつきましたが、わたしは眠る事無く行動出来ました。ですが、別に何の症状も出ないワケではありません。
症状が出た、正確には判ったのは夜の事。
日が沈めば皆眠りにつくハズですが、何故かわたしは一向に眠気が来ず、寝台の上で横になっても全く眠らない日が続きました。ハッキリ言って、とてもキツイです。
「…まーだ眠れないのかぁ?もう三日だぞぉ?」
眠い目を
茸の胞子によって、娘さんは眠りましたが、逆に妖精種であるわたしには不眠の効果が出た様で、わたしは眠りたくても眠らない日が続き、すっかり不眠症で弱り果ててしましました。
「いつもなら昼寝の多いお前が全く眠らなくてもしやを思ったが、結構な効果だなぁ。…おかげで徹夜で薬の調合出来るし、ある意味私は助けられたがな。」
嬉々としてわたしが居眠りせずに調合を手伝う事を語る師匠に、色々と言いたいわたしですが、眠りたい衝動と、なのに眠らない体の反応、そして瞼の重さにわたしは何も出来ずに寝台に潜り込む事しか出来ませんでした。
「うぅ…どうせなら眠る効果が出てほしかった。」
とても不謹慎だと分かっていますが、あの時眠りこけて目を覚まさない娘さんの姿が羨ましく思います。
因みにわたしの完治は、胞子を大量に吸った事により胞子が完全に抜けるのに後数日は掛かるのだと師匠は言いました。
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