第3話 原因を知る
森の奥は外側に近い場所とは違い、薄暗く草も高く茂り、先ほど師匠とも言っていた雨が続いた為にまだ地面がぬかるんでいて、泥に足をとられ歩き辛くなっています。日も全然射さないので、泥が渇くのはまだ時間が掛かるでしょう。
そんな場所をわたしは足を大きく動かし、転ばぬ様に注意しつつ師匠と
「随分と
言いながらも師匠は翅が生えている為、泥濘に足をとられる事も無く平然と飛んで調査をしていました。
「こういう環境なら茸人には良い環境のハズですから、むしろジッとして動かないのではないでしょうか?わざわざ動いて活動する場所を変えるなんて、茸人らしくない気がします。」
師匠の意見にわたしなりの考えを口にしました。そこは師匠も既に考えていたらしく、私に同意して再び思考を始めました。
こうなると師匠は全く動かなくなり、梃子でも動かないので非常事態になればわたしが対処しなければいけません。しかし、師匠の弟子としてわたしも考えなくてはいけません。
ですが、考え事は苦手なので私は動いて直接見て回る事にします。草を掻き分けて辺りを探索しますが、ただ一帯が湿っていて動き辛い事しか分かりません。
ただ、この湿った空気は茸人にとっては良いものであり、。ただ地面がぬかるんでいるだけではやはり茸人にとっては何の問題も無いように感じます。
フと、何かの気配を感じて剣を構えます。気配は徐々にこちらに近付いており、しかも明らかにこちらに殺意を向けている事が肌で感じ、今すぐにでも剣を振るえる状態を維持します。
そして待っていて出て来たのは、沢山の茸人でした。ソレはわたしが立っている事など気にせずに跳んで来たり、走って行ったりと様々な動きでこちらに向かって来たのです。
いや、正確にはわたしなど全く見向きもせず、まるでわたしが見ている方から遠ざかろうと走り逃げる様でした。そんな逃げ惑う茸人に気をとられ、わたしは気付きませんでした。
わたしの直ぐ目の前まで、『ソレ』は近付いていました。
『ソレ』は形だけ見ればヒト型ですが、固く伸びた体毛は全身にまで生えており大きな手足を持ち、手には鋭い爪が生えており頭の形は狼のモノで、紛うことなき狼の獣人でした。
だが、陰から出て来たその獣人は、全身の至る所から茸を生やし、まるで動き死体でした。
「キっ、キノコのオバケぇ!?」
「いや、オバケなら尚の事驚く事なくないか?」
それもそうでした。師匠の言う通り見た目は恐ろしいですがオバケや幽霊と言った存在は別段不思議な存在ではありませんでした。ただちょっと特別な姿をしていて思わず口が滑りました。
しかし、よく見ればその獣人から生えた茸は茸人の容姿そのままの見た目をしていました。ソレに気付いた師匠は何かを知っているかの様に話し出しました。
「あぁ成る程。そもそもこの獣人がこの森に入り込んだのが始まりって事か。」
そんな風に説明をし始めましたが、その間も獣人はゆっくりを歩いてわたしの方へと近寄ります。そして、手に持っていた棍棒を振り上げ、わたしに振り降ろし襲い掛かって来ました。
驚きつつもわたしは躱し、剣で反撃をするが獣人だから簡単に躱されてしまいます。矢張り獣人の身体能力に反射神経は凄まじいですね。
「獣人の体に生えた茸、体に侵食して生えているな。」
「えぇ!?茸人のキノコが体から生えるってそういう事なんですか!?」
獣人に応戦しつつ師匠の発言に言葉を投げ掛けます。否が応でも耳に師匠の声が届くので、気になった事に対して疑問を投げ掛けたくなってしまいます。
そもそも茸が生き物の体に生える事自体ままある事です。共生なり寄生なり茸そのものの生態とも結びつきますし、そういった茸を実際に見た事もあります。
ただ、今回の茸が生き物の体から生える、という事をわたしは知りませんし、今まで見てきた記述にも記されておりません。それは確かです。
「まぁ珍しいことだな。実際むらの娘さんは胞子を吸って眠るだけの被害ではあるからな。だが、獣人の場合は恐らく傷口から胞子が入り、そこで茸が自生したんだろうな。
薬や茸に詳しいやつ等なら知ってる話だし、お前にはまだ教えてなかったかもな。」
まさかの茸が生えた実態に、わたしは身震いしました。森に入る時は傷に気を付けろとはよく言われてきましたが、そんな事情があるとは思いませんでした。
しかし毒にしろ茸にしろ、矢張り植物や菌類にしろ、わたしが持つ知識が不十分な事を思い知らされます。と獣人の牙を躱しつつも考えました。
「とっところで、この獣人は倒しても…よっよろしいのですか!?見たところ、やっ野生の方とお見受けしますが!?」
戦いながら師匠に話し掛けて判断を
今相手にしている獣人も、野生な上に茸に寄生され暴走している危険な状態にあります。わたしは茸に寄生された生き物の治し方を未だ心得ておらず、対処が出来ません。この場でそれが出来るとすればただ一人です。
「決まっているだろう。
気絶させろ。どんな状態でも治すのは当然だ。
どんな相手でも、治せる可能性があるのであれば治すのが師匠です。厳しくも決して諦めないのが正に医者と並ぶ薬師の姿です。
わたしは師匠の指示を受け、何をするかはっきりと判り、一度獣人から距離をとり剣を構え直します。すると獣人の様子が変わり、突如呻き声を上げて立ったままもがき出すと獣人の体から生えた茸の傘が肥大化します。
あれは胞子を出す予兆です!
そう直感した瞬間、思った通り茸が傘を広げて胞子が勢いよくばら撒かれます。それも一つではなく獣人の体に生えたいくつもの茸全てが胞子を放ちます。ばら撒かれた胞子は煙の様で、まるで煙幕による撹乱の様で驚きはしました。でも、わたしはそれで動じはしないし、足を止めません。
何よりも胞子に驚いているのは獣人の方らしく、茸が胞子を放った事で寄生され土台とされている獣人の体にも変化が見られ、それにより獣人はもがいて動揺を見せたのです。
そのおかげで、戦う相手として手強い獣人相手にわたしは一本と取れました。
それは鳥が得物を狩る瞬間、
どんな強靭な身体を持つ獣人であっても、やはり急所はある。特に喉は生き物によっては強化のしようがない部位です。毛深い獣人の僅かに薄い場所を狙い、そして無事に獣人は気絶してくれました。
ただ打っただけでは気絶まではしてくれなかった筈です。
「師匠!やりました!」
わたしは獣人を気絶させた事を師匠に真っ先に伝えます。師匠自身ずっと戦闘を見ていましたから、一々言わなくても分かるとは思いますが、相手が本当に気絶したかは近くにいるわたしにしか判らない。
師匠もわたしの言葉を信じて近寄って来た。
「よし、よくや…うわっ!胞子臭っ!こっち来んな。」
「ヒドいです!」
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