第2話 現場を調べる
森の手前、入り口とされる木々の間の開けた場所に師匠は一足先に来ていた。わたしは飛んでサッサと先に行ってしまった師匠に置いて行かれ、走ってやっと師匠に追いつき息を切らしていた。
「はぁ…ぜぇ…師匠、置いて行くのは…好い加減…止めてください。」
師匠が先を急ぎ、わたしの事を置いて行くのは毎度の事だった。患者の為に急ぐのは分かるし、翅を持つ故に障害物関係無く進む事が出来るから徒歩のわたしよりも速く行ける。だが言っても
「お前が速くなれ。後もう少し体力をつけろ。」
「体力云々ではなく、師匠が速いんですよ!」
何を言っても押し問答になると分かっているので、話の方は早めに切り上げました。身体能力には自信ありますが、矢張り飛んで行けるヒトには敵いません。
しかし今は問題となる胞子の出元を探すのが優先です。しかし着いた場所はすぐそこが森で木が密集しているが日が射しており然程陰鬱な雰囲気は感じられない。
そこは東のむらに住んでいる者であれば有名な山菜が豊富に実っている事が知られており、また動物も大人しく襲って来ないものしかこの辺りにはいない為、非戦闘員である夫婦の娘が一人でここを訪れる事は珍しい事では無い。
だが、今回はそんな安全と知られる場所で異変ともとれる事が起きた。何がこの場所で起き、今までのこの場所と今とで何が違うかを検証する必要がある。
「…ふむ、微かにだが土が
「でも、雨続きだった事何て以前もありましたよね?その時は茸人がここまで来る事なんてなかったハズですよ?」
「そうなんだよなぁ。それに、胞子だって茸人のものと類似しているってだけで、茸人の胞子そのものとも言い難い。だが他にあんな反応を見せる胞子と言えば。」
あれこれと師匠と話し合いつつ調査を続けましたが、娘さんが倒れていた場所では新しい発見が見つかりませんでした。
諦めて茸人を直接調査する為に奥に行こうかという話をしていたところ、何かが草むらの中から出て来ました。なんとそれは目当てにしている茸人でした。
「えっ茸人!?なんでここに!?」
「ほう、群れから逸れたのか。丁度良い、アイツを捕らえて調べるか。」
むらに近い場所では見られない筈の茸人の出現に私は驚くが、さすがの師匠は驚きはしつつも冷静に対処しようとしています。さすが、と思っていると、再び茸人が出て来た草むらが動きました。嫌な予感が過りましたが、それは当たってしまった様でした。
一匹の茸人が出て来た草むらから次々に茸人が跳び出す様にして出て来ました。
「おぉ!一匹かと思ったら群れで来ていたか。コレは都合が良い。」
「言ってる場合ですか!?あっちはもう襲う気満々ですよ!?」
言いながらわたしは師匠の前に立ち、差していた剣を鞘から抜き両手で持ち構えた。本来であればヒトを襲う事に積極的ではないハズの茸人が、何故森の奥からやって来てしかもヒトを襲おうとしているのか判りませんが、今はそんな茸人の対処をしなくてはいけません。
「うぬ、ロジエ。そいつらは倒しても良いが、あまり傷はつけるなよ。調査対象だから、胞子もあまり出させるな。」
そうわたしの後ろから師匠は指示を出してから、隠れるようにして更に後ろに下がった。出来れば師匠も魔法で援護しれくれると助かるのですが、今回は胞子の採取の為に魔法の痕跡を残さない様、あえて戦闘には参加しないようです。それは仕方ない。
早速茸人は私に向かって跳びかかって来ました。襲い掛かって来たと言っても、茸人の攻撃手段は体当たりか胞子をばら撒く事しかしません。
魔法生物である茸人は、他の生き物の様に感情を読み取ったり、思考を凝らして手段を変えるといった事が出来ず単純な動作しかとれません。なので倒すのはいとも簡単なのですが、何分数が多い。
茸人はただ私に向かって速くない足で接近し、ただ体をぶつけて来るか跳んで来るだけしてきました。とは言え全く損傷を受けないというワケでは無く、多少の痛みはあるし何よりもぶつかった衝撃で茸人から胞子が零れる様にしてばら撒かれるので危険だ。
それに注意しつつ、わたしは茸人を斬っていき動かなくなった茸人を師匠のいる方へと放り投げた。
「よしよし、茸も大分集まって来たな。ちょっと調べるから、もうちょっと囮頼むぞー。」
「いや、囮は良いですがいつまでですか!ちょっとってどれくらいですかぁ!?」
わたしの問いかけの答えは返って来る事無く、わたしは師匠に言われるまま囮をこなし、その間師匠は茸人の胞子を採取し持って来ていた道具を使い調べていた。
胞子を調べるのは娘さんが眠りについた原因を調べるためではあるが、同時に解毒剤を調合する為でもあります。毒を調合する際は必ず解毒剤も一緒に調合するのは薬作りの常識です。しかし茸人と戦うわたしの視界の端に映る、調べる師匠の表情はどこか苦悶を浮かべている様に見えました。
「うん…やはり茸人の胞子と娘に付いていた胞子は似てはいるが違うな。もしや別種と混じったか?いや、それなら他にも症例が出ているハズ。明らかに娘の症状は胞子一種のみの反応だった。しかし。」
云々と唸り考え込む師匠を置いて、わたしは出て来る茸人を粗方倒してしまった。あまりそこに生息する生物を倒すと生態系に影響を与えかねませんから、やり過ぎたと反省しつつ師匠の元へと駆け寄ります。
「…はぁ。何か分かりましたか?」
「いや、判らん。」
はっきりと断言され、わたしは肩を落としました。でも師匠の話はまだ続いているらしく、私は口を挟まずに師匠の動向を見守ります。
「だが異常であるのは確かだ。どうやらここだけ調べても情報で出て来ない様だし、今度は茸人が棲みつく奥地に行くか。」
「やはり行くんですか?」
「当然だ。ここに茸人が来るのは判った。次は何故ここまで茸人が来るのか、原因は恐らく茸人の棲みかにあるだろう。」
あっと言う間に広げていた薬師の道具を片付け、またわたしを追い越して森の奥へと行ってしまいました。わたしはまた置いて行かれぬようにと走って師匠の後を追いました。
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