ハ□コ

否定論理和

 箱だ。


 私の目の前に、大きな箱がある。


 否、大きなというのは正確ではないかもしれない。周囲は暗く、箱の全容が見えているわけではない。人一人が入るほど大きな箱なのか、菓子を詰める程度の小さな箱なのか見えているわけではない。


 ただ、私はどうしてかその箱が大きなものだと思ったのだ。


 触ってみる。木製だろうか?段ボール製だろうか?少なくとも金属やガラスではないだろう、といった程度のことしかわからない。

 

 同時に、私はその箱がひどく恐ろしいものであるかのように思えた。決して開けてはならないような、それどころか中に何が入っているのかを知ることすら許されないような。理由は分からないが、とにかくそのように直感した。


 ……だというのに、私はどうしてもその箱のことが気になってしまう。


 更に触ってみると表面に少し違和感がある。注意しながらなぞってみると、それがのぞき窓のような物だと気付いた。


 これを開ければすぐにでも中身を知ることができるだろう。けれど、私の本能はそれを拒否した。まだ、開けたくはない。


 触っているうちに段々と、見えないなりに箱の特徴が分かってくる。横幅は30㎝あるかないかといったところ、高さも似たようなものだ。奥行きはもう少しあるが、それでも50㎝程度だろう。


 覗き窓が付いていたのは、どうやら箱の蓋であったようだ。鍵やそれに類するものは何もなく、蓋の重みも大したことは無い。


 箱の中身を知るのは、まだ恐ろしい。けれどもそれ以上に、私はそれを知らなければいけない気がした。


 蓋を触る手に力を込める。……不思議だ。私は、ただ箱を開けようとしているだけなのに


 どうして泣いているのだろう。


 そこでようやく気付いた。この涙は私が流しているのではない。この箱は私が触っているのではない。私は—―


 箱の中にいたまま、外から箱を見ていたのだ。


 箱を抱きしめて泣く母の背中はあまりにも小さく、見ているしかできない現実が、ひどく悲しかった。

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ハ□コ 否定論理和 @noa-minus

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