第三話 紅玉のウエディングドレス III

ここからは僕の人生初となる推理小説の序章となる。


「刑事さん死体になった人の身元は分かったんですか。」


「近くに鞄が落ちていた。坂下由美子25歳、一緒にいた橋本美陽と幼馴染だったそうだ。」


「本当にあの場で急に人が粉々になると思いますか。」


「お前がどうにかしたんだろ。」


「有り得ないんですよ。その場で人が粉々になるなんて。大きな爆発音のせずになんて。確かあの場所には、靴や衣類は全く有りませんでした。……調べて下さい。彼女の死亡推定時刻、それから彼女は数日前から行方不明になっているはずです。」


「そんなわけ…」


その瞬間言葉を遮って一人の男が勢いよく扉を開け、息を切らしながら話し出した。


「蒲田さん!被害者の死亡推定時刻が事件の前日午前二時から三時の間であることが分かりました。それから橋本美陽は薬物中毒者です。それで家宅捜索を行うと、大量の薬物と犯行に使用されたであろう凶器が発見されました。」


彼女は坂下さんに薬物で脅されていた。彼女は大量の薬物を所持していたことから。売り子としても活動していたはずだ。彼女の脅しはエスカレートしていき耐えられなくなってしまい殺した。一見何処でもいる普通の女性。そんな彼女の裏の顔は薬物中毒者兼売り子。『時計じかけのオレンジ』彼女にはぴったりな小説だったのかもしれない。


謎が残るのはここからだ。何故僕に犯行を僕になすり付けたかったのか。小説に準えたかったのか、死亡推定時刻を遅らせたとしてもすぐに分かってしまうがさつなトリック。第三者が自分の存在を知らしめたい。という自己顕示欲の高い人物であることがわかる。もし僕に対して当てられた物だとするなら。挑戦と捉えることができる。

どんな人物であろうと小説を犯罪に利用する君を僕は許さない。



それから数日後、事件の事を警察署で改めて知らされた。橋本美陽さんが全てを自白したらしい。あの紙は、麻薬を売り捌いていた大元から貰った。


「誰かを殺してしまった時は、必ずこれを持て。」


と。意味は知らされておらず指示通りに行ったらしい。彼女が何故殺してしまうほど耐えきれなかったのか、興味深い部分ではある。しかし今、犯人にされたのは何故僕なのか。麻薬組織の大元は何故僕の指紋が付いていた紙を持っていたのか。彼女にあの紙を渡したのか。これを考えた人に会いたい。今の僕に理解できない全ての思考回路の全てを感じたい。

そんな事を考えている内に横から声が聞こえた。


「悪かったな。」


ベテランの刑事が現れ目を逸らしながら謝罪をしている。彼は何故謝ったのか。僕の思考で考えるのならば、怒鳴りながら聴取をした事や証拠に踊らされ無実の人間を疑った事に対しての謝罪だろう。しかし、答えを求めようと本人に確認する事は相手の気分を害することだ。やめておこう。


「いいえ、大丈夫です。」


聞きたいことを飲み込み、平然と一般的な返答をした。そうすると、事件の詳細を話し出した。

一般人に話して良いものだろうか。


「橋本は、三年前からヤクをやっててな。それを害者に見つかり強請られていたらしい。頭に来て殺した。死体を滅多刺しにし、その後細かく砕いて袋に詰め、ぶちまけたって話だ。しかし、死体を砕くなんて考えるか?普通。」


「『時計じかけのオレンジ』ですね。」


刑事は苦い物を噛み締めた様な顔をした。


「そういう小難しいのは嫌いなんだよ。」


そこでもう一度事件を踏まえて説明する事にした。


「一見問題が無さそうな彼女も薬物中毒者で、中身が変、と言う事になります。それにメモは内容を合わせたにしろ事件を合わせたにしろ第三者に何らかの意図があったことは確かです。」


次は不思議そうな顔をしてこちらを見る。


「どう言う意味だ。」




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ビブリオフィリア POND @kuro_pond

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