第二話 紅玉のウエディングドレス II

 それから事情を警察に話した。

赤いベールの彼女は放心状態で何も話すことはなかったらしい。深澤君も気分が優れず、話ができるのは必然的に僕だけと言う事になる。


「君が見たことを細かく教えてくれ。」


二十代後半で体格の良い刑事は僕に問いかけた。僕は見たままのことを答えた。


「僕は女性の悲鳴を聞き一緒にいた深澤君と一緒に駆けつけました。僕らが着いた頃には、辺りが血まみれで骨や肉片が散らばり彼女がそれを被っていました。」


「うっ、他には何かなかったか。」


気分を害した刑事を横目に、あの時のことを鮮明に思い出す事にした。悲鳴、景色全てを思い返す。『疑うがゆえに知り、知るがゆえに疑う。』寺田寅彦。常識に囚われない事が重要である。こんな状況だからこそ疑う。


「そう言えば悲鳴の途中で音がしました。大きい悲鳴だったのでハッキリとは聞こえませんでしたが。何かが破裂する音です。風船よりは大きくなくて、もっと低い音です。」


刑事は不思議そうな顔で唸り、沈黙を漂わせた。


「そうか、協力ありがとう。また協力を頼むかもしれない。」




 程なくして僕は、警察署に呼ばれることとなった。


「悪いな。呼び出して。」


その言葉の裏には、謝罪ではなく疑いと威嚇が込められていた、奥からもう一人の刑事がやって来た。ベテラン、そんな言葉がよく似合う風貌の男だった。


「志村、こいつの聴取は俺がやる。」


「蒲田さん!わざわざ蒲田さんがやらなくても!証拠は揃ってます。俺でも大丈夫です。」


「いい。なんかこいつは、匂う。俺にやらせてくれ。」


「わ、わかりました。」


不服そうな声で承諾する。


やはり、疑いは僕にかかっていることが分かる。これは想定外の出来事だが疑いを晴らさなければいけない事は明白だ。

取調室に入ると、机の上には証拠と思われる物が乗せられていた。


「この紙、見覚えがあるよな。血で殆ど読めないが A Clocwark Orange よく分からねぇが。お前の指紋がついてる。」


これは中々面白い事になってきた。海外の小説は中々もいる機会はないが、この本は興味を惹かれて読んだことがある。小説を絡めて僕を犯人に仕立てあげたい様だ。


「どうなんだ。お前がやったんだろ!!被害者を爆発させた後意味のわからないメモを残し捜査を撹乱させたんだろ。」


「僕が犯人なら、自分が不利になるっような証言はしません。それに爆発音がしたのは、僕らが走っている頃です。」


「そんなのは、どうとでもできる。」


「刑事さん、『時計じかけのオレンジ』知っていますか。」


刑事は予想通りの顔をして予想通りの質問をしてきた。


「知らない。それが事件と何の関係がある!」


「そのメモの和訳です。1962年イギリスの作家アンソニー・バージェンスが著した小説です。元々は、ロンドン東部で使用されていた俗語Queer as a Clockwork Orange が元になった言葉です。」


「だからなんだ。その小説が好きだから書いたのか。」


「意味は、表面上はまともに見えてるが、その中身はかなり変という事です。犯人は表面上至って普通である可能性が高いです。」


それでも刑事は、僕に容疑をかけたままだった。


「言い逃れしてねぇで認めろ!」


「では、説明してください。僕があの人を殺した動機と人体を跡形も無くばら撒いた理由を。」


「それもこれも、お前が吐けば分かることだ。」


それからは、僕の予想を話す事にした。本当かどうかは正直どうでもいい。あくまで想像の中で一番面白くストーリー性が高い尚且つリアリティーのある僕の短編小説を。


「ここから話すのは、あくまで僕の予想です。僕の疑いを晴らす為の。」


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