第26話 嘘も方便、立場が入れ替わったでチュウ~。

 俯く素振りを不思議そうに見つめ、制約という意味深な内容に耳を傾ける陽向ひなた。しかし、いつまで経っても理由を述べず、陽日はるひは煮え切らない態度で言葉を濁していた…………。


 すると――、これに痺れを切らせたのか、陽向ひなたは声を荒げて事情を問いかける。



「――何だよ制約って、もったいぶらず早く言えよ!」

「ちゅぅ、いいのですか? お話しても」


「とにかく、事情を聞かねー事には、何も始まらないだろ」

「ちゅぅ、そうですね。では要点だけをかいつまんで、ご説明したいと思います」


 陽向ひなたは苛立ちながらかすように告げると、陽日はるひは重たい口調で答えようとする。


「ちゅぅ、先ほど申しました制約。これには、天界で定められた規則というものがあって、秘密を洩らした者には容赦なく罰を下す。対象者には、こうした処分が課せられています」


「ばっ、罰?」

「ちゅぅ。といっても、肉体に苦痛を与えるような体罰ではありません。ただ…………」


 陽日はるひの口から出た驚くべき事実。この言葉に反応を示す陽向ひなたは、表情をこわばらせ耳を傾けた。


「たっ、ただ、何だよ?」

「ちゅぅ。それよりも先ず、なぜ僕が他言無用と念を押していたのか? この意味をもう一度、思い出してもらえませんか」


「意味? 確か……お前が危険に遭わないよう、意図的に計画されていた。そんな内容だったと思うが?」

「ちゅぅ、その通りです。つまり二人の秘密がバレてしまえば、少なからず僕の身も危険に晒されてしまう。そうならないための、制約ということですね」


 陽日はるひは、淡々とした面持ちで言葉を交わす。しかし、その口調とは裏腹に、状況はとても深刻なもの。もし秘密を第三者に知られてしまった場合、罰として何かしらの制裁が加えられるという。といっても、現段階では、具体的な内容までは明かされていない。


 これに思わず生唾を飲み込む陽向ひなたは、慌てた様子で口を開く――。


「ちょっ、ちょっと待ってくれよ! そんな話、俺は何も聞いていないぞ」

「ちゅぅ、当然です。他言無用といえば、普通は誰にも言わないでしょう。しかし、父さんはあっさりと話してしまった。なので、残念ですが処罰は仕方ありません」


「しっ、仕方がない? ――とっ、とにかくだな、俺に課せられた罰って、一体なんなんだ?」

「ちゅぅ、それはですね。一人に秘密を漏らすごとに、一年の寿命を失うことになる。加えて、僕に対する暴言も減点。よって、マイナスが一定値を達した時点で、もう一年追加となります」


 この説明に思わず唖然とする陽向ひなただが、次第に事の重大さを理解したのか顔色が青ざめていく……。


「寿命を失うだって?  そんな馬鹿な話があるか! っていうか、学校じゃあるまいし、減点って何様のつもりだよ!」 

「ちゅぅ? 今のは、僕に対しての暴言ですか?」


「あっ、いや……これは暴言じゃなくて。天界にも素晴らしいシステムがあるんだなぁーと、感心していたんだよ。はは……ははは……」

「ちゅぅ、まあいいでしょう。最初に説明しなかった僕も悪いので、今の言葉もなかったことにします」


 乾いた笑いで状況を誤魔化し、何とかその場を取り繕うことに成功する陽向ひなた。とはいえ、寿命が一年縮んだという事実は変わらない。これに動揺でもしているのか、額からは大量の汗が滲み出ていた。


「んっ? いま……言葉もって、言わなかったか? それって、つまり……」

「ちゅぅ、お察しの通りです。今回ばかりは目をつぶり、天界には報告いたしません。なので、寿命を奪うことは無効とします」


「ほっ、本当か!」

「ちゅぅ。但し、1つだけ条件があります。加えて、これについての余計な詮索はしない。これが僕からの提案すべき決定事項です」


 安堵の表情を浮かべる陽向ひなたは、思わず胸を撫で下ろす。けれど、陽日はるひの条件付きという部分に、まだ安心は出来ないでいた…………。

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