第25話 成功か? 失敗か? どっちでチュウ?

 こうした無愛想な素振りに対して、陽日はるひは根気よく話を続けた。しかし、状況は変わらず素っ気ない態度。それでもめげずに、理解を深めようとした矢先。陽向ひなたはだるそうにしながら、結論を求めるように口を開く……。


「じゃあ聞くけどな、小動物の脳を人間に近づける話。結局のところ、ネズミは人の言葉を理解出来ているのか?」

「ちゅぅ……研究結果の結論を申せば、感受性が高まることだけは分かっています。けれど、未来の技術を持ってしても、実現には至っていません」


「実現していない?」

「ちゅぅ、そうです。なぜなら、人間の精神を転送でもしない限り、ネズミが何を考えているのか検証出来ないからです」


 陽日はるひは自らの見解を述べ、現段階では不可能であることを伝えた。


「つまり最終的な判断は、ネズミの体に意識を移さなければ確証は得られない。だが実験を行うには、データーや技術不足。また、少なからず危険も伴うゆえの断念。要は、こういうことだろ」

「ちゅぅ、おっしゃる通りです。だから、研究の結果が成功なのか失敗なのかは、分から…………いや、待てよ。今まで気付かなかったけど、これって……成功してるんじゃないのか?」


「んっ?」

(だとしたら……誰が遺伝子操作を行ったというんだ? この世界に、高度なゲノム編集ができる研究者はいないはず。唯一考えられる人物といえば、智哉ともやさんしかいないが……果たして、高校生にそんな事ができるのであろうか。ましてや、高性能の機材が揃っていなければ、検証どころか研究すら不可能な話。あんな高額な装置と技術。何者かが援助や知識などを提言しない限り、この世界での実現は万に一つもありえない…………)


 ふと何かを思い出した陽日はるひは、智哉ともやが関わっていることを再び疑った。しかし、いくら考えても答えに辿り着くことが出来ない。そもそも、何のために遺伝子操作を研究する必要があるのか。その目的が不明なため、困惑した表情を浮かべていた。


 こうした疑問に苛まれている中――、陽向ひなたは気怠そうにしながら口を開く……。


「おい、何をごちゃごちゃ言ってんだ!」

「ちゅぅ、何でもありません。僕のひとり言なので気にしないでください」


「ってことは、これから研究が進んだとしても、未来の状況は何一つ変わっていないってことだよな?」

「ちゅぅ、結論を述べればそうですね」


 陽向ひなたは自らの見解を述べ、研究の現状を再確認。これに対して、陽日ひなたは来たるべき未来を淡々とした口調で答える。


「ほらみろ、だから俺が言ったじゃねーか。どんな風に未来が見えているか知らねえけど、そんな馬鹿馬鹿しい話は夢物語。確証でもなけりゃ、信じるなんて出来やしないだろ」

(ちゅぅ、確かに父さんの言う通り……でも実際のところ、実験は成功してるというのになぁ……。まあ、まともに話をしても理解してくれそうにないだろうけどね。……ということは、やっぱりキューピッドとして説明した方が正解だったってことだよな)


 返された言葉に対して、自信満々な面持ちで勝ち誇る陽向ひなた。そんな態度を見た陽日はるひは、残念そうに言えないもどかしさを心の中で囁いた……。


「どうした、さっきから黙り込んで? 俺に論破でもされて、落ち込んでいるのか?」

「ちゅぅ、そうではありません。そのことについては、希望も見えましたし納得もしています。なので、僕の中では既に解決しました。ただ……どうしても1つだけ気になることがあるんです」


「気になること?」

「ちゅぅ、先ほど父さんは『一人に話すも二人に話すも結果は同じこと』こう言いましたよね」


 陽向ひなたは深く考えず、軽い気持ちで発言したことを思い出す。しかし、その意図を理解できずにいると……。暫くして、陽日はるひの表情は硬く思いつめた雰囲気に変わる。


「ああ。そう言ったが、なにか問題でも?」

「ちゅぅ、じつは……あの時に沈黙していたのは、迷っていたからなんです」


「迷っていた?」

「ちゅぅ、そうです。ある制約のことについて、話すべきか話さないべきか…………」


 陽向ひなたは疑問を浮かべ、何を迷っているのかを尋ねた。この言葉に対して、陽日はるひは悩ましい様子で重い口を開き、自らの考えをゆっくりと説明するのであった…………。

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