第17話 二人の心を繋ぐメッセージ

 陽向ひなたは困惑した面持ちで、頭を抱えながら考え込んでいた。それもそのはず、いきなり父親呼ばわりされても、納得できるはずもない。けれど、ここで諦めるわけにはいかないと、陽日はるひは説得を試みることにした。


「ちゅぅ…………」

「――ったく、分かったよ。呼ばせてやるから、悲しそうな顔すんなよ」


 つぶらな瞳で見つめられ、さすがの陽向ひなたも根負けしたのだろう。渋々といった様子で承諾すると、少し照れくさそうに顔を背ける。


「ちゅぅ、ほんとですか」

「ああ、好きにしろ。奇妙な感覚だが、ペットを飼ったとでも思えばいい」


「ちゅぅ……ペット?」

「んっ、なんだ? 不満でもあるのか」


 陽日はるひの言葉を聞き逃さなかったのか、陽向ひなたは鋭い視線を向けて問いただす。


「ちゅぅ、そんなことはありません。むしろ前進したことが嬉しいぐらいです」

「嬉しい? ふふっ、さっきから変なやつだな。なんか、お前を見ていると妙な気分だ」


「ちゅぅ? 妙な気分」

「そう、お前とは初めて会ったはずなのに、ずっと前から一緒にいたような気がするよ」


 不思議そうに、思い浮かんだことを口にする陽向ひなた。その光景は、まるで未来の関係を知っているかのよう。こうした想いに心を打たれ、陽日はるひの脳裏には様々な思い出が駆け巡っていた……。


「ちゅぅ、父さん…………」

「えっ? おいおい、泣かなくてもいいだろ。もしかして、気に障るようなことでも言ったか」


 陽向ひなたは驚いた様子で、慌ててハンカチを取り出し涙を拭う。この優しさに触れた瞬間――、陽日ひなたの瞳からは積年の想いが一気に溢れ出す。なぜならそれは、母親を失ったばかりの頃に、父親がいつもしてくれていた行動だったからだ……。


「ちゅぅぅぅ、ちゅぅぅぅ…………」

「おっ、おい、大丈夫か」


 この行為こそが、親子の絆を育む大切な思い出。辛いときに支えてくれた温かな想いがよみがえる。けれど、今は感傷に浸っている場合ではない。なぜなら、時間との勝負であるからだ。こうしている間にも時間は刻々と過ぎ去っていく。


 タイムリミットは残り僅か、気持ちを切り替え本題に入るしかない。


「ちゅぅ……いま思えば、随分と遠回りをしました。でも、こうしてまた出会うことが出来た。だから僕は、もう絶対に諦めたりなんかしません。この先なにがあろうと、必ずや父さんを導いて見せると誓います」

「……あっ、あのさぁ、急にどうした? やっぱり俺、なにか悪いことでも言ったのか?」


 突然にも声を張り上げる陽日はるひは、涙を拭う手に触れながら語りかける。この姿に驚いたのか、陽向ひなたは目を丸くしながら問いかけた。


「ちゅぅ、今のは気にしないでください。これは僕なりの決意表明なので」

「決意表明……? まあ、よく分からんが、追求しないでおこう。それよりも、さっき言ってた本題というのは、ひょっとしてサポートについてのことか?」


 おかしな態度を魅せる陽日はるひの様子に、あまり深入りしない方がいいと判断したのだろう。陽向ひなたは話題を変え、先ほど話していた内容の続きを聞き出そうとする。


「ちゅぅ。といっても、相手はまだ決まっていないので、これから探していく段階になりますけどね」

「これから……か」


「ちゅぅ。ですが、安心して下さい。最も相性が良い相手というのは、アモール様からメッセージとして頂いております」

「メッセージ?」


 といっても、アモールというのは陽日はるひが創造した神話のイメージ。よって、メッセージの内容も本人が創り上げたものである。


(ちゅぅ……さてと、ここからが本番だ)


 陽日はるひは気を取り直して、真剣な眼差しを向けながら話し始める。


「ちゅぅ、そうです。それは心に染み入る素敵な言葉。その先に見える未来を読み解いた時こそ、父さんが望む想い人と結ばれるでしょう」

「想い人ねえ……。――で、それってどんな言葉なんだ」


「ちゅぅ。それはですね、ただの言葉ではありません。二人の心を繋ぎとめる運命の言魂ことだま。これから丁寧にお伝えしますので、よくお聞きください」


 こうして陽向ひなたに伝えようとした魔法のような言魂ことだま陽日はるひは想いを伝えるべく、期待を抱きながらゆっくりと語り始める……。


に浮かぶ太陽の光。

 このかい咲く一輪の花。

 花は恋心を唄って魅せた。

 

 その美しい響きは、にも届く優しい色。

 花の名前は、向という。

 

 太陽を眺めながら、を呟いた。

 私はあなただけを見つめていると……』



 ゆっくりと伝える言葉は心に響く音色。それは想いの形を創り上げる未来の言魂ことだま。このうたを読み解き意識することで、願いは叶うという。


 こうして、この先に待ち構える因果を変えるため、ネズミが陽向ひなたを導くという奇想天外な作戦。一匹と一人が手を取り合い、世にも奇妙な日常が幕を開けた瞬間であった…………。

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