第16話 二人の幸せな笑顔をもう一度見てみたい
では何故、過去にきてまで両親を引き合わせようとするのか。これには、
そもそも当初の計画というのは、父親の体を依り代として恋を成就させるというもの。これなら対象者にも近づき易く、自身の心を意のままに操ることが簡単である。しかし、想定外の出来事により、事態は思わぬ方向へと進んでしまった。
たしかに、ネズミの体に憑依したならば、父親の体は安全であるに違いない。とはいえ、そこから二人を導くとなれば、気持ちを繋ぎとめるのは至難の業。ましてや、会話の中で登場したキューピッドというのは、なんの役にも立たない全くの噓。
よって、打開策も思い浮かばず、八方ふさがりの状態。おどけて魅せていたのは、打つ手がなく思案していたからだ。こうして、ついに万策も尽きかけ、諦めかけようとした瞬間――。
(ちゅぅ……いや、待てよ。当初の計画は駄目だったが、この方法だったら行けるんじゃないのか。問題は山積みだが、希望ならある。さっき父さんは、母さんのことが気になると言っていた。絶対にあの表情は、好きに決まっている)
というのも、幼少期より一緒に過ごしてきたのであれば、何かしらの進展があってもおかしくはない。ところが、今の今まで何もないというのは、思いを伝えられていないだけ。こう考えるのが適切であると判断できるだろう。
この原因として考えられるのは、一言でいえば性格の問題なのかも知れない。
なぜなら、未来の両親をよく知る
自ら進んで行動に移してくれれば、なにも考えることなく話は早いのだが。
「ちゅ、ふふっ、ふふふ。ありました、ありましたよ、1つだけ」
「んっ、なんだ? 急に笑いだして、気持ち悪い奴だな」
「ちゅぅ! 未来を変えずに、未来を変える。本当のキューピッドになればいいんです」
「はぁ? ついに頭でもおかしくなったか?」
「ちゅぅ。そうと決まれば、さっそく本題に入りましょう」
「本題?」
「ちゅぅ、そうです。――と、その前に、1つお願いがあるのですが」
「それってまさか、俺に無理難題を押し付ける気じゃないだろうな?」
「ちゅぅ、そうではありません。ただ、初めて会った時のように、父さんと呼ばせて欲しいのです」
「父さん? そりゃ、どういう意味だ」
「ちゅう? それは、最初に説明したじゃありませんか。この依り代が
「それは確かに聞いたが、でもなぁ……」
動物が最初に見たものを親だと認識してしまう。こうした刷り込みは、誰でもよく聞く話だ。しかし、実際に言われてみると、違和感があり釈然としない。そんな状況に、
「ちゅぅ。僕だって、
「気持ち悪い? 俺からしてみれば、お前に父さんと呼ばれる方が気持ちが悪いってもんだ!」
「ちゅぅ、でも仕方ないじゃないですか。体の持ち主が脳裏に訴えかけてくるんですから。なので、そこをどうにか、お願いできませんか?」
「どうにかって、言われてもなぁ……俺はお前の父親じゃないし……」
これに対して、困り果てた様子で視線を逸らす
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