第14話 時代遅れの恋愛観

 突然にも言い放たれた衝撃的な事実。この発言によって、陽向ひなたは驚愕のあまり言葉を失っていた。まさか自分が人々を守るなど、思っても見なかったからだ。加えて、未来を変えるという行為が非現実的であり、実行できないと決めつけていたからだろう。


 しかし、この証言が嘘でないことは、陽日はるひの表情を見れば明らかである。なぜなら、陽向ひなたを見つめる瞳は真剣そのもので、冗談を言っているようには思えなかった……。


「…………えっと、聞き間違いじゃなければ、俺が人々を救うって言ったか?」

「ちゅぅ、そう言いましたが、何か?」


 啞然とした面持ちで戸惑いながら聞き返す陽向ひなた。これを受けた陽日はるひは躊躇うことなく頷いてみせる。


「いやいやいや、俺には無理だろ。イジメられてる奴も救えない、ただの根性なしだぜ」

「ちゅぅ、そんな風に言わないでください。僕にとって、とう――。いえ、陽向ひなたさんは、偉大な存在なんですから」


 陽向ひなたから否定的な意見が飛び出すと、陽日はるひは反論するように力強く答えた。というのも、この発言は嘘偽りなく真実であり、これからの未来を大きく左右するからだ。


「じゃあ、聞くけど。どうやって人々を助けるのか、具体的に教えてくれよ」

「ちゅぅ……と言われましても、詳しい内容は明かすことが出来ません」


「できない? なんでだよ! お前は未来が予見できるキューピッドなんだろ。俺を導いてくれるんじゃなかったのか?」

「ちゅぅ。確かに、そうは言いましたが……。しかし、あまり深く言及してしまうと、未来が大きく変わってしまいます」


「じゃあ、どうすればいいんだよ」

「ちゅぅ、そのお話については、本当に申し訳ありません。ですが、1つだけ知っておいて下さい。もしこの計画が失敗すれば、沢山の人々が死に絶えるかも知れません」

「死に……絶える?」


「ちゅぅ。ですから、それを回避するためには、寄り添える相手が必要なんです」


 陽日はるひは実際に起こり得る事実を説明をすると、陽向ひなたから視線を逸らしながら俯いてみせる。残念なことに、全てを教えることは出来ない。というのも、未来の情報というのは、非常に危険であり扱いが難しいからだ。


 加えて、こうした事情はさることながら、何よりも人々を救うにはある条件が鍵とされた……。


「寄り添える相手? それって、どういう意味だ」

「ちゅぅ。つまり陽向ひなたさん一人では、未来を切り拓くのは不可能なんです。なぜなら、共に支え合う相手を想えばこそ、最後まで成し遂げることが出来るというもの。それを結びつけるのが僕に与えられた使命。果たさなければならない目的なんです」


 この発言で分かるように、未来をより良い方向へ変えられるのも事実。けれど、その事情を伝えてしまえば、状況を更に悪化させてしまう恐れがある。すなわち、恋を成就させなければ、日本という国は衰退し人口も減り続けるだろう。


 それは同時に、人々の命が失われることを示唆していた。よって、伝えれないもどかしさを感じながらも、陽日はるひは淡々とした様子で説明を続けることにする。


「つまり……お前が探し出した相手と恋仲になれば、俺の未来は切り拓けるってことだな」

「ちゅぅ、その通り。理解が早くて、助かります」


「そっ、それで……その相手というのは、もう決まっていたりするのか?」

「ちゅぅ? 急に改まって、どうかされたのですか」


 陽日はるひが状況を説明している最中、なにやら陽向ひなたは落ち着かない様子。何度か視線を彷徨わせては、口ごもる素振りで目を逸らす。その態度はまるで、意中の相手でもいるかのようであった。


「あっ、いや……さすがにコミュ障の俺でも、選ぶ権利ぐらいはあると思うんだが……」

「ちゅぅ? もしかして、すでに相手がいたのですか?」


 頬を赤らめながら、陽向ひなたは恥ずかしそうに視線を逸らして呟いた。どうやら図星だったらしく、動揺しているのが一目瞭然である。


「そっ、そ、そんな奴なんているわけないだろ! いないけどな、普通はお互いの事をよく調べてから…………それから、それからだなぁ……」

「ちゅぅ……まったく、どれだけ古いくさい考え方なんですか」


 陽向ひなたの回答に、思わず呆れてため息を漏らす陽日はるひ。というのも、この発言は時代遅れの恋愛観であり、平成生まれからしてみれば有り得ない考えであった。そもそも未来での出会いというのは、SNSといったツールによって簡単に知り合える世の中。


つまり、相手を知るために、時間をかける必要はないということだ…………。

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