第13話  神からの啓示

 陽日はるひ陽向ひなたの発言に頷くと、一呼吸おいてから話を続けていく。まず最初に伝えたのが、少子化に伴う人口減少についてである。これは言葉通りであると同時に、未来を予見する上で最も重要な意味を持っていた。


 けれど、ここで注意しなければならないのは、子供だけの論点ではないということ。なぜなら、この現象によって、働き手が減り経済が停滞してしまうからだ。つまり、国や世界といった規模にまで影響を及ぼす問題であり、決して無視できないものである……。


「ちゅぅ。では、ご指摘頂いたことについて、まずこの先の情勢についてお話します。これから世界の人口というのは、80億人という莫大な規模にまで膨れ上がります。そして経済は急成長を遂げ、人々の暮らしは安定した豊かなものになるでしょう。しかし――」

「――ちょっと待て! それだと、俺の質問に対して違う方向に進んでいないか。なにより、暮らしが安定しているなら、何も問題ないと思うが?」


 陽日はるひが説明を続ける最中さなか陽向ひなたは言葉を遮るように口を挟む。それもそのはず、さき程から話が脱線しているように思えたからだ。


「ちゅぅ、まあ焦らずに聞いて下さい。それがそうとも言えないのです。何故なら、増加したのはインドや中国といった一部の国。日本は1億人を超えた時点から人口は減り続け、200年後には8000万人にまで落ち込みます。この意味、お分かり頂けますか?」

「意味? まあ、なんとなくだが……つまり税金や保険料の値上げによって、国民の負担が増えるということだよなぁ?」


 この話から分かることは、日本が世界有数の経済大国になったとしても、人口減少により税収は更に少なくなってしまう。すなわち、国民の負担が増えるのは必然であり、それを軽減するための政策が必要になってくる。


 よって、この先に起こる出来事は、国の繁栄ではなく衰退であった……。


「ちゅぅ、その通り。さすが首席で卒業しただけの事はありますね」

「首席で? まあ成績はいいが、見ての通り俺はまだ卒業なんかしていないぞ?」


「ちゅぅ……そっ、そうでしたね。申し訳ありません、僕の勘違いです」

「んっ、おかしな奴だな?」


(ちゅぅ……あぶない、あぶない。またボロが出るところだったよ。どうしても父さんと話をしていると、気持ちが緩んでしまうな)


 問いかけられた疑問の言葉に対し、陽日はるひは動揺しながら思わず口籠ってしまう。というのも、首席というフレーズは、これから起こる出来事であり、まだ実際には起こっていない事実。従って、未来の記憶を持ち合わせた者にしか、知り得るはずがない情報だからである。


 ゆえに、ネズミの正体が露見してしまえば、少なからず未来も変化してしまうだろう。だからこそ、絶対に知られてはならない秘密であった……。


「ちゅぅ。そんなことよりも、こうした人口減少は日本だけではありません。世界規模で起きている問題であり、その対策が急務となっているんです」

「なるほどな、話の流れで大体の事は理解した。――でだ、それが俺と何か関係あるのか?」


「ちゅう、おおありですよ!」

「おおあり?」


 今までの発言を払拭するかのような言い方。この言葉に対して、陽日はるひは声を大にして当然とばかりに答える。すると、陽向ひなたは不思議そうに首を傾げながら復唱した。そう、これから伝える話を聞けば、なぜ自分が選ばれたのか分かるはず。


「ちゅぅ、なぜなら…………」

「なぜなら?」


 陽日はるひは一呼吸おくと、大きく息を吸い込んでから話を再開する。そして、陽向ひなたを見据えながら核心に触れるように言い放った――。


「ちゅぅ。なぜなら、これから先の日本を変え沢山の命を救うのは、――東雲 陽向しののめ ひなた!! 紛れもない、未来の貴方なんですから」


 この発言は、陽向ひなたにとっては到底信じられないこと。だが、伝えられた言葉は紛れもない真実であり、これからの未来を予見した出来事であった。とはいえ、あくまでも可能性の話であって、必ずそうなるとは限らないだろう。


 しかしながら、未来は常に変動しており、何が起こるのかは分からない。ゆえに、こうした事実を突き付けられ、陽向ひなたは動揺を隠しきれず呆然と佇んだ…………。

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