第12話 神によって創られた世界の背景

 こうした突拍子もない事柄に巻き込まれた経緯。その始まりというのは、陽向ひなたが光の正体を突き止めたことから始まった。これにより、偶然にも人語を話すネズミと出会い、道理を学んでいく内にいつしか引き込まれてしまう。


 このように、陽向ひなたには知らないことが沢山あり、世の中は不思議な現象で溢れていた。といっても、陽日はるひが言っていたことは、全て想像によって創られた幻。現実の世界では実在せず、架空の生き物として語られてきた。


 しかし、そんな中でも確かなことは、小動物と慣れ合い言葉を交わしていた事実。まさか、この出会いが必然とは思ってもいなかっただろう。ゆえに、この話を聞いた陽向ひなたは、戸惑いを隠せず動揺の表情を浮かべていた……。


「ちゅぅ、その顔はアレですね。どうして自分なのか、もっと他に相応しい相手がいるのではないか? そんな心の声が聞こえてきそうです」

「そっ、そりゃそうだろう! 俺は屋上でサボっていただけだぞ」


 陽日はるひの言葉に理解が追い付いていないのか、陽向ひなたは納得いかない様子で反論してみせる。


「ちゅぅ、そう言われると思いましたよ」

「どういう意味だ?」


「ちゅぅ、つまりですね。この場所を決めたのは僕ではなく、神であるアモール様が意図的に決められました。なぜなら、余計な者達との接触を避け、外敵から身を守るためです」

「なるほど、だから俺に話しかけてきたと言うわけだな」


 この意味合いを変えれば、発言は偽りではなく真実。なぜなら、屋上を選んだのは未来の陽日はるひであり、神にたとえた自分であるからだ。


「ちゅぅ、その通り。中々、察しがいいですね。では、選ばれた理由もこれからお答えします」

「あ、ああ……」


 陽日はるひ陽向ひなたの発言を肯定すると、すぐさま話を切り替える。そして、真実を伝える前に確認すべきことがあった。それは、当の本人に自覚があるかどうかである。というのも、この恋を成就させるには、人並み外れた努力と苦労が伴うもの。


 その最たるものが時間であり、恋仲との間柄を進展させなければならない。けれど、ここで大きな問題が生じるのも確かで、陽向ひなたが恋愛に対して積極的ではないかも知れない。従って、異性に対して傷つくことが怖く、奥手の可能性だってある。


 もしそうであるならば、致命的な欠点となり得るだろう……。


「ちゅぅ。では初めに、どうして僕たちのようなキューピッドが生まれたのか。その作られた背景を簡単にご説明いたします。まず1つ目は、対象者を適切にサポートするため。そして2つ目は、この国の人々を守るため。こうした一対いっついの事柄が、僕達に与えられた使命です」

「はぁ? 人々を守るって、恋愛のサポートによってか」


「ちゅぅ、そうです」

「そうですって、そんな話は全くもってありえんな。所詮はキューピッド、何をどうやって人々を守るんだ」


 確かに、恋愛の手助けをする者が人々を守るなどおかしな話。陽向ひなたが言うことも一理あるが、これにはちゃんとした理由があった。


「ちゅぅ、中々いい質問ですね。では未来が変化しない程度に、少しだけ触れてみたいと思います」

「未来?」


「ちゅぅ、最初に言いましたよね、僕はアモール様から遣わされたと。言ってみれば、この先の未来を予見するがことが出来るんです。といっても、大きな出来事のみで、個人的なことは分かりませんけどね。とにかく、我々の目的は少子化に伴う人口減少を抑えることなのです」

「つまり……人口を減らさないために、男女を結びつけていると?」


「ちゅぅ、おっしゃる通りです」

「まあ、言いたいことは何となく分かった。だが、守るってことに、どういった意味で繋がるんだ?」


 陽日はるひの説明に理解を示す陽向ひなた。とはいえ、まだ全てを把握できた訳ではないのだろう。その証拠に、話の核心を突く質問をしてきた。それは当然の反応であり、ここで言葉を間違えれば全てが台無しになってしまう。


 だからこそ、この問いかけにも慎重に答えなければならなかった…………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る