第9話 恋のキューピッド
ネズミの体に憑依してから、幾度となく繰り返される校内放送。早く父親を見つけなければ、帰宅してしまう可能性がある。もしそうなれば、一夜を巣箱の中で過ごすしか他ならない。けれど、それはあまりにも危険性が高く、天敵は猫以外にも多く存在した。
ゆえに、一向に父親の姿が見えないことに、
だからといって、先ほどから何もしていない訳ではなかった。フェンスへ駆け上がり探してはいるが、見つけられないだけである。というのも、人であれば屋上の端ぐらいまでなら視認することは容易かも知れない。しかし、これが小動物の視覚ともなればどうであろう。
ネズミの視力というのは、人間の50分の1。加えて、色も識別できないリスクを抱えている。これにより、近くまで行かなければ、父親と断定するのは非常に難しい。従って、
そんな時――、背後から聞き覚えのある声が耳に入ってくる。
「なんだ、なんだ! さっきの眩しい光は?」
それは懐かしい人物の声であり、導かれるように振り向くと……。なんとそこには、若かりし頃の父親がいた。風貌はというと、程よい長さの黒髪に身長は175センチほどの体格。やや痩せてはいるが、ひ弱な感じではない。
どうやら屋上の異変に気づき、様子を見にきたようだ。この運命的な出会いに、
ところが、驚きのあまり目を大きく見開いた
「ちゅぅ…………父さん」
「父さん? なに言ってんのお前。なんで俺が…………えっ――!! いま喋らなかったか?」
(ちゅぅ、――しまった!)
「おっ、お、俺は……夢でも見ているのか?」
ネズミの体に憑依した事実を忘れ、無意識に言葉を発していた
まるでその光景は、天に祈りを捧げる仕草であり、神へ願いを届けるかのような口調で話す。
「ちゅぅ、どうやら驚かれているようなので、簡単な自己紹介でもしておきましょうか。僕の名前はハールヒン。偉大なる愛の神、アモール様から遣わされた恋のキューピッド。見た目はこんな感じですが、人語を話すなど造作もないことなんです」
「恋のキューピッド?」
事前に用意していた言葉を並べる
それもそうだろう。ネズミが人語を話し始めれば、誰だって驚くはず。しかも恋のキューピッドなどと言われれば尚更である。とはいえ、何としてでも信じさせなければ、ここで計画された目的は終了してしまう。よって、強引だと分かっていたけども、動揺を隠しながら話を続けることにした。
「ちゅぅ。そうです、報われない人達の恋を繋ぐ救済者。それが僕たちキューピッドです」
「って、言われてもなぁ……お前ネズミだろ。キューピッドっていったら、少年の背中に羽が生えていて、弓矢を持っているのが普通じゃないのか?」
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