第6話 幸せだった頃の記憶
こうして転送手順を打ち明けたあと、暫くして喫茶店を後にする二人。タクシーを手配して、研究施設に向かうこと一時間。ようやく目的の場所へたどり着くと、
中でも
そして今回の実験に使われる機械というのが、先ほどから際立った雰囲気の転送装置。これに軽く触れながら、切なそうな面持ちで眺める
「坊ちゃま、今ならまだ間に合います。どうかもう一度だけ、お考え頂けないでしょうか」
「
「賭け? 喫茶店での言葉もそうでしたが、坊ちゃまは何をしようとしているのですか? この転送は、両親に会うためのもの。そう仰ったから、私は仕方なく受け止めたのですよ。一体、賭けとはなんのことですか!」
「申し訳ありません。それは
「出来ないとは、どうしてですか?」
「これは、僕にとっての
この
「分かりました。話せないということは、なにか深い事情があるのでしょう。ですが、私も馬鹿ではありませんからね。坊ちゃまが考えていることは、ある程度の察しはついています」
「もしかして、いまの内容からですか?」
「ええ、それ以上は言わなくても結構ですよ。願いが消えてしまっては、元も子もありませんからね。ただ、私から一つ言えるのは、必ず生きて帰って来て欲しいということです」
「
「坊ちゃま、そちらの状況はどうですか?」
「はい、こちらは問題ありません」
室内でのやり取りはせわしなくあるも、二人の表情は真剣そのもの。それもそのはず、失敗すれば命の保証はおろか、目的も果たせなくなるからだ。ゆえに、二人は綿密な打ち合わせを行った上で、プログラムの入力に着手していた。
そして、開始から数時間が経過した頃。最終調整は残りわずかとなり、いよいよ試験実施の時を迎えることになる。
「よし、OK! これで全てのプログラミングは完了しました。あとは、坊ちゃまが座標を入力するだけですよ」
「ありがとう、
《ピピッ》
パソコンから電子音が鳴り響き、画面には座標軸が表示される。どうやら無事にプログラムの入力が終了したようだ。
「では、坊ちゃま。ご武運をお祈りしています」
「
「ええ、楽しみに待たせてもらいます」
二人は互いの手を取りながら、別れを惜しみ挨拶を交わす。この後、
「では、準備はいいですか! システムの起動に移りますよ」
「はい、お願いします」
「父さん……母さん……」
小さな声で切なそうに両親の名前を口ずさむ
こうして眠るように横たわる
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