第5話 最後にもう一度、幸せな姿が見てみたい……。
母親の死から数年……。
この間に、沢山の悲しい現実に直面してきた
「事情はよく分かりました。それで、坊ちゃまのお願いというのは、一体何なのでしょうか?」
「それは……転送装置についてのことです」
「転送装置?」
「はい。それを今夜、試験的に実施しようと思います」
この話しを聞いて、
「実施? といっても、あれはまだ未完の装置ですよ。それに試験的にって、誰を対象にするおつもりですか?」
「それについてなんですが……こんな事、
転送装置の試験実施。対象は動物実験では不可能であり、検証を行うには人でなければ裏付けすることが出来ない。それゆえ、この開発は画期的な発明ではあるも、上手く軌道に乗らず難航していた。
「もしかして……坊ちゃまご自身が、とかではありませんよね?」
「いえ、そのもしかしてです」
「なりません、坊ちゃま! 今の状態で意識を転送すれば、脳が破壊されてしまう恐れがあるのですよ」
「ええ、それは重々承知しています。所詮は片道切符、二度と戻ってはこれないでしょうね」
原理は意識を転送し、過去の対象者へ移し替えるというもの。ただし、この方法には大きな問題点があり、肉体はその場に置き去りになってしまうこと。つまり場合によっては、脳死に繋がる可能性があるかも知れない。こうした危険性を説く
「でしたら何故!」
「それは……最後にもう一度、一目だけでも両親の幸せな顔が見てみたいのです。だから、どうか僕の我儘をお許しいただきたい」
両親の過去を想い馳せ、切なそうに笑みを浮かべる
「分かりました、坊ちゃま…………」
「本当ですか、
必死な姿に
まず必要なことは、転送を行うための下準備。これを行った上で、次に座標や時間軸をプログラムに入力。この二つが安全にクリア出来たことを確認し、カプセルに搭載されたシステムの起動に取り掛かるという。
「ですが……転送先の対象はどのようにするおつもりですか?」
「その件に関しては問題ありません。対象は僕の父親にお願いしようかと思っています」
「お父様にですか? しかし、それでは座標の特定が難しいのでは?」
「それなら問題ありません。僕には日記がありますからね」
「なるほど、お父様の日記とは、中々の名案ですね」
「はい、他人では意味ありませんからね。といっても、そこからが問題です」
「そこから?」
「いえ、なんでもありませんよ。ただの独り言です」
確かに座標を特定する上では、時間と場所は必須条件。とはいうものの、転送先を確認するだけなら現場でも十分であろう。ところが、
この様子に
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