第4話 微かに揺らめく心の灯火
店内はレトロな雰囲気が漂う落ち着いた空間。これを更に引き立てていたものがクラシック音楽。カウンター席の横には、年代を思わせる古いレコードプレイヤーが置いてあった。そこから聴こえてくる曲は、なんとも繊細で心を惹かれるような癒しのある響き。
この音色に包まれながら、二人は注文したメニューをゆっくりと待つ……。
「お待たせしました」
ほどなくすると、声と共に注文した品がテーブルへ運ばれてくる。それはこの店で人気の一杯。マスター特製のブレンド珈琲と、妻が手作りしたシフォンケーキである。その香りよい飲み物を口に含む
ごくりと喉の奥が音を立てた瞬間――、思わず目を見開き声をあげる。
「――美味しい! こんな美味しい珈琲を飲んだのは初めてです!」
「でしょう、坊ちゃま。マスターが淹れる珈琲は特別なんです。それに合うのが、奥様が作られるケーキ。どちらも一度召し上がると、癖になるんですよ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、頑張ってきた甲斐があるというものです。ですが……それもあと数日」
「数日? マスターどういうことですか?」
「じつは……病気のため、今月いっぱいで店を畳もうと思っているんです」
「そうだったんですね」
「ええ、私たち夫婦に子供でもいれば、店を継がせたんですけどね」
マスターは、どこか遠くを見つめるように語り続ける。それはまるで、昔を懐かしむような眼差しだった……。
「おっと! こうしてはいられない。別のお客様に、注文を聞きに行かなければなりませんでした。――では
「はい、ありがとうございます」
マスターは注文を受けるため、他のテーブル席へ水を運んでいく。そして再び、二人だけの時間を過ごす。そんな中――、暫くして
「
「相談ですか?」
突然の言葉に、
「はい。話というのは、これを
「それは……USB?」
「この技術があれば、きっと多くの命と科学の発展に繋がるはず。ですが……まだ開発途中の代物です」
「開発中?」
USBメモリを手渡す
「はい、僕が転送装置に時間をかけすぎたために、完成させることが出来ませんでした」
「それなら装置が完成した後に、一緒に取り組めばいいじゃありませんか」
装置の開発に時間を費やした
「だから言ったではありませんか、時間をかけすぎたと……」
「それは、どういう意味ですか?」
「僕はずっと、USBを持ち歩きながら渡す機会を窺っていました。いつ話せばいいか、いつ伝えるべきか」
「ちょっと待ってください。坊ちゃまは、さっきから何を言っているのですか?」
話す内容が理解できず、
「僕の命はあと僅か……末期がんなんですよ」
「末期……がん?」
「ですから、僕には時間がありません。なので、最後のお願いを聞いてもらえないでしょうか」
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