第2話 運命の決断

 それから、数年後…………。


 陽日はるひはというと、父親の面倒をみながら施設を立て直す機会を窺っていた。しかしながら、残された物は小さな建物と僅かな機材のみ。従って、医療システムやAIの開発には、とてもじゃないが着手できそうもない。


 そこで目を付けたのが、以前から進めていた転移装置の実用化。


 これならば、今ある設備でどうにか対処することが可能ではないのか。こう考えた陽日はるひは、すぐさま物体を過去に移す作業に取り掛かる。ところが、研究するにあたり、何よりも大きな課題が2つあった。


 その1つが最も問題視された時間軸との整合性。


 仮に成功したとしても、過去で誰かと接触すればタイムパラドックスが起きてしまう。つまり、個体を移動させた時点で次元に歪みが生じ、なにかの作用が時間を引き戻そうとするに違いない。


 そこで考え出されたのが、人自身ではなく精神のみを転送させるというもの。


 けれど、ここで重大なことが1つ。転送された先で依り代がなければ、その時代での生存は不可能にちかい。よって、過去に意識が送られたとしても、肉体の器がなければ消滅してしまう。もしこうした事態に陥れば、それこそ取り返しがつかないだろう。


 まず課題をクリアするにあたり、精神を移す人物を選定する必要があった。尚且つ、転送された先でタイミングよくシンクロせねば、融合は難しく危険と隣り合わせの状態。といっても、依り代になる者に死や怪我といった心配はなく、数ヶ月間だけ眠りについて貰うことになる。


 そして、もう1つの課題。こちらも中々厄介なことであり、現段階では商品化など夢のまた夢。とういのも、この装置には欠点があって、1度しか使用出来ない片道切符。


 ゆえに、意識を転送すれば、脳は破壊され現世の肉体も崩壊してしまうかも知れない。要するに、今のところは、安全性が確立されていない未完成品ということになる。


 加えて、研究を進めていくには、一人より二人の方が心強い。であるならば、今まで研究に携わってきた父親が適任であるも、既に生きる希望を失った廃人のような状態。それでも研究を進めるためには、どうしても誰かの手助けが必要だった……。


 そんな時――、声をかけてきたのが、西条 智哉さいじょう ともや


 かねてから、父親とは顔なじみであり、研究のサポートをしていた高校の同級生。ゆえに、見た目は老けているが、信頼されていただけあって腕は確かなもの。また、性格は温和で面倒見がよく、なによりも昔から両親との親交が深い。


 このような人物からの申し出により、陽日はるひは迷うことなく承諾することにした。こうして二人は手を取り合い、転送装置の開発に取り組むことになったのだが……。


 やはり父親の助けなくしては、一筋縄ではいかず困難を極めていた。それでも、諦めることなく陽日はるひは前向きに取り組もうとする。ところが、またしても不幸な出来事が襲い掛かる。それは介護施設からの連絡により、父親が手首を切り自殺をおこなったというもの。


 この知らせを受けて、慌てて病院へ駆けつける陽日はるひ。幸いにも発見されたのが早かったことから、大事には至らず自殺は未遂に終わった。とはいえ、同じことが繰り返されないとも限らない。医者からも、父親の精神が安定するまで時間が必要とのこと。


 これらの事情から、陽日はるひはある決断を下すことにした…………。

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