🌷わたしが導く幸せな結婚~生と死の境界の中で……🌷

みゆき

🐭一章 未来という運命の扉を切り拓く。

第1話 懐かしの記憶

 母親は研究者、父親は科学者。


 こうした経歴を持つ偉大な両親の下で育てられた一人息子。名前は陽日はるひといい、母親から沢山の愛情と父親から豊富な知識を授かってきた。従って、息子は幼い頃から英才教育を受けてきたことにより、クラスではいつも優秀な成績を収めていたという。


 そんな陽日はるひが普段から過ごしていたのは、市内に建てられた大きな研究施設の一画。何故そのような場所で生活をしているのだろう。想像する限りでは、不思議に感じられるかも知れない。その理由というのは2つあり、両親の結婚についての事柄が重要だと考えられる。


 というのも、陽日はるひの両親というのは、早婚ではなく晩婚。二人はかねてからの知り合いだが、様々な事情によって式を挙げたのは三十を過ぎた頃。これにより、我が子の面倒をみながら職場へ2時間かけて通勤するのは一苦労。


 しかも、二人は研究者という立場から、日々の業務は多忙を極めていた。ゆえに、せわしない暮らしから脱却するべく、施設の一画に自宅を建設。もう1つの理由は、突然にも両親に持ち掛けられた共同経営の話。


 といっても、出資を提案した人物は、以前から交流のあった友人。一緒に機密プロジェクトを遂行していた職場の同僚でもある。そんな経緯もあってか、共に事業を進めていく上での職場であり、自宅のような研究施設といえた。


 こうして、幼い頃から両親の働く姿を見ていく内に、いつの間にか二十代後半を迎えていた陽日はるひ。大学を卒業してからは、二人の研究を手伝いながらシステムの開発に没頭する。その開発とは、世界に先駆けた医療技術やAIといった人工知能の導入であった。


 その類まれな才能には、周りの研究者たちからも一目置かれるほどの実力。両親からしてみれば、自慢の息子だったに違いない。特に父親からは期待が寄せられ、独自に進めてきた転移装置の開発も任せるほどである。けれども、楽しくも幸せな暮らしは長続きしなかった……。


 なんとも悲しき現実であろうことか、思いがけない不幸が家族を襲う。それは、突如として発生した未知の病原体により、母親の体は蝕まれ命を落とすことになる。とはいうものの、感染爆発も後を引き継いだ陽日はるひの手によって、数年後には混乱した状態も終息に向かう。


 このような事情もあってか、妻を亡くした父親は目的を失い悲観した毎日を過ごす。そんな中、更に追い打ちをかけた理不尽とも思える悲劇。共に事業を進めてきた北井 友二きたい ゆうじという人物の裏切りによって、会社を乗っ取られてしまう。


 これにより、残されたものは小さな建物と僅かな研究機材のみ。もう何を信じればいいのか、生きていく意味を見いだせなくなった父親。やがて瞳からは光が消え失せ、風貌はまるで亡者そのものであったという…………。

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