第24話成敗

江戸時代には、スマートフォンなんかは勿論、写真さえもまだ存在していなかったからなのだろう。たとえそれが子豚のスマホ画面の偽印籠だとしても、その効果は絶大だった。さっきまで光圀の事をクソ爺ぃ呼ばわりしていた悪人共は皆、地ベタに頭をこすりつけて跪く。完全に形勢逆転である。


それまでいじけてしゃがみ込んでいた光圀も、すっかり自信を回復していた。


「大目付の大隈!そして代官、山中与五郎~さらに越後屋兵部衛!幕府御禁制の鉄砲百丁を使って上様のお命を狙い、権力を手中にしようとしたお主達の企み、この光圀の耳にも届いておるぞ!」

「いえいえ、御老公様。我々そんな大それた事など、さっぱり身に覚えがございません!」


さすがに、自らの悪事を簡単に認めようとはしない悪代官達だが、そんな悪人共にシチローがとっておきの証拠を突きつけた。


「ええ~い!お前達!まだそんなシラを切り通せるかぁ~!」

『鉄砲百丁の手配はもうすぐ出来ます。ですがお代官様、本当にそれで上様のお命を頂戴するおつもりなんですか?』

『うむ…勿論だ。警護の薄い鷹狩りの時を狙う!そして、上様亡き後は大隈様の手腕によより、我ら側の新たなる派閥で幕府を仕切るという訳だ』

「ううっ!」


シチローの差し出したスマホ画面のその中にはあの夜、代官の屋敷で撮影された悪代官と越後屋の密談風景の動画がしっかりと映し出されていた。それを見た時の悪代官達の驚きようといったら、それはもう!


「こ!これはなんという事」


まったく信じられないといった顔付きで、目を手のひらでゴシゴシと擦る越後屋と悪代官。しかし、画面に映し出されているのは紛れもない自分達である。


「一体、何がどうなっているというのだ!」


遠山の金さんの桜吹雪ならばまだシラも切れるが、こんなリアルな動画を見せつけられればいくら悪代官達といえど、その事実を認めざるを得ない。


「ええ~い!もはやこれまで!かくなる上は!」


ヤケクソになった大目付の大隈が、積み荷の鉄砲に飛びついた。と、同時に悪代官の山中が火種になる“いぐさ”へと手を伸ばす。


「むっ、血迷ったか!大隈!」


素直にお縄を受けるものと甘く見ていた光圀達は、その予想外の行動に慌てた。


「うるさい!どのみち。もう、恐れるものなど何も無いわっ!」


大目付、大隈と悪代官、山中の最後の悪あがき!


そして、その黒光りする筒先は光圀の方へと向けられた!


「御老公!危ない!」


すかさず助さんと格さんが光圀の盾になるが、それではその三人もろとも格好の標的となるだけである。


「水戸光圀公!お命頂戴!」


…プスン………


「ありゃ……?」


大隈の構える鉄砲の先からは、不完全燃焼の情けない煙がひとつ。


「…何故こんなに湿気ているのだ……」


すると、しきりに首を傾げる悪代官達と相する

シチローの後ろからは、ひろきが申し訳なさそうに頭を掻きながら歩み出て言った。


「ごめんなさい。さっき、


「…………………………………参りました……」


かくして、天下を揺るがす一大事に発展するやもしれなかったこの三人の悪巧みも、水戸の一行と森永探偵事務所の四人の活躍によって無事未遂に終わらせる事が出来たのである。


「かっかっかっこれにて一件落着」










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