第20話偵察
夜のお江戸に
ねずみ小僧じろきち1号
ねずみ小僧じろきち2号
同じく、3号、4号!
「ああ~やっとこのコスチュームの似合うシチュエーションがやって来たわ」
子豚が嬉しそうに呟いた。
「あとで一緒に記念写メ撮ろうね、コブちゃん」
「コブちゃん…よくこんなの人数分持って来てたな…」
そんな五人が今宵目指すは、代官
「それじゃあ、天井裏で奴らの悪巧みを聞いてみようじゃねぇか」
「お~~っ!」
そんな掛け声の、声は潜めながらも、気持ちは高ぶる五人であった。
弥七の先導に従って、意外と簡単に代官屋敷の天井裏へと忍び込む事に成功する事が出来たシチロー達。薄暗く狭い天井裏から眼下を覗くと、そこには膳を挟んで対面する二人の男が見える。
「うまい具合に、代官と越後屋の密談する部屋の上に来たようだな」
入り口から遠い奥に座っている方が代官『山中与五朗』。そして、その前で揉み手をしながらやけに低姿勢で喋っているのが越後屋兵部衛である。
「まったく、山中様そして大隈様のこの度のご決断には、この越後屋、感服致しました」
「いや何…まだ事が上手く運んだ訳では無いからな…その為には何としてもお主の力で鉄砲百丁を内密に揃えてもらわねばならぬ」
鉄砲百丁とはなんとも穏やかではない話だ。それを聞いた天井裏の弥七の顔が曇った。
「こいつら一体、鉄砲なんかで何やらかそうってんだ?」
だが、その悪巧みの詳細はすぐに越後屋によって明らかにされた。
「鉄砲百丁の手配はもうすぐ出来ます。ですがお代官様、本当にそれで
上様のお命を頂戴するおつもりなんですか?」
越後屋兵部衛の口から、とんでもない言葉が発せられた。
「うむ…勿論だ。警護の薄い鷹狩りの時を狙う!そして、上様亡き後は大隈様の手腕により、我ら側の新たなる派閥で幕府を仕切るという訳だ!」
今、明らかにされた天下の一大事『将軍暗殺計画』!天井裏でその話を聞いていた弥七が、思わず生唾をごくりと飲み込んだ。
(こりゃあ大変な事を聞いちまったな…早く御隠居に報告しねえと…)
天井裏で険しい顔の弥七とは対照的に、下の二人は不敵な笑みをこぼす。
「ふっふっふっ…」
「いや、そうなればこの越後屋も、益々商いがし易くなると言うものです」
「はっはっは。越後屋~~お主もなかなか悪よのう~」
「いえいえ、お代官様ほどではありませぬ」
「わぁ~っはっはっは~~~」
まるで時代劇のワンシーンのような光景に、てぃーだが思わず呟いた。
「あれって、まさか台本があるんじゃないでしょうね……」
もしかしたら自分達がいるこの江戸時代も、コンピューター『mother』の作り出したバーチャルワールドの続きなんじゃないか…なんて事まで思い始めたチャリパイの四人であった。
時代劇でおなじみの、あの台詞で高笑いをしたと思ったら、その次は越後屋がこれまた定番のごとく代官に怪しい包みを差し出した。
「お代官様、これはつまらぬ物でございますが、甘いものなどお持ちしましたので、どうぞお納め下さいませ」
そう言って上品な藍色の風呂敷に包まれた四角い箱を差し出すと、越後屋は、にやりと上目遣いで代官を見る。その包みを受け取った代官は、それを自分の脇に置くとすぐさま包みを解き、箱の蓋を少しだけ開けて中身を覗く。
「ほほぅ…
箱の中には、代官の言う通り饅頭が整然と並べられていたが、思いのほか厚みのあるその箱は饅頭一段にしては大きすぎる。それに気付いてか代官は、何か含みを持たせる様に次の言葉を続けた。
「まぁ、美味そうな饅頭だが…儂は、この下に入っておる物の方が実は
もっと好物でな」
代官は、まるで最初からその中身が解っているような口ぶりでそう言って、饅頭の並んでいる一段目の底板を持ち上げ、にやけた顔でその下を覗いた。
「二段目は、白あんにてごさいます」
「……………………」
箱の二段目には上の饅頭と生地の色が異なる、別の饅頭が並べられていた。それを満面の笑みで説明する越後屋に、少し戸惑う代官。
「な…成る程、これは三段重ねになっておるのかな?……ならば、この下は当然……」
気を取り直して二段目の底板を持ち上げ、その下を覗く代官。
「その下はうぐいすあんにてごさいます」
「だわあああ~~~っ!こんなに饅頭ばっかり食えるかよっ!カネよこせってんだよ!カネ!」
さっきまでの笑顔はどこへやら、好物だと言っていた饅頭を越後屋に向かって投げつけながらキレまくる代官!
「ああ~っ勿体無い!落ち着いて下さい!お代官様!」
「うるせ~っ!ちょっとは空気読めってんだよテメエ~!」
呆気にとられてこの様子を見ていた天井裏のシチローが、ぽつりと呟いた。
「いやぁ…さすがにこの展開は時代劇には無かったな……」
♢♢♢
ここまで誰にも気付かれる事なく、天井裏で悪代官と越後屋の密談を聞いていた弥七とチャリパイだったが…ここで、あるハプニングが発生した。
「これは相当ヤバイな……」
突然、弥七が険しい顔でそう呟いた。
「確かにこれは天下の一大事だな…弥七さん」
シチローはてっきり弥七が密談の内容の事を言っているのかと思ってそう答えたのだが、実はそうでは無かった。
「屁がしりたくなった……」
「……は?」
弥七のその言葉に、皆の目が点になった。
「ちょっと!こんな狭い所でオナラなんてしたらどうなるか判ってるの?」
「オナラなら、外に出るまで我慢しなさいよ!」
「アンタそれでも忍者かっ!」
苦しそうな表情の弥七に集中砲火が浴びせられるが、弥七の腹は既に限界を越えていたらしい。
「『出もの腫れもの所選ばず』だ!失礼!」
「ええ~~っ!そんなぁ~~!」
ぷうぅぅぅ~~っ!
──しばらくお待ち下さい──
…チャポン…
「お銀よ」
♢♢♢
「さっきの『お銀の入浴シーン』は何だったんだ!」
「くっっせえぇぇ~~っ!」
狭い天井裏に充満した、あまりの臭いニオイにチャリパイの全員が悶絶した。
ガタン!
「むっ!上に誰かおるぞ!」
天井裏での大騒ぎで、さすがに代官達もその異常に気が付いた。
「天井裏に曲者が潜んでおるぞ~っ!皆の者出合え~~い!」
「ヤバイ!バレちゃったよ!」
「確かにクセ者には違いないわね…私達」
「くだらない事言ってないで逃げるぞコブちゃん!」
鼻を
「まったく…どうしてアタシ達っていつもこうなるのかしら……」
屋敷の者の叫び声を背中に浴び、夜の町を走りながら、てぃーだは呆れたようにそう洩らすのだった。
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