第17話勝利の果てに
宿敵『mother』を倒し、無事にバーチャルワールドから現実の世界へと戻る事が出来た、チャリパイと凪の5人。
「…だからさ…最後はオイラのアッパーカットが決め手だった訳よ」
「違うわよ!私とひろきの攻撃でとどめを差したんだからっ!」
研究所でシチローと子豚は、最後の一撃についてどっちが決定打だったのかを言い争っていた。…まったく、この2人は…それじゃあ、この作品の感動的なテーマがぶち壊しである…
研究所にあるTVには、人類が機械軍に勝利した歴史的なこの日を祝う兵士や、世界中の人々の様子が何度となく映し出されていた。
「いや~しかし君達、よくぞあのmotherを破壊し、この世界に戻って来てくれた。本当に、この時代の人類を代表して心から感謝するよ」
バーチャルRPGシステムの開発者である瀬川が、シチローに向かって労いの言葉を述べる。シチローは、照れ笑いをして自分の頭を掻きながらその言葉を聞いていた。
「いやぁ~あんなにボッコボコにされて、一時はどうなる事かと思いましたけどね」
バーチャルワールドで受けた傷は、あくまでバーチャルのもの…現実の体には、その影響は全く無い。…はずなのだが…
「あれ…?オイラの頭にコブが出来てるぞ…?」
頭を掻いたその指先に感じるその膨らみは、まさしくコブであった。
「おかしいな…こんな所ぶつけた覚え無いんだけど…」
ふと、何気なく側に居たメルモに目を移すと、メルモが慌てて何かを背中に隠した。
「メルモさん、今、何か隠さなかった?」
「い、いや別になんにも隠しとらんよ…」
明らかに不自然な動作をするメルモを不審に思い、シチローはメルモの方に詰め寄りその腕を掴んだ。
「いや!絶対何か隠した!この腕、前に出して!」
メルモは、諦めたように渋々後ろに隠していた手をシチローの前に差し出した。
「……何…この、ボクシングのグローブは…?」
「いや…何事もリアリティというものは大事かなと思いまして…」
「ああぁぁぁ~っ!アンタ!隊尊と闘ってる時、オイラの事殴っただろっ!」
「だって~退屈だったんやもぉ~~ん」
「なんだそれっ!訳わかんね~だろっ!」
「ちょっとした茶目っ気ですから」
そんな二人を笑って眺めていた他の4人だったが、突然子豚が思い出したように突拍子もない声を上げた。
「まさか!!」
猛然とダッシュして、ヘルスメーターの方へと向かう子豚。
「増えてる……」
♢♢♢
「ちょっと!メルモさん!なんで私の体重が増えてるのよっ!一体、私に何したんだ~~っ!」
子豚は、えらい剣幕でメルモのもとへ詰めよった。
「それは、子豚ちゃんが勝手に食ったんよ…私は子豚ちゃんの枕元に食べ物置いただけだから」
メルモは、さも自分は悪くないという風に言い返す。
「うっっ………」
無意識のうちに自分がそんな事をしていたとは、夢にも思わなかった子豚は、言葉に詰まってしまった。
「それ、本当なの?瀬川博士?」
凪が笑いをこらえながら、横にいた瀬川に真相を確かめた。凪の質問に瀬川は、真剣な顔で眼鏡をずり上げながら答える。
「うむ……バーチャルRPGシステムと深層心理の関連性という意味において、子豚君のあの行動は実に興味深いものがあった…」
「博士、もしよかったら博士の研究対象にコブちゃんこのまま未来に置いていきましょうか?…ただし、『餌代』がだいぶかかりますけど」
「うるさいっ!シチロー!もう一個コブ増やしてやろうかっ!」
つい数時間前まで、motherの脅威に震えていたとは思えない長閑な微笑ましい光景。やはり、平和とは良いものである。
♢♢♢
長いようで短かった未来での滞在も、今日が最後の日となった。
「チャリパイの皆さん。私の無理なお願いをきいてくれて、そして助けてくれて本当にありがとう!私、この恩は決して忘れませんから!」
シチロー達を2009年へと戻す為のタイムトンネル製造装置の前で、凪は
4人に心からの感謝の言葉を伝えた。
「よかったね~凪。これで未来も安心だよ」
「今度は凪を2024年に呼んで、みんなで飲み会でもしましょうよ」
「その時は『桜エビ』のお土産、いっぱい持って来てね。凪」
「はい是非とも」
別れを惜しみつつも、穏やかな笑顔で最後の挨拶を交わし、シチロー達はタイムトンネル出現予定場所へと整列をする。
「はい、じゃあ~その枠からはみ出さないようにして待ってなさい」
何やら計器の沢山並んだ操作盤の前に座り、メルモがシチロー達に指示を送る。
「はい!準備はいいかな…ところで凪?あの4人を送る地点はどこだったかいな?」
「え~っと…確か…」
♢♢♢
タイムトンネルの捻れた空間の中で、てぃーだが不思議そうに呟いた。
「ねぇ、シチロー…さっきメルモさん、凪に送り先の地点聞いてたわよね?」
「うん…そうみたいだったけど、それがどうかした?」
「その後、凪はえ~っと…確か…って言っただけなのに、メルモさんどうしてタイムトンネルの転送スイッチが押せたのかしら?」
「さぁ?…来た時の履歴か何かが残ってたんじゃないの?」
その頃、2100年の
未来では……
「え?・・・『江戸時代』じゃないの?」
「何で江戸時代になるんですかっ!!私は『え~っと…』って言っただけでしょ!
…あぁ~もう!なんて事を……」
またしても、メルモの『空耳』のせいで、シチロー達は自分達の時代を三百年も通り越し、江戸時代へと飛ばされてしまうのだった!
「帰ったら、録画しておいたドラマまとめて観なくちゃ~」
そんな事が起きているとは、夢にも思わぬチャリパイであった……
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