第13話ファイナルステージ②
リングの上では、タキシード姿のリングアナウンサーが派手なマイクパフォーマンスでまくし立てる。
『レディース& ジェントルメン~さあ!お待たせしました!機械軍と人間の世紀の対決!
最初に現れましたのは、人類代表~チャーリーズエンゼルパイの~~』
「ほらっティダ、君の出番みたいだよ」
シチローは、格闘技と言えば当然、琉球空手のてぃーだの出番とばかりに、リングの方に向かっててぃーだの背中を押す。
ところが、そのてぃーだを通り過ぎてスポットライトが当たったその人物は…
『西暦2024年からやって来た!東洋の道化師シチロ~~~!!』
「あれ?…オイラ?」
不意に名前を呼ばれて、キョトンとした表情のシチロー。
「…みたいね。さっきの三本勝負じゃあアタシ達が戦ったんだから、今度はシチローの番でしょ」
てぃーだ、子豚、ひろきの三人は満足そうに頷いていた。
「シチロー、格闘技なんて大丈夫?」
凪が少し心配そうに、シチローに問い掛ける。
「さあ…そりゃまあ、相手しだいだけど…」
そう答えるシチローは、次に紹介されるであろう相手コーナーの花道へと視線を移していた。シチローの相手とは、一体どんなファイターなのだろう。ほどなく、会場には重厚なディストーションのかかったギターのリフが流れ出した。
♪ジャーージャ!
♪ジャーージャ!
♪ジャージャジャジャジャジャ!
ズンズンと重低音の効いたリズムに合わせて、観客は拳を振り上げて歓声を絞り出す。
『さあ!お馴染みのテーマ曲に乗せて我らが機械軍の最強ファイターがやって来た!
赤コーナーから、チャンピオン『隊尊』の登場です!』
その『隊尊』に目を向けて、シチローが絶叫した。
「なにぃぃ~っ!あんなスゲエのがオイラの相手なのかよ!」
遠目に見ても判る、筋肉隆々の鍛え抜かれた黒い肌の肉体。まさに、全盛期のマイク タイソンを彷彿させるド迫力である。
「あれ、どう見たってヘビー級だろ…ここはやっぱり、同じヘビー級のコブちゃんに出てもらって…」
「おいコラッ!誰がヘビー級よ!誰が!シチロー、指名されたんだからちゃんと闘いなさいよ~!」
「だ、だってさぁ…」
あまりにも強そうな隊尊の登場に、シチローはすっかり自信を無くしてしまっていた。
「オイラがあんなのに勝てる訳無いだろ…」
肩を落としてうなだれたまま、小さな声でそう呟くシチロー。
「ねぇシチロー。それなら良い事を教えてあげるわ」
そう言って、後ろから声をかけてくれたのは凪。隊尊との闘いを目の前にして、すっかりヘタレているシチローに、凪は朗報を授けてくれた。
「このバーチャルワールドでは、敵に倒されたらゲームオーバーだって事は最初に話したけど、もう一つ…この世界では現実の世界に無い、ある現象が起きているの」
「ある現象?」
シチローは、凪の方へと振り返りその言葉の続きを待った。
「そう…その現象とは、『パワーポイント』。
私達は、敵の刺客を倒す度に『パワーポイント』を貯めて、自らの力を強くする事が出来るの!ファイナルステージまでたどり着いたって事は、シチローも知らないうちにかなり強くなっている筈だわ!」
「えっ凪、それホント?」
シチローの顔が、ぱっと明るくなった。
「じゃあ~魔法とか使えるの?」
「いや…魔法は・・・」
ひろきの横やりに、凪が苦笑して答えた。
「つまり~この世界ではオイラ、ありえない位に強くなっちゃってるって訳だ~」
先程の沈んだ表情とは打って変わって、シチローはとたんにやる気満々になっていた。
この時のシチローの頭の中を覗く事が出来たとしたら、その脳内には
『スーパーサイヤ人になって隊尊を手玉に取るシチローの姿』
が映っていたに違いない。
「よし、一丁やってやるか~」
そう言って、てぃーだにグローブを着けて貰ったシチローは軽い足取りでリングに上がっていった。自信とは恐ろしいものである。
会場全体が隊尊の声援である、いわば完全なアウェイであるにも関わらず、シチローは満面の笑顔で両腕を高々と振っている。
「よかったね、シチロー元気になって」
ひろきが満足そうに頷いた。
「ところで、さっきの話本当なの?…パワーポイントって…」
「ええ、あれは本当の話…ただ、シチローが思っている程強くなっているかどうかは知らないけど…」
凪は、てぃーだの質問に答えながら、心配そうにリングに上がったシチローの姿を目で追っていた。
リング上で、不敵な笑みを浮かべて対峙するシチローと隊尊。
「ファイナルステージまで進んだ人間だというからどんな奴かと思えば、1ラウンドもてば大健闘というところか」
「へん!そんな事言って、あとで吠え面かくなよ!」
両者の視線の先で、目に見えない火花がバチバチとぶつかり合っていた。
「試合は全3ラウンド。KOで勝負が決まらない場合は、判定で勝敗を決定する」
レフリーによる簡単なルール説明の後、ボディチェックを受けてそれぞれのコーナーへと戻るシチローと隊尊。
「大丈夫、シチロー?無理しないでね…」
「なあに心配いらないよ凪あんな奴、1ラウンドでリングに沈めてやるよ~オイラに任せなさい」
青コーナーの椅子に座って、そんな宣言をするシチロー。一体、どこからそんな自信が出てくるのだろうか…
やがて、運命のゴングは鳴らされた!
カァーーーン!!
「ウリャア~くらえ~!右ストレート!」
ゴングと同時に、勢いよく飛び出したシチローは隊尊のボディに向かって渾身の右ストレートを打ち出した!
「キャア~シチロ~~カッコイイ~」
子豚とひろきの黄色い声援が飛び交う。
ボム…
「あれ…?」
シチローの拳は、見事に隊尊のボディにヒットしているが…隊尊の表情は全く崩れる事は無い。
「なんだソレ…貴様、本気で打ってるのか?」
ニヤリと笑った隊尊が、シチローを見下ろして言った。
「いやあ~おかしいなぁ~」
グローブで頭を掻きながら愛想笑いを浮かべるシチローへと、今度は隊尊のパンチが襲いかかる。
バキッ!ボコッ!ズドン!バコッ!ズドッ!ボコッ!バコン!バキッ!ズドッ!スコーン!
「キャア~~!シチロ~~!カッコワルイ~!」
「…確かに打たれ強くはなっているみたいね…シチロー…」
腕組みしたてぃーだが、納得したように呟いた。
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