第12話ファイナルステージ①
奇跡的な大逆転で、見事ピエールチームに勝利したチャリパイチーム。
ピエールは、厨房の料理人を全員集めて真っ赤な顔で怒鳴りつけていた。実は、クイ・ダ・オーレのカレーの付け合わせは元々『福神漬け』を使っていたのだが、今日はたまたま材料を切らしていた為に『らっきょ』で代用したのだそうだ。
まさかピエールがらっきょ嫌いだとは、料理人達も知らなかったらしい。
「よくやったぞコブちゃん。全ては君の頑張りのおかげだよ」
シチローは、子豚の口から手を離して、労いの言葉をかけようとするが…
「あ…あれっ?コブちゃんどうしたの?」
シチローが手を離すと同時に、子豚は白目を向いて椅子から崩れ落ちた。
「そうか…コブちゃん、気絶する程限界まで頑張ってたんだ…」
そんな子豚の頑張りに感動するシチロー。しかし…シチローの隣にいたてぃーだが、言い辛そうにその訳を教えてくれた。
「あの…シチロー…それはきっと、シチローがコブちゃんの口を押さえた時、口と一緒に鼻も押さえてたからだと思うんだけど…」
「え?・・・・・・」
それは気絶するだろ…
「この、鬼っ!悪魔っ!私を殺す気かあ~っ!」
程なく目を覚ました子豚は、シチローに向かってありったけの罵声を浴びせてきた。
「悪かったよコブちゃん。ワザとじゃ無いんだから、そんなに怒らないでよ」
「ワザとやられてたまるかっ!訴えるぞコラァ~!」
過酷な対決の後で、子豚もずいぶんこたえているだろうと心配したが、それだけ怒る元気があれば大丈夫のようだ。
「ところで凪…オイラ達、これから一体どうすればいいんだ?」
話題をそらす為に、シチローは凪に向かってそんな話題を投げかけた。
「それは勿論、『mother』を探しに行くのだけれど…」
このバーチャルワールドのどこかに、motherは存在する…しかし、実際問題どこにあるのか、凪にも想像がつかなかった。
「これだけ広いと探すのも大変よね…何かヒントがあれば良いんだけど…」
「とりあえず、西の方にでも行ってみる?」
「でも、またT9000が出て来たらどうするの?」
「う~ん…」
♢♢♢
「おい!お前達!」
互いに顔を合わせて相談をしているシチロー達の背後から、ふいに呼ぶ声が聞こえた。
「お前達が目指す『mother』は、あそこだ!」
後ろを振り返ったシチロー達の目に映ったのは、窓の外にあるビルを指差すピエールの姿だった。
「あ…ピエール、いつの間にか元の姿に戻ってるよ…ところで、どうして教えてくれるの?」
敵である筈のピエールが、どうしてシチロー達に情報などを提供してくれるのだろうか…
ピエールは、クルリと上を向いた自分の髭を伸ばしながら、苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「別に親切で教えてやる訳じゃない。お前達は、セカンドステージをクリアしたから次のファイナルステージに進む資格があるだけの事だ!」
「ファイナルステージ?」
ピエールの話によると、最初のT9000との戦いが『ファーストステージ』。
このレストランでの三本勝負が『セカンドステージ』。そして、この次が『ファイナルステージ』なのだそうだ。
「今まで色々な人間達がこのバーチャルワールドへやって来たが、ファイナルステージまで辿り着いたのはお前達が初めてだ」
バーチャルRPGシステムによって現実の世界から送られてきたネオ・チャーリーズのメンバーは皆、ファースト及びセカンドステージでゲームオーバーになり誰もファイナルまで進む事は無かった。
ピエールが指差した、荒廃したビル群の中でもひときわ高くそびえ建つその最上階に『mother』は君臨し、その場所こそがファイナルステージなのだと言う。
更にピエールは付け加えた。
「言っておくが、今度は今までのようなまぐれは無いぞ!お前達はあの場所で、人間という存在の限界を思い知るのだ!」
「あそこに『mother』が……」
史上最強のスーパーコンピューター。そして今もなお成長を続け地球上の人間を支配しつつある『mother』を破壊しなければ、人類の未来は無いのだ。
「待ってろよ!mother!」
5人はビルの最上階を睨みつけ、新たなる闘志を燃やすのだった!
♢♢♢
レストラン クイ・ダ・オーレを後にし、いよいよ最終目的地のビルの前にやって来たチャリパイの四人と凪。
「こうして近くまで来てみると、ずいぶんと高いビルだな…」
その高さは、まるで己の権力を誇示しているかのような気さえしてくる。
「あっみんな~エレベーターがあるよ」
入口を入ってすぐの所で、ひろきがエレベーターの扉を見つけた。
シチローはそのエレベーターのボタンを押して扉が開くのを待ち、てぃーだ、ひろき、凪が順番に中へと乗る。
「あれ、コブちゃんは?」
大食い対決で食べ過ぎの子豚は、少し苦しそうに皆より遅れて歩いていた。
「ほらっコブちゃん、みんな待ってるんだから」
シチローは子豚の方に駆け寄り、背中をグイグイと押してやる。
歩きながらシチローが…
「相当食ったからな…コブちゃん、重量オーバーでエレベーター乗れないんじゃないの?」
「バカ言ってんじゃないわよ!そんな事有る訳ないでしょ!」
「ハハハハハ冗談だよ、冗だ…」
♪ブーーッ
『重量オーバーです!』
「え?・・・・・」
子豚が乗った瞬間、エレベーターが喋った。シチローはまだ乗っていない訳だから、4人しか乗っていないのに…
「何よそれ!私が乗った瞬間に重量オーバーって、ど~ゆ~事よ!」
子豚は、エレベーターのスピーカーに向かってキレていた。
「まあまあ、そんなに怒らない。別にコブちゃんが重量オーバーって意味じゃないんだから。コブちゃんの代わりに、オイラが乗ったって同じ事……」
♪ピンポーン
『セーーーフ』
「…………………」
シチローの気遣いが、裏目に出たようだ。
ひとりエレベーターの外の子豚は、いじけてしまった。
「どうせ私は重量オーバーよ……みんなだけ先に行けばいいでしょ…」
そんな事を言われて、はい、そうですかと行ける筈が無い。そこで、心優しい凪が子豚に声をかけた。
「それじゃあ、私とティダが降りるから、コブちゃん乗ってよ」
「そうそうアタシと凪は後から行くから」
子豚1人に対して、凪とてぃーだ2人というのはちょっと気になるところだが、これなら重量オーバーにはならない筈である。
「そう?悪いわね~2人共」
♪ブーーッ
『残念でした』
「ぶっ壊すぞ!テメエ~!」
「エレベーターにオチョクられてるみたいだな…どうも…」
さすがは『mother』の本拠地ビルである。エレベーターひとつ取ってみても、なかなかに手強い。
「今度は私1人よっ!これでどうよ!」
『そんなにムキにならないで下さいよ』
「ムキィ~~~~ッ!」
「コブちゃん大丈夫、全員乗れるよ。そんなの無視無視」
シチローは笑って全員を乗せ、エレベーターを上昇させた。
オチョクられてると知った子豚は、不機嫌な顔でエレベーターに話し掛ける。
「大体アンタ、エレベーターのくせに生意気なのよ!どうせ『シ〇ドラー社』(※昔、よく事故を起こした事で話題になった海外のエレベーター製造メーカー)のエレベーターなんでしょ?」
『欧米かっ!』
「コブちゃん…エレベーターに突っ込まれてるよ…」
「ウルサイ!アンタと漫才なんかしたくないわよ!」
『いいコンビだと思ったんですけどねぇ』
「何がいいコンビよ!大体、アンタと漫才やって『オチ』はどうするのよ!」
『お望みならオチましょうか?』
「え?・・・」
「うわああああ~~っ!それだけはやめてくれえぇぇぇ~~~っ!」
エレベーターの箱の中、5人の絶叫が響きわたった。
♢♢♢
♪ピンポーン
『最上階です』
なんとか無事に最上階へと到着する事が出来たシチロー達。
「いよいよファイナルステージだ!みんな、気を引き締めていこう!」
「おお~~っ!」
否が応でも5人の気持ちは盛り上がる。
そして、そのエレベーターの扉が開いた時、シチロー達は驚愕してしまった。
「なんだこりゃあ~!」
最上階のファイナルステージ会場は、人、人、人で溢れ返っていた。
一体、これらの人々は何処から集められてきたのだろうか?
「何?この人達は…」
いずれの人達も、大声を上げて熱狂している…一体、この場所で何が行われようとしているのだろう?
「なんだか楽しそうだねファイナルステージって」
何も知らないひろきが、呑気にそんな感想を洩らす。
「あっ、シチローあれ見てよ」
そう言って子豚が指差した先には、眩い幾つものライトに照らされた、四角いリングが設置されていた。
「へえ~。これからここで格闘技の試合があるみたいだね」
「なるほど。それで、こんなにたくさんの人が試合を観に来てる訳だ」
「一体、誰が出るんだろう?」
『お前だよっ!』
「え?・・・・」
いつまでも呑気な事を言っている察しの悪いシチロー達に、どこからともなくそんな声が聞こえて来た。
人類の運命を決定着けるファイナルステージの対決種目…それは、機械軍の代表とチャリパイの代表による『総合格闘技頂上対決』であった!
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