第10話飲み比べ対決

第一回戦『ソムリエ対決』は、苦しくもピエールチームの勝利となった。三本勝負なので、チャリパイチームはもう負ける事は許されない。そんな中での第二回戦は『飲み比べ対決』である。


この勝負のチャリパイチームの代表者は当然…


「ひろき!人類の未来は全て君のこの戦いに懸かってるんだ!頼んだぞ!」

「うんわかった」

「…ホントに分かってんのか?」


緊張感の欠片もない、満面の笑顔で応じるひろき…何か不安な気がしないでもない…

そして、そのひろきの相手となるピエールチームの刺客が別室から姿を現した。


「てやんでえ~っ!酒持って来い!酒ぇ~!」


角刈り頭に捻り鉢巻。いかにも頑固な職人風といった感じのこの男が、ひろきの対戦相手らしい。


「彼が今回の刺客。その道40年のベテラン大工…『うわばみの源さん』だ!」

「ここって、レストランだよね…たしか…」


なぜ、レストランに大工がいるんだ…?


「なんだよ…じゃないのか?」


普通のレストランであれば、たちまちつまみ出されてもおかしくない様なこの男が、ひろきの対戦相手だという。


「べらんめぇ~!俺は産まれた時から酒の産湯に浸かってたんだ!つべこべ言わずに酒持って来いってんだよ!」


確かに源さん、筋金入りの酒豪の様だ。ひろきも油断していられない。


「う~ん…これは強敵が現れたぞ…源さん、かなり年季が入ってそうだしなぁ…」


それぞれタイプの違う、常人離れした酒豪どうしの『飲み比べ対決』。

果たして、どちらに軍配が上がるのか!この対決のルールは簡単、酒を沢山飲んだ方の勝ち!途中で酔い潰れてしまったり、吐いてしまったら負けとなる。ところが、いざ勝負を始めようという時になってひとつ問題が持ち上がった。


「酒っつったら日本酒の事に決まってんだろ!べらんめぇ~!」

「ヤダ!あたしビールの方がいいもん!」


対決に使う酒の種類について、互いの意見が食い違ったのだ。


源さんもひろきも、この事に関しては頑として譲る気が無い様である。


「ビールなんて酒じゃねえっ!」

「うるさい!レストランで日本酒なんて飲むなっ!」


このままでは埒があかない…そこで協議の結果、ピエールによってこんな妥協案が提示された。


「飲む酒の種類は、各々自由に選んでかまわない。…ただし、日本酒に比べてビールはアルコール度数が低いので、飲む量は三倍でなければならない」


これは、ビール派のひろきに対して分が悪い提案と言えよう。


仮に源さんが一升の日本酒を空けたとしたら(それだってかなりの量であるが)、ひろきは炭酸を含んだビールを、5.4リットルも飲まなければならない計算になる。

日本酒と違って、ビールは意外と腹に溜まるのだ。それでも、ひろきは好きなビールが飲めるとあって無邪気に喜んでいる。もしかしたらひろきは、この勝負に負けた途端に5人共々現実の世界に戻れなくなる事を、すっかり忘れてしまっているんじゃないだろうか?



♢♢♢




グビッ グビッ…


「クゥゥ~~ッ美味いっ」

「始まる前から飲んでんじゃね~よっ!おいっ!」


この勝負…ひろきは無事に勝つ事が出来るだろうか…


「それでは、第二回戦!飲み比べ対決~始め~い!」


ピエールの掛け声と共に、ひろきと源さんの壮絶な戦いが繰り広げられた!



グビッ グビッ…


「てやんでえ~っ!もう一杯!」

「ぷはぁ~っ!ビールおかわりぃ~」


のっけから、信じられないペースで目の前の液体をそれぞれの胃袋へと流し込む二人。


「スゲエ~ッ!あのオッサン、ハンパじゃねぇな!」

「ウ~ム…やるな…あの小娘…」


シチローもピエールも、相手側の予想以上の戦いぶりに、焦りの色を隠せない。

ペースは、ひろきの方が若干速いだろうか…しかし、ビールを飲んでいるひろきには『三倍ハンデ』が課せられているのだ。


グビッ グビッ…


そして、三十分後…


源さんは、一升(約1.8リットル)の日本酒を空けていた。


一方、ひろきはビール4リットルを消化…


今のところ、源さんがややリードしている。


「やっぱり、三倍ハンデは厳しいな…ひろき大丈夫だろうか?」

「ビールおかわりぃ~」


とりあえず、潰れる心配は全く無いようだ。


さらに三十分が経過…


源さん、一升と五合(約2.7リットル)。ひろき、8リットル。


少しペースが落ちてきた源さんに、ひろきが並びつつある。


「おお~っ!いいぞひろき~ガンバレ~」


がぜん活気づくチャリパイチーム。すると、その様子を見た源さんは…


「てやんでえ~っ!こしゃくなっ!これでどうでぃ~!」


そう言って、持っていたコップを投げ捨てると、一升瓶を直接抱え込んでラッパ飲みを始めた!


グビッ グビッ グビッ グビッ…


「ぷはぁぁぁ~っ!」


源さん、ついに二升目を空けてしまった!再び源さんがリード。


更に三十分が経過…


源さんは、二升五合目(約4.5リットル)を記録!


しかし…


「ぺゃんめぇ~!もっろしゃけもっれほんひゃ~¢£〆●△■&〇」

「完全にろれつがまわってないな…源さん…」


一方、ひろきの方は…


「ビールおかわりぃ~」


その様子は全く乱れる事無く、飲んだ量は…


14リットル強!


「最初よりペースが上がってるよ…」


そして、この『飲み比べ対決』が始まってから早くも二時間が経過していた。


気になる勝負の行方だが…


ピエールチームの源さんの方は、堂々の三升を記録した!


しかし…


「zzz… ZZZ…」

「とうとう潰れちゃったよ…源さん…」


これで、源さんの記録は日本酒三升(約5.4リットル)に確定した。


そして、問題のひろきの方はというと…


「ビールおかわりぃ~」



「うるせえっ!もうこのレストランには、んだよ!…アンタ、もう圧倒的に勝ってるだろっ!」


ひろき、店にあるビールを全て飲み干し、見事に圧勝~~!


ピエールに『場の空気を読め』と説教されて、頭を掻いて照れ笑いを浮かべるひろきを見て、シチローは思った。


(この勝負…料金かからなくてホントに良かった…)















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