第4話戦闘開始

歓迎会から一夜明け、チャリパイの四人もいよいよ気持ちを入れ替える時が来た。

いよいよこれからが本番だ。凪とメルモの二人と共に軽い朝食のテーブルについていたシチロー達は、これから始まる戦いに緊張しながら、目の前のハムエッグとトーストを口にしていた。シチローは凪に、あのメールをもらった時から疑問に感じていた事を尋ねてみる。


「ねぇ、凪…

こんな戦場の助っ人に、なぜオイラ達なんかを選んだのかな?

傭兵だったら、オイラ達なんかよりもっと適任な連中だっていたと思うんだよね…」


凪はコーヒーをひとくち飲んだ後、シチローの質問にこんな返答をした。


「確かに…銃を抱えて敵と戦うのなら、それなりの適任者もいたわ。

けれど、今回の作戦には是非ともチャーリーズの皆さんの力が必要だと思ったの」

「作戦?」

「そう…この戦争に人類が勝利する為の切り札とも言える作戦よ!」


凪は続けた。


「機械軍に勝利するには、全てのシステムを統括しコントロールしているスーパーコンピューター『mother』を完全に破壊しなければならないわ…けれど、その『mother』は敵軍の中心で完璧に守られた要塞で簡単には攻め入る事は出来ない。

そこで私達は、長い年月をかけネットを通じて『バーチャルRPGシステム』という物を開発したの」


そこまで説明され、シチローは全てを悟った。


「ナルホドね…オイラ達にその機械でシステムに侵入して『大将の首』を穫れって事だね」

「ねぇ…凪、実は私も聞きたい事があるんだけど?」


続いて、子豚が真剣な顔で先程から疑問に感じていた事を尋ねた。


「何?コブちゃん?」


「このハムエッグの卵は、やっぱり『うずらの卵』なの?」


聞きたい事ってそれかよ……


人類の希望を一手に背負った、このバーチャルRPGシステムという新兵器は、凪達のいるコロニーから少し離れた研究所に在った。


「それじゃあチャリパイの皆さん、これから私の車で研究所までご案内します」


どうやら、メルモが自分の車を出してくれるらしい。車好きのシチローは、そのメルモの所有する未来の車に興味津々だ。


「未来の車かぁ~メルモさんもしよかったら、その車オイラに運転させて下さいよ」

「ええ、別に構いませんよ。今の車なんて、から」

「…なんか引っかかるな…その『バカでも』ってのが…」


凪とメルモを含めた6人が建物の外へ出て少し歩くと、そこには現代で言うミニバン位の大きさの流線型をした、のっぺりとしたシルバーの乗用車が停まっていた。


動力は電気だろうか…

排気用のマフラーは無い。そして、左右の後ろの視界を確保する為のドアミラーも、この車には付いていなかった…おそらくそれに代わる別の装備が付いているのだろう。

「おお~っ!まさしく未来の車、カッコイイ~」


シチローは目を輝かせてそのシルバーの丸いボディを撫でまわした。そのシチローの様子を見て、メルモが自慢げに自分の車の紹介をする。


「これが私の愛車『ひろみ号』です」

「ダジャレかよっ!」


シチロー達4人が同時にツッコミを入れた。


なぜ2100年の時代のメルモが郷ひろみの事など知っているのか?

という事は、この際置いといて…早速シチローは、その『ひろみ号』に乗り込もうとドアを開けようとしたが…この車、ドアハンドルが付いていない?


「えっ?…これ、どうやってドア開けるんだ?」


これも未来カーの常識らしい。空力特性の向上と盗難防止の為、この頃の車はリモコンによるオート開閉のドアが主流となっていた。車の些細な装備に、いちいち新鮮に驚くシチロー達を面白く思いながら、メルモはポケットからリモコンを取り出した。


「これで開けるんですよ、シチローさん」


子豚とひろきも、それを見て感心していた。


「スゴ~イ便利だね~さすが未来」


メルモが自慢げにそのリモコンのボタンを押す。すると、驚いた事に車が喋り始めたではないか!


『ハア~イ問題に正解して車のドアを開けようさて…江戸幕府を開いたのは徳川家康ですが…』


「…ちっとも便利じゃない…」


ちょっぴりガッカリした子豚とひろきであった…


問題に正解しないとドアが開かないという、まるで嫌がらせの様な『儀式』を終えて、ようやく6人は車の席に着いた。


約束通り運転席に座り、さぁ車を動かそうとしたシチローだが、この車…なんとハンドルが付いて無いではないか!


「なんだよこれ?…コレじゃ運転出来ないじゃん…」


計器のたくさん付いた運転席に座ったものの、訳が解らず戸惑っているシチローに、後ろから凪が笑って教えてくれた。


「シチローこれはね、『AT車』だから全て自動で運転してくれるのよドライバーは、ナビに目的地をインプットするだけ」


この時代の自動車は、その名の通り自動で人間を目的地へと運ぶ車にまで進化していた。


運転者が自分でハンドルを握り運転するタイプの車は、もはや一部のマニアに『スポーツカー』として乗られているだけに過ぎなかった。


「ちぇっ…それで『バカでも運転出来る』なんて言ってたのか…」


不満そうに口を尖らせるシチロー。


「まあ~そういう事でもね、この車なら運転者も車の中でお酒だって飲めるし、昼寝だって出来るのよ」


なるほど、これなら飲酒運転も安全上なにも問題無いって訳だ。


シチローがナビゲーションの目的地を研究所にセットすると、『ひろみ号』は自動的に走り出した。あとは勝手に車が研究所まで運んでくれるのを待つだけだ。


「研究所までは30分程で着くわ…それまで皆さん、TVでも観てましょうか」


凪は、そう言って後ろの座席の肘掛けからリモコンを取り出すと、TVのスイッチを押した。時代は22世紀…シチロー達の時代で活躍中の芸能人など、既にこの世からいなくなっている訳で、いくら長寿番組だとてこの時代まで続いている番組など、あろう筈が無いと思ったが…


「あれっ?これ、もしかして『サザエさん』?」


なんと!百年経ったこの時代でも、『サザエさん』は不滅だった!


おなじみの、あのテーマソングもそのままに…しかし、物語に登場する磯野家のキャラクターは若干歳を重ねていた。


『カツオ!アンタお願いだから、今年こそは大学合格してよね!

ウチはそんなに余裕が無いんだから!』


カツオは大学受験に失敗し、現在三浪中…マスオさんは、この長い不況のあおりを受けて、先月会社から早期退職の宣告を受けたばかりであった。そこへ、中学生になったタラちゃんが学校から帰って来た。


『ああ~っ腹減った!サザエ!メシくれっメシ!』

『タラちゃん…ママに向かってそんな口のききかたは無いだろ…』

『っせ~なぁ!テメエはリストラされてんクセにデケぇツラしてんじゃね~よ!』


目下、反抗期真っ最中のタラちゃん。ちょうどその時、磯野家へ掛かってきた一本の電話…それを受けたサザエの顔が、みるみるうちに真っ青になる。


『マスオさん!大変!

二丁目のコンビニからなんだけど、ワカメが万引きで補導されたって!!』

『ギョエェ~!(マスオが驚いた声)』


「なんか、ずいぶんと荒れた家庭になってるな…磯野家は…」

「波平はどうしたのかしら?」


そんなてぃーだの疑問に、凪が悲しそうな顔で答える。


「波平は、去年脳溢血で亡くなったわ…」


そんなサザエさん…観たくないんですけど…



♢♢♢



そんな、ちょっぴり悲しいサザエさんを観ているうちに、車は研究所に到着した。

一風変わった、建物の両端が角の様に空へ向かってそびえ立ったその研究所の形状は、例えて言うならば


そう………


『サリーちゃんのパパの髪型』みたいな形だ。(解りにくい例えだ…)

この研究所の中に、凪の言っていた対『mother』の最終兵器『バーチャルRPGシステム』なる物が存在するという。建物の中に入ったシチロー達は、そこで凪に白衣を着た白髪の老人を紹介された。


「皆さん、この方がこの研究所の所長、そして『バーチャルRPGシステム』の開発者でもある瀬川博士です」


瀬川と紹介されたその博士は、シチロー達の事をまじまじと見回してから怪訝そうに凪に向かって言った。


「凪君の推薦する人間だから、どんな連中が来るかと思ったら…大丈夫かね?この人選で…」


瀬川は、シチロー達の頼り無さそうな第一印象に不安そうに溜め息をもらした。

しかし、凪は強い口調でこう答えたのだ。


「いえ、博士!この4人こそが人類の未来を救える救世主になると私は信じています!

チャリパイの皆さんのなんですから!」


…悪運の強さだけかよ……








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