第3話西暦2100年の世界
長いタイムトンネルを抜けると…そこは未来だった。月明かりに照らされて、銀色に輝く幾何学的な造形をした建物の数々。シチロー達の前を通る人々は、シルバー基調に蛍光色やパステルカラーといった色彩の洋服を着ている。
「へぇ~これが未来の街かあ~」
見たところ、ずいぶんと平和そうな雰囲気だ。戦火に囲まれ荒廃した世界を予想していたシチローは、安堵の表情を見せた。
「ところで、凪はどこにいるのかしら?」
てぃーだがキョロキョロと辺りを見回していると、ほどなく4人の事を呼ぶ声が聞こえた。
「チャーリーズの皆さぁ~~ん」
「あっ凪だよ」
声のする方を振り返ってみると、凪が手を振ってこちらへと向かって来ていた。
「ヤッホ~凪~久しぶり~」
「皆さん、よくいらして下さいました。お待ちしてましたよ」
久しぶりの再開に、自然と皆の顔は綻んだ。
「元気そうじゃない凪~突然あんなメールくれるから驚いちゃったわよ」
「そうそうメールじゃ人類の危機とかって言ってたけど、全然そんな雰囲気に見えないよ」
シチローが凪にそんな言葉を投げかけると、凪の表情が変わった。
「いえ…シチロー…あのメールは本当の事よ…今、人類はかつて無い程の危機に瀕しているわ!」
そんな凪の深刻そうな表情に、シチロー達は腑に落ちないといった顔で互いを見合わせた。
「だって、全然平和そうじゃない…」
シチロー達が不思議がるのも無理はない。ここには、爆煙はおろか兵士達の姿も見当たらない。
凪は、種明かしをするべく、その理由を語り出した。
「この地域は『特別保護地区』といって、周囲50キロを軍が固めて『機械軍』の攻撃から守ってくれているの…戦闘区域は酷いものだわ!
…こうしている今だって、果たして何人の人々が命を落としている事か…」
「そうだったのか…」
言いようのない不安感がシチロー達を襲った。
「……………」
沈んだ顔の4人を見て、少し気の毒に思ったのか…突然、凪が明るい声でこんな事を言い出した。
「まあ~、その話は明日にでもするとして今夜は私達の久しぶりの再開を祝って、楽しく食事会でもしましょう」
4人がやって来る事を、シチローのメールの返信で知った凪は、仲間と一緒に『チャーリーズエンゼルパイ歓迎会』の準備をしていたのだ。
「やったぁ~宴会だ~」
「未来の食事楽しみだわ~」
こんな時の頭の切り換えは、実に早い子豚とひろきだった。
♢♢♢
「さぁ~皆さん、こちらへどうぞ」
凪は、シチロー達をあの幾何学的な形の建物の中へと案内した。ドーム状の建物には一見、ドアなど無いように見えるが、凪が近付くとその壁の一部が明るく光り、中へと通じる扉が現れた。
シチロー達が中へ入ると、その入口の傍には
少し年配であろうと思われる女性の姿が見える。
「皆さん、紹介するわ、こちらが今私とパートナーを組んでいる先輩の『メルモ』さんです」
その『メルモ』と呼ばれた年配の女性は、目を細めてシチロー達を眺めながら呟いた。
「何だい、凪?
この『レトロ』な格好の連中は?」
確かに2100年から見れば、シチロー達の格好はレトロなファッションに見えるに違いない。
「初めまして~メルモさんオイラ達があの有名な、チャーリーズエンゼルパイです」
凪は以前言っていた…
人類がコンピューター
『mother』に支配されそうになった時、最初に反乱を起こしたのはチャーリーズエンゼルパイの二代目にあたるチームが中心になっていたのだと。そして、その反乱軍は次第に勢力を拡大し、ついには数千人の規模を誇る『ネオ・チャーリーズエンゼルパイ』へと発展していったのである。いわば、チャリパイは人類の希望の礎を築いた
『伝説』のチームなのだ。
もっとも…実際に反乱を始めたのは、シチロー達の次の世代なのだが…
「メルモさんも知ってるでしょ?あの『伝説のチャーリーズ』ですよ」
そう言って、得意そうに胸を張るシチロー。
『伝説の』を強調して自己紹介をするシチローをまじまじと見つめ、
メルモは納得した様に頷いた。
「ああ~アンタ達が~
『電線の修理屋さん』かね。最近、エレベーターの調子が悪くて困ってたんだよ」
「誰が『電線の修理屋さん』なんて言ったよっ!チャーリーズエンゼルパイだよっ!!」
「ン?チャーハンとエビシュウマイ?」
「・・・・・・」
「ねぇ…凪?メルモさんは耳が悪いの?」
てぃーだが苦笑いしながら凪に尋ねると、凪も苦笑しながら答えた。
「う~ん…時々、そうやって『空耳』が聞こえるらしいのよね…」
「絶対、ワザとだ…」
小さな声でシチローが呟いた。
♢♢♢
長い通路を通って部屋に案内されたシチロー達は、その光景に歓喜の声を上げた。
「わぁぁ~~~スゴイご馳走~!」
円いテーブルに並べられた豪華な料理の数々。そのどれもがボリュームたっぷりで、果たしてこの人数で食べきれるだろうかと心配になる程だ。そして、壁には『チャーリーズエンゼルパイ歓迎会』と書かれた、凪のお手製の垂れ幕が貼られていた。
「凪ィ~ありがとう~~感激だわ!」
思いがけない凪の精一杯の歓迎ぶりに大感激した子豚は、凪の方に駆け寄り思い切り抱きしめた。
「も~ぅコブちゃん、大げさだってば~」
そう言いながらも、凪も皆の嬉しそうな顔を見てまんざらでもない様子だ。
やがて、戦場の恐怖からはしばし離れ、凪の音頭で『チャリパイ歓迎会』が始まった。
「それでは皆さん、お手元のグラスを持って下さい明日から私達は、巨大な敵『機械軍団』を相手に戦う事になりますが…今夜はその事は忘れて、おもいっきり楽しんで下さいね
それでは、人類の未来にカンパ~イ」
「カンパァ~~イ」
テーブルに所狭しと並べられた料理は、未来だからといって特別変わった様には見えなかった。肉や魚、そして海老に蟹、サラダの類い…それらは2024年でもお馴染みの食材の数々だ。結婚式に出てくるような伊勢海老にかぶりつきながら、子豚が満足そうに声を上げた。
「美味しいわ~この伊勢エビ、未来でもこんなのあるのね~」
しかし、その子豚の言葉を聞いた凪が、少し申し訳なさそうに信じられない事を言い出した。
「あの…コブちゃん、ごめんなさい…さすがに伊勢エビは高価過ぎて買えなくて…
そのエビは『桜エビ』なの…」
「…は?」
子豚の目が、点になった。
「何言ってんのよ~凪。桜エビって言ったら、こんなにちっちゃいじゃない」
子豚は、指で2センチ程の隙間を作りながら笑い飛ばしたが、凪の言う事は冗談では無かったのだ。
「2050年位かしら…世界の人口は爆発的に膨れ上がり、おまけに地球温暖化による異常気象で世界はかつて無い程の食糧危機に陥ったわ。
その危機から脱する為に、人類は最先端のバイオ技術を駆使して、あらゆる食物を巨大化し始めたの!」
シチローが目の前の魚を見て呟いた。
「それじゃあ…オイラが食べてるこの白身魚は…」
「それは『シラス』よ!シチロー…」
「それじゃあ、この蟹は?」
「それは『沢蟹』!」
「じゃあ、この普通に見えるトマトは…まさか…」
「もちろん、プチトマトです」
「・・・・・・・・」
それは普通のトマトでいいんじゃないの?
未来の技術も大したものだと驚きながらも、シチロー達は目の前のご馳走に舌鼓を打った。そして酒の力も相まって、皆が様々な未来の話題で盛り上がる中…突然、てぃーだが思い出したように凪に尋ねる。
「そういえば凪、『ホノ』はどうしたの?」
ホノといえば、以前凪とコンビを組み、共にT8000を倒す為シチロー達の時代へと駆けつけてくれた仲間である。そう言われてみれば、シチロー達が未来に現れてから一度もホノの姿を目にしていない。
まさか、機械軍との戦闘の最中に不幸な出来事にでもなったのではと、恐る恐る凪に尋ねてみると…どうやらそういう訳では無いらしい。
「ホノはね、人類の未来を担う子供達を戦争から守り必要な教育をする為に、別のコロニーで子供達の世話をしてくれているの。彼女、本当に子供が好きだから」
第3コロニー内…
『希望小学校』…
「ハ~イみんな~今日は国語のお勉強の続きをしますよ~」
特別保護地区の更に地下のある場所に、その小学校は在った。ホノは、戦争で両親を失った子供達と一緒にそこで生活を共にし、勉強などを教えていたのだ。
「それじゃあ、教科書102ページ。『チャリパイEp4~未来からの刺客~』後半からですね…ハイ、シンゴ君読んでくれるかな」
『シチローは、T8000の前に立ちはだかり大きく深呼吸をした。』
「一体、何をするつもりかしら…シチロー…」
「もしかしたら、何か作戦が?」
「か~め~は~め~波ああぁぁぁ~~っ!」
「そんなモン効くかあぁぁ~ボケッ!」』
「ハイ、シンゴ君ありがとう~皆さん、このお話から何か皆さんが感じ取った事はありますか?」
ホノは、子供達には…たとえ絶望的な危機に瀕してもあのチャリパイの様に楽観的に乗り越えて欲しいと願いを込めて、この物語を国語の題材に選んだのだ。
そんなホノの質問に対して、子供達は一斉に元気良く手を挙げた。
「は~い、せんせ~」
「それでは、マリちゃん」
「シチローはバカです」
「・・・・・・・・」
「ヘックショイ!」
「あら?シチロー、風邪?」
「いや…なんか今、誰かに噂された様な気がして…」
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