05-06 解釈違いだ!
「この道を真っ直ぐ行けば目的地だ」
「使う人が減ったせいか、昔よりも道が荒れてますね。元からひどいもんでしたけど、さらにひどい」
「まったくだな」
そう言いながらオリーもバラハも懐かし気に目を細めた。
オリーとバラハの二人を先頭に勇者パーティと魔王が列を成して雑草にじわじわと浸食されている一本道を歩いていく。目的地は二人が生まれ、十五年前まで暮らしていた村。村を襲った魔族を見たというアンブリーとゲイブリー、ゴードルフ、モーリップの四人が働いているという領主の別荘がある場所だ。
「なんで勇者パーティな僕の後を
オリーとバラハの後に続くのはラレン、その次にジー、しんがりがリカという順番だ。倒すべき魔王であるはずのジーが後ろからついてくる状況に違和感を覚えるのはもうラレンだけ。
オリーとバラハは懐かしい光景に浮かれているし、リカはと言えば――。
「ジー君をテイムしたなんて……手なずけたなんて……演技だったとはいえ、僕はなんてことを……」
村人たちの前で言ったことを思い出してどんよりと落ち込んでいる。
「ユウシャサマノマゾクサンガオネガイシタコト。マスター、オチコマナイデ」
「おい、魔王。お前もいつまでカタコトキャラを続けるつもりだよ」
「ジーくぅぅぅうううーーーん!!! やっぱり怒ってるんだね! だから、そんなしゃべり方なんだね!」
「違いますよ、勇者様。カタコトキャラが抜けてないだけですよ。すぐに切り替えられるほど器用じゃないだけですよ、コイツは」
「ラレン、セイカ……コホッ、コホッ……うむ、正解だ。元の口調がなかなか思い出セナイ……?」
「最後の方、またカタコトキャラに戻ってるぞ」
言いながら首をかしげるジーを見てラレンはため息をついた。
いつもは振り返るとすぐ後ろにリカがいる。それなのに今日はラレンとリカのあいだにジーが割って入っているのだ。ご機嫌ななめなため息の理由の九割はそれ。推しと自分のあいだに割って入って来るヤツなんて敵以外の何者でもない。
ただ――。
「ジー君をテイムしたなんて言うなんて……ジー君にマスターなんて言わせるなんて……例え、それが演技だったとしても僕は僕自身を許せない!」
「うわぁぁぁあああ、神剣を自分の首にあてないでください! 勇者様ぁぁぁあああーーー!!!」
敵に敵意を向けるよりも先に話をまったく聞かずに発狂する推しを止める方が先だ。優先だ。最優先だ。
神剣で自分の首を斬って落とす気満々のリカにラレンは慌てふためいた。ジーも慌てふためいているのだろうけれど表情はあいかわらず淡々としている。
「私が頼んだことだ。実際、上手くいったではないか。リカがああ言ってくれたおかげで村人たちも安心してくれたし、私も安心できたのだ」
「……ジー君」
自身に向けられた村人たちの怒りやら怯えやら警戒やらの視線を思い出してうなだれるジーにリカは一瞬、正気を取り戻した。
でも――。
「だから、ありがトウゴザイマス、マスター」
「ジーくぅぅぅうううーーーん!!! やっぱり僕のことを許せないんだね! ジー君は優しいから許そうとしてくれてるけど、やっぱり許せないんだね!」
「……しまった」
「しまった、じゃないだろ! このぶきっちょ魔王が!」
「僕も僕自身をやっぱり許せない!」
「って言いながら早速、神剣を自分の首にあてないでください! 勇者様ぁぁぁあああーーー!!!」
「リカ、落ち着いて。落ち着いて、リカ」
再び神剣を自分の首に当てるリカにラレンは表情も心の中もギャン泣きで叫び、ジーは表情は淡々としているけど心の中はギャン泣きでつぶやいた。
そして――。
「ジー君は僕の幼馴染で親友で対等な存在だ! それか僕の憧れで、僕の勇者様で、崇め奉る存在! なんなら崇め奉る存在! むしろ圧倒的に崇め奉る存在! ジー君に〝ご
リカもまた、表情も心の中もギャン泣きで絶叫した。
「うわぁぁぁあああーーー!!! 気持ちはよくわかります! 推しは崇め奉る存在! その気持ちはよーーーくわかります! わかりますけれども! 勇者様が倒すべき魔王のことを憧れで勇者様で崇め奉る存在とか言っちゃうのはどうなんでしょう! 推しがそんなことを言ってるのを聞いちゃった僕の気持ちはどうなっちゃうんでしょう! グッチャグチャになっちゃうでしょーーー!!!」
「私もリカのことは対等な存在だと思っている。私の大切ナオサナナジミデシンユウデマスター……アレ?」
「いいかげんに本来の自分を思い出せ! この超絶ぶきっちょ魔王が!」
「〝ご
〝推しの解釈〟については全力で首を縦に振りつつ、
ワーワーギャーギャーと賑やかな三人を振り返ってオリーとバラハはのんきに言った。
「おーい、三人ともさっさと来ぉーい」
「もうすぐ目的地に到着しますよー」
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