05-05 よーく知ってる。

「十五年前、村が魔族に襲われたときのことを聞きたい?」


「〝……みの懺悔〟」


 村に帰ってきた本来の目的にようやくたどり着けたオリーとバラハはほっと息をついた。リカがぼそりと何かつぶやき、神剣が淡く白い光を放ったのが気になりはしたけど、今はそれよりも年かさの村人たちから本題を話してもらう方が重要だ。

 なにせ説明しているとちょこちょこ――。


「ほら、去年作った果実酒だよ。飲みな、飲みな!」


 とか――。


「村で作ったチーズですぅ。勇者様のお口に合うかわかりませんがどうぞ、どうぞ!」


「いやいや、チーズより肉だろ! イノシシの干し肉を持ってこい!」


「いやいやいやいや、肉よりも木の実! 木の実の方が果実酒には合うって!」


 とかとか――。


「ゆうしゃさまのまぞくさんはおにく、たべる? きのみのほうがすき?」


「ユウシャサマノマゾクサン、キノミ、タベル。キノミ、スキ」


 とかとかとか――。

 割って入ってきては関係ない話をして横道にそれたあげく、その横道をずんずんと進んでいってしまうのだ。


魔王コイツ、完全にカタコトキャラが定着しちゃってるじゃん。村の子になつかれちゃってる……って言うよりなついちゃってるじゃん」


 すっかり仲良しになった小さな女の子にカタコトでしゃべり続けているジーを見てラレンはあきれ顔になる。

 そんな横道にそれ気味の仲間のことも全力放置でオリーとバラハは年かさの村人たちの話を聞くべく身を乗り出した。


「魔族に襲われたときのことって言うか、村を襲った魔族のことが知りたいんだ」


「どんな姿をしていたかとか、仲間同士でどんな話をしていたかとか。どんな情報でも構わないんです」


 年かさの村人たちは互いに顔を見合わせ、そのうちにゆるゆると首を横に振った。


「十五年前に村を襲った魔族の姿を見たのはアンブリーとゲイブリー、それとゴードルフ、モーリップの四人だけだ」


「私たちが見たのは残されていた魔族の体の一部だけ」


「領主様が一旦は捕らえたけれど逃がしてしまったという魔族の……」


「その〝残された魔族の体の一部〟というのは何だったんですか」


 バラハに尋ねられて大人たちは再び顔を見合わせた。小さな子供たちを気づかってか。顔を寄せ、声をひそめて言う。


「目玉だよ」


「赤い目の眼球が一つ」


 その場にいる全員の視線が赤い目で隻眼のジーにそそがれた。


 魔族と人族はずっと戦争をしている。魔族は人族を滅ぼそうとしている。村人たちを含め、人族の土地に暮らす人間たちはみんな、そう信じているのだ。魔族が目の前に現れればおびえるのは当然のことだ。

 でも、ジーに対する大人たちの反応はおびえの中に怒りが含まれていた。憎しみが混じっていた。その原因は赤い目と隻眼。かつて村を襲った魔族が再びやってきたと勘違いしたためだったらしい。


「勇者様が手なずけてるのに疑うなんて失礼なことを……本当にもうしわけない」


「いえいえ」


 ジーではなく自分に向かって頭を下げる村人たちにリカは完璧な勇者スマイルを浮かべつつ、神剣の柄をなでなでなでなでした。事情を知っているし、不満の理由もよーくわかっているオリーとバラハ、ラレンはリカの張り付いた笑顔に顔を引きつらせた。


「まあ、そんなわけだからアンブリーとゲイブリー、ゴードルフとモーリップに話を聞いた方が詳しくわかる」


「たしか四人とも、あのときの一件がきっかけで領主様のところで働き始めたんですよね」


「今も領主様のところで働いてるのか?」


 バラハとオリーに尋ねられた大人たちは次々にうなずいた。


「ああ、今も領主様のもとで働いてるよ。別荘の管理を任されているそうだ」


「その別荘の場所ってのはどこなんだ?」


「この村からだとどれくらいかかりますか」


 魔王を倒すために長くつらい旅をしてきたせいか、次の目的地に思いをはせて顔を強張らせるオリーとバラハに村人たちはゲラゲラと笑って答えた。


「どこも何も俺たちの村が元あった場所だよ」


「オリーもバラハもよーく知ってるとおり、目と鼻の先だ」

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