04-04 話して聞かせてくれたから。
話がひと段落したところでジーキルが
「オリーとバラハの村はその後、どうなったんだ」
ジーは目をふせたまま尋ねた。あいかわらず表情は変わらないけれど、恐らく心の中では暗い表情をしているのだろう。
肩を落とすジーを
「痩せた土地だったし魔王領が近くて瘴気の影響もそれなりにある場所だったからな。焼け落ちた村は捨てて領主様が用意してくれた新しい土地に全員で引っ越したんだ。村を捨てることに年寄り連中はずいぶんと抵抗したけどな」
「森から離れるのも不安だったのでしょう。森でとれる木の実やきのこ、ウサギやイノシシの肉をあてにして長年、生活してきましたからね」
「あの村を開拓したのは年寄り連中の親世代だ。思い入れがあるってのもあるだろうが、それ以上にもう一回、あの苦労をすると思うときつかったんだろうな。荒れ地を拓いて、家を建てて、畑を耕して……そういう苦労をよく知ってるし、散々に経験してる」
「実際、かなりきつかったですしね」
苦笑いで言ったあと、バラハはため息とともに天井を仰ぎ見た。
「あの年の冬は特に死人が多かったですから」
バラハの言葉にオリーはただ、ジーキルが淹れてくれたお茶を一気に飲み干した。
重苦しい沈黙に耐えられなくなったのかもしれない。
「オリーとバラハが生まれた村は魔王領に一番、近い村だったんだよね。たしか、領主はアーロン・ユーバンク男爵。下級貴族ユーバンク家の四男で本来は爵位も領地ももらえない立場だったけど、指揮官として前線に立って魔族の進軍を
イスの背もたれに背を預け、足を組み直すとラレンが話し始めた。
「そのアーロン男爵から小さい頃に戦場での話を聞かせてもらったことがある。アーロン男爵が対峙したのは魔族の中でもサキュバス、インキュバスと呼ばれている種族。勇者様も、オリーやバラハも、子供の頃に親や乳母たちに話してもらったんじゃないかな」
「私も母によく話してもらった。〝ネヌシボラ平野の戦い〟という名だったか。……親たちが幼い子供――特に男の子に語って聞かせる英雄譚だ。三百年前の魔族と人族の戦争を題材にしているのだと思う」
ジーの最後の言葉は首をかしげているジーキルに向けての言葉だ。それを聞いたジーキルはなるほどとうなずき、ラレンは目を丸くした。自分たち人族の子供が親や周囲の大人たちから話して聞かせてもらう話を魔族の長で魔王であるジーも知っていることに驚いたのだ。
でも――。
「懐かしいなぁ。俺もよくおふくろに話してもらったよ」
「私はあまり。母も父も妹たちがねだる物語ばかり話して聞かせていましたから」
「その話なら僕も知ってるよ。父や祖母はそういうことを全然してくれなかったけど、ジー君のうちに行ったときにジー君のお母さんが話して聞かせてくれたから。ホント、懐かしいなぁ」
オリーとバラハの懐かし気な微笑みを見て。勇者であるリカが目を輝かせてそう話すのを聞いて。心の中では懐かし気に目を細めているんだろうけどあいかわらず表情の変わらないジーを見て。
「それぞれ、みんな、いろいろあるんだな」
ラレンはぽつりとつぶやいたのだった。
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