03-04 気を失ってしまったようですよ。

「魔王領の端にある町にたどり着くまでの砂漠や草原、森でリカたちがバッサバッサと斬って倒した敵というのは恐らく、警備・偵察用の自動泥人形――ゴーレムのことだろう」


「そっか、ゴーレムかー! それなら良かった。ジー君の部下か持ち駒か下僕か捨て駒か税金の搾り取り先な魔族をバッサバッサと斬って倒してたらどうしようかと思ったよ」


 ほーーーっと盛大に安堵のため息をつくリカに安心しろと言わんばかりにジーは深くうなずいて見せた。


「ああ、大丈夫だ。あのゴーレムはすべて私が土魔法で作り上げたもの。壊されてもまた作ればいいだけだ。実際、壊されたそばから補充していたしな」


 だから、安心しろと言わんばかりにもう一度、深くうなずいて見せるジーにラレンとバラハは青ざめ、オリーはげんなりとした顔になった。


「魔族と見まがうほどに精巧なゴーレムをあの数、作ったってこと? 魔王、お前……気色悪いな」


「……気色悪い」


「あの巨大なゴーレムをあれだけの数、作って維持していたというのも……どれだけの魔力量なんですか。気色悪いとは言いませんが魔法使いとしてはちょっとうらやましくてムカつきます」


「……ムカつく」


「倒したそばから補充されてたのか、アイツら。なんか、すごい脱力感」


「……脱力感」


 ラレンとバラハ、オリーの反応にジーがしょんぼりと肩を落としていると――。


「ジー君の敵は僕の敵。ジー君を傷付けようとするのなら僕は全力でジー君を守るし、全力でジー君を傷付けようとする者たちを排除する」


 リカが神剣をすらりと鞘から抜いた。勇者パーティの面々に戦慄が走る。


「ご、ごごごごめんなさい、勇者様ぁぁぁあああ!!!」


「ラレン、これはあれです! リカよりもジーに謝った方がいいパターンです、絶対に!」


「ラレンとバラハが気色悪いとかムカつくとか言ってすまなかった! だから許してやってくれ、ジー! リカを止めてくれ、ジー!」


「この筋肉バカ! なんで私とラレンだけなんですか! あなたも謝るんですよ!」


「オリーの脱力感だって絶対にダメージ与えてたから!」


「ジー君ががんばって作った物を壊す者も敵。ジー君ががんばって作った物を壊そうとするなら全力で守るし、全力で排除する。例え、それが――」


 気配はバッチリ消したまま、だけど声には殺気をダダ洩れさせたリカが神剣を片手に迫ってくるのだろうと慌てふためいていた勇者パーティの面々は――。


「僕自身であったとしても全力で排除する!」


「うわぁぁぁあああ、そうくるんですか! 勇者様ぁぁぁあああーーー!!!」


「ジー君が一生懸命作った物だったのに……ジー君が一生懸命作った物だったのに……!」


「神剣を自分の首にあてないでください、リカ! 筋肉バカ、押さえて! リカを押さえてください!」


「ジー君が一生懸命作った物を壊してまわってたなんて万死に値する! 万死に値するぅぅぅうううーーー!!!」


「よし、来た、バラハ! ほーーーら、ストップ! ストップだ、リカぁぁぁあああーーー!」


 神剣で自分の首を斬って倒す気満々のリカに別の意味で慌てふためいた。

 ラレンはオリーに強化魔法をかけ、バラハはリカの首まわりに風魔法を発生させて剣を防ぎ、ラレンの強化魔法でちょっとだけ筋肉モリモリ感が増したオリーはリカを後ろから羽交い絞めにした。


「放せー放してくれーーー! 幼馴染で親友のジー君が一生懸命に作った物を壊すなんて僕は最低だーーー! 生きてる価値なんてなーーーい!」


「魔王が呼び出した大量のゴーレムを勇者様がバッサバッサと倒したんですよ!? むしろ英雄譚として語り継がれるタイプの話なはずなんですが!!?」


「そんなことを言ってもムダですよ、ラレン! 今のリカは勇者じゃなくジーの幼馴染で親友なんですから!」


「それだ! ジー! リカを止めてくれ、ジー! ジーーー!」


 オリーに名前を呼ばれてもジーは淡々とした表情でリカを見つめたまま。止める気配も、声をかける気配もない。そんなジーを見たラレンは目をつりあげた。


「勇者様はお前のことをドン引きするくらい大切に思ってるのに! 勇者様が自責の念に駆られて自ら命を絶とうとしてるってときにお前は黙って見てるだけか!」


「たしかにドン引きではあるけれども! それは言ってやるな、ラレン!」


「お前ごときが作った物を壊したくらいで命を絶とうとするとか勇者様もどういう神経してるんだとは思うけど、お前もどういう神経してんだよ!」


「ラレンー! トゲが隠しきれてないぞー! 言葉のトゲがすさまじくトゲトゲシしてるぞーーー!」


「勇者様がお前をどれだけ高く評価しようとやっぱりお前は冷酷非道の魔王だ! 最低最悪の魔王だ!」


 杖をぶんぶん振り回しながら叫ぶラレンに、必死にリカを羽交い絞めにしたままオリーが叫ぶ。

 バラハはと言えばジーを見つめて黙り込んでいたのだが――。


「オリーもラレンもストップ。多分、今のジーに何を言ってもムダです。リカも剣を納めてください」


 そう言って振り返ると勇者パーティの面々をぐるりと見まわした。バラハの深刻な表情にオリーとラレンはもちろん、リカも動きを止めた。

 三人の様子を見てバラハはジーの前に歩み寄るとため息を一つ。そっとジーの肩に手を伸ばした。


「自分の首を剣で斬ろうなんていうショッキングな映像をリカが見せようとするから心の中はギャン泣きどころか、心が耐えきれなくて気を失ってしまったようですよ。この魔王様は」


「……ジー君?」


 バラハに肩を押されたジーは淡々とした表情のまま。


「ジーくぅぅぅうううーーーん!!!」


 重力に逆らうことなく後ろに引っくり返ったのだった。

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