03-03 なんだかごめんなさい、勇者様。

「ジー君、実は僕も次にジー君に会ったら聞きたいと思っていたことがあるんだ」


 勇者パーティの面々とのあいさつを一通り終えたジーの腕をリカが引いた。


「聞きたいこと? なんだ、リカ」


 首をかしげるジーにリカはこくりとうなずく。


「最初にこの魔王の間に転移される前、僕たちは砂漠や草原、森を越えて魔王領の一番端にある、魔族たちが暮らす町までたどり着いた」


「ふむ、魔族が暮らす場所と人族が暮らす場所はずいぶんと離れているからな。過酷な環境も多い。そこを歩いて来たとなれば長く大変な旅だったことだろう」


「その長くて大変な旅の途中途中で散々に、バッサバッサと斬って倒してきた敵のことなんだけど……」


 そこで言葉を切ったリカは口元を手で押さえ、真っ青な顔、震える声で尋ねた。


「あれってもしかして魔王であるジー君の部下な魔族たち?」


「部下というわけでは」


「持ち駒な魔族たち?」


「持ち駒というわけでも」


「下僕な魔族たち!? それとも捨て駒な魔族たち!!? それともそれとも税金の搾り取り先な魔族たち!!!?」


「……リカ」


 止まらないリカをジーは静かに手で制した。


「私は魔族の長で魔王ではあるがこの魔王領で暮らす者すべて、私の部下というわけでも持ち駒というわけでも下僕というわけでも捨て駒というわけでも税金の搾り取り先というわけでもない。……というか、領民をそんな風に扱うように見られているのか、私は」


「お、心の中でギャン泣きだ」


「これは間違いなく心の中でギャン泣きですね」


 しょんぼりと肩を落とすジーを見てオリーとバラハはギャン泣きの元凶とも言えるリカをあきれ顔で見た。


「まさか。ジー君がそんなことをするなんて微塵みじんも思ってないよ」


 ところが当のリカはあっさりと首を横に振った。


「ただ、人族の領主や貴族、王族はそろいもそろってそうだから、そんな風に扱わなければならない、平民には想像もつかないようなやむにやまれぬどうしようもない事情でもあるのかなと思って」


「勇者様!?」


「だから、優しいジー君も魔族の長で魔王である以上、そんな風に魔王領の領民を扱わざるおえないんじゃないかと思ったんだけど……なんだぁ、やむにやまれぬどうしようもない事情は魔王領にはないんだね! それなら、よかったぁ!」


「なんだかごめんなさい、勇者様ぁぁぁあああーーー!」


 アルマリア神聖帝国現国王の三人いる息子のうちの末の子で、国王になる可能性は低いけれど公爵位は確実で、王族なものだから旅に出るまでは盛大に世間知らずだった勇者崇拝過激派のラレンは、キラッキラの笑顔なリカの口から発せられた流れ弾を食らってギャン泣きしたのだった。

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