03-02 そして二日後――。

 人族と魔族とのあいだに生まれた二人の子供はほんの一瞬の邂逅ではあったけれど深い絆を結び、幼馴染となり、親友となった。

 それから十五年の時が流れ、二人は魔王城で再会した。


 片や、人族を守る勇者として。

 片や、魔族を従える魔王として。


 青年となった二人の子供はほんの一瞬の邂逅を果たし、再び別れ、そして二日後――。


「ジーくーーーん! 遊びに来たよーーー!」


「リカ!」


 再びの再会を果たした。


 魔王の間に突然、現れた魔法陣とその中から現れた四人の人影にジーは声をあげた。あいかわらず淡々とした表情のままだが幼馴染で親友との予想外に早い再会に驚きつつも喜んでいるらしい。玉座から身を乗り出した。

 と――。


「勇者一行を魔王領内で見かけたという情報が入りましたのでお約束通り、こっそりとお連れしました」


 ジーキルが魔王の間を支える太い柱の影から姿を現わした。


「ありがとう、ジーキル」


「ジラウザ様のお望みとあらば」


 胸に手を当てて一礼し、老紳士は再び影の中へと姿を消す。


「そんなに警戒しないでくれ。私の身の回りの世話をしてくれている者だ」


 ジーキルが姿を消したあと、玉座に座り直したジーは盾を構えるオリーと杖を構えるバラハ、ラレンに目を向けた。顔を見合わせた三人はそれぞれの武器を下ろした。オリーは苦笑いを浮かべ、バラハは肩をすくめる。ラレンだけは殺意マシマシの目つきでジーをにらみ上げ――。


「……どこからか、ジー君に殺意が向けられている気がする」


「どこからでしょうねー! 多分、きっと、勘違いですから神剣を鞘に納めましょうか、勇者様ぁぁぁあああ!!!」


 背中で何かを感じたらしいリカがすらりと剣を抜くのを見て悲鳴のような声をあげた。


「こんなに早く来てくれるとは思わなかった。歓迎するぞ、リカ。キミたちもだ、リカの友人たち」


 ラレンから殺気を向けられ、リカから過剰な保護を受けている当のジーはそれに気が付いているのか、いないのか。玉座から立ち上がり階段を下りるとのんきに両腕を広げて歓迎の意を表した。


「今さらだが名前を聞いてもいいか」


「バラハと言います。歓迎される理由での再訪かは微妙なところですが」


 これまたのんきに手を差し出して握手を求めるジーにバラハは苦笑いで応える。


「俺はオリーだ。いろいろと魔王アンタには聞きたいことがあるんだ」


「奇遇だな、私もキミたちに聞きたいことがあったんだ」


 差し出した手をガシッ! と、つかんだオリーの大きく力強い手にジーはビクリと肩を震わせた。しかし、それも一瞬のこと。ニカッと歯を見せて笑うオリーを見て肩の力を抜くと手を握り返す。

 そして――。


「……それと?」


 警戒心と敵意むき出しの表情で距離を取っているラレンにも手を差し出しながら歩み寄った。ジーが何を求めているのかわかった上でラレンはそっぽを向く。


「魔王に名乗る名前も魔王と握手するための手も持ち合わせてはいない! 勇者様やバカでお人好しのオリーとバラハは丸め込めても僕はそんなに甘くないからな!」


「……そう、か」


「そこまで盛大に肩を落としてうなだれないでください、ジー。あなた、本当にまったく表情が変わらないんですね」


「おーい、ラレン。ジーに謝れー。顔には出てないけど、これ、絶対に心の中はギャン泣きだぞ」


「う、うううるさい! バラハもオリーも誰の味方なんだよ! そいつは魔王だぞ!?」


 オリーとバラハに白い目を向けられて――というよりは表情こそ変わらないけれど明らかに肩を落とし、なんだったらちょっと目を潤ませているジーに動揺しながらもラレンはビシッ! と指さして抗議した。

 そんなラレンの背後に――。


「ラレン、ジー君を悲しませるの? 泣かせるの?」


 リカは気配もなく迫ると神剣をすらりと鞘から抜いた。


「うわぁぁぁあああーーー! ごめんなさい、ごめんなさい! 悲しませません! 泣かせません! ラレンだ、魔王! 握手、握手!」


 気配はバッチリ消しているのに声に殺気がダダ洩れているリカに半泣きになりながらラレンはジーの手を握ると上下に振った。やけっぱちのようにぶんぶんと上下に振った。


「ラレンか。私はジラウザ・デュドヴァン。良ければリカと同じようにジーと呼んでくれ。握手、握手」


 ジーの背後に立つリカがラレンに無言でプレッシャーをかけていることに気が付いているのかいないのか。ジーはいつも通りの淡々とした表情で、しかし、どことなくウキウキした様子でラレンと繋いだ手を上下に振り続けたのだった。

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