01-11 それじゃあ、またね。
「急に来て大騒ぎしちゃってごめんね、ジー君。今日のところはとりあえず帰るよ」
「そうか」
長いこと黙り込んだあと、リカは階段を下り始めた。ジーが座る玉座の置かれた壇上から仲間たちがへたり込んでいるどんよりとした色の床に向かって。
「久々にジー君に会えて嬉しかったよ」
「私もだ」
「まだまだ話したいことがあるから、またすぐに来るね」
「待っている」
あいかわらず表情は全然、変わらないけれど多分、きっと、心の中では微笑んでいるのだろうジーに微笑み返してリカはへたり込んでいるオリーとバラハ、杖を握りしめているラレンと同じ場所に降り立った。
「……」
黙って見つめるリカにオリーは苦笑いを返し、バラハは肩をすくめてみせた。
「まさか魔王を目の前にして一旦、帰る……なんてことになるとは」
「魔王と一度、
ラレンはと言うと――。
「そうです! とにかく一旦、ここを離れましょう! 勇者様は騙されているんです! 魅了の呪いをかけられているんです! バカでお人好しなオリーとバラハも完全にダメだし、このままでは最後の砦の僕も丸め込まれてしまう!」
頭をかきむしっている。
「だから、誰がバカでお人好しなんだ、ラレン」
「完全にダメとは失礼もいいとこですよ、ラレン。あと最後の砦とか自分で言わないように」
「このままでは最後の砦の僕まで
オリーとバラハに白い目で見られても完全無視でラレンは頭をかきむしっている。
「魔王を倒して帰るか、死んでおしまいか――か。どちらにもならずにすんでよかった」
ワーワーギャーギャーと賑やかだった勇者パーティは静かだがよく通るジーの声に口をつぐんだ。
「リカは私にとって大切な幼馴染で親友だ。君たちはそんなリカにとって大切な仲間だ。戦わずにすむのならその方が良い。……また魔王城の近くに来ることがあったら寄ってくれ。歓迎する。君たちはリカの大切な仲間で、友人だからな」
表情は全然、変わらないけれど多分、きっと、心の中では微笑んでいるのだろうジーを見上げたオリーとバラハ、ラレンの三人は顔を見合わせるとなんとも言えない微妙な表情を浮かべた。
三人の表情から見える警戒と敵意にジーは残念そうにうなだれた。でも、すぐに顔をあげるとリカに向きなおる。
「
「ありがとう、ジー君」
人族と魔族とのあいだに生まれた二人の子供はほんの一瞬の邂逅ではあったけれど深い絆を結び、幼馴染となり、親友となった。
それから十五年の時が流れ、二人は魔王城で再会した。
片や、人族を守る勇者として。
片や、魔族を従える魔王として。
青年となった二人の子供はほんの一瞬の邂逅を果たし、そして今――。
「それじゃあ、またね」
「ああ、また」
再び、別れた。
リカとオリー、バラハ、ラレンの足元に魔法陣が現れ、四人は一瞬にして魔王の間から姿を消した。しん……と静まり返った魔王の間をジーは淡々とした表情のまま見つめた。
「そういえば……」
しばらく黙り込んでいたジーだったがふとつぶやく。
「魔王と魔族が人族を滅ぼそうとしていると言っていたがあれはどういう意味だったのだろうか。……聞き損ねてしまった」
魔王の間の高い、高い天井を見上げてみても答えが書いてあるわけでも返ってくるわけでもない。
「いずれまた、リカはまた遊びに来てくれるだろう。そのときに聞いてみるとしようか」
ひとり、つぶやいたジーは玉座のひじ掛けに頬杖をついて片方は眼帯に覆われている赤い瞳を閉じたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます