01-10 ……悲しい。
「やめるんだ、リカ」
「ジー君、どうして……?」
リカの手首を掴んで止めたのはジーだった。予想外の制止にリカは呆然とジーの赤い瞳を見上げた。
動揺で一瞬、揺らいだリカの瞳だったがすぐに風のない湖のように凪いだ瞳に戻る。冷たい怒りを押し隠した瞳だ。
「ジー君を攻撃してきた相手だよ。ちょっと痛めつけておこうなんて考えじゃない。ジー君を……魔王を殺すつもりで攻撃してきてる。それなのに、どうして止めるの?」
「……リカ」
自分の身を案じて出てきた幼馴染で親友の言葉に、しかし、ジーはゆっくりと首を横に振った。
「殺されるのは怖い。だが……」
「だが?」
やや強い口調で繰り返すリカから目をそらすようにうつむきながらジーはぼそりと続けた。
「すぐ目の前で斧や剣を振り回されるのもかなり怖い」
「ジー君……!」
「魔王なのに!?」
ジーとリカのやり取りをひとまず見守っていたオリーが思わず叫ぶ。
「それと雷も……怖い」
「ジーくぅぅぅーーーん!」
「魔王なのに!?」
ジーとリカのやり取りをとりあえず見守っていたバラハも思わず叫ぶ。
オリーとバラハのツッコミなんて完全無視でハッと目を見開いたリカはジーの手を取ると両手でぎゅっと握りしめた。
「ジー君! 今、気が付いたけど僕の腕をつかむジー君の手、プルプル震えているじゃないか!」
「……怖くて」
「ジー君……!」
「肩を落としてうなだれるな、魔王ー! 表情は全然、変わらないけど多分、きっと、怯えてるんだよな、魔王ーーー!」
「ていうか、手だけじゃなくて全身、プルプル震えているじゃないか、ジー君!」
「……怖くて」
「ジーくぅぅぅーーーん!」
「またですか! また、顔には出ないけど心の中はギャン泣きってやつを披露してるんですか、この魔王!」
淡々とした表情のままうなだれるジーを見たリカはぶわぁ! と目に涙を浮かべると抱き着いた。オリーとバラハはといえば一通り、ツッコミを入れ終えると脱力してしまい戦意喪失。
そして――。
「そうやって、またまた勇者様やバカでお人好しなオリーやバラハを騙そうとしているんだな!」
「誰がバカでお人好しだ、ラレンー」
「筋肉バカのオリーはともかく、誰がバカでお人好しですか、ラレンー」
「オリーとバラハだよ! やる気なさげな感じで申し訳程度に僕にツッコミを入れてるオリーとバラハのことだよ!」
唯一、戦意を喪失していないラレンは地団駄を踏んだ。戦意は喪失していないけれど白魔導士は回復職。戦う術はない。
「それに……」
歯噛みするラレンをよそにジーは静かだがよく通る低い声で言った。
「例え、今は目的を
「それは……」
「そんな者同士が争う姿を見るのは……悲しい」
「……」
ジーの言葉にリカの金色の瞳に動揺が走る。うつむき、考え込み、リカは遠慮がちに壇の下にいるオリーとバラハ、それとラレンに目を向けた。
冷静さを取り戻したらしいリカの表情を見てラレンはほっと安堵の笑みを漏らした。しかし、すぐさま
「良いヤツぶったって僕は騙されないぞ! 魔王のクセになんてあざとい真似を! 姑息な手を使うな、魔王!」
敵意むき出しのラレンの視線を受け止めるでもなく、ジーはうなだれたまま、もう一度、つぶやいた。
「……悲しい」
「ジーくぅぅぅーーーん!!!」
「だ、騙されないし丸め込まれないからな、魔王ーーー!!!」
言いながらしおしおと
そして、そんなラレンを見て――。
「ほぼ丸め込まれてるな、ラレンのヤツ」
「そうですね、ほぼ丸め込まれてますね」
オリーとバラハはすっかり脱力してしまい、魔王城のどんよりとした色の床に座り込んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます