第13話 白の灯りじゃものたりない
「みなさんに、発表があります」
熱愛記事が発表されてから初めてのライブ。ここで、デビュー発表をすることになっていた。
しかし時期が時期なので私が「発表がある」と言葉を発した時、卒業ではとファンはざわつく。
重大発表に差し障りがあると嫌だったので、卒業じゃないよ。と軽い冗談のように否定をし、再度真剣な顔を作った。
緊張感がある空気になったところで口を開く。
「この度、リリュ……l'illutionsはデビューすることが決定しました」
デビューと言ったあたりで今までにないくらいの歓声が上がる。飛び上がって喜ぶ人もいれば、泣いてくれている人もいる。ここにいるのは私たちのことが本当に好きな人たちだけなんだと改めて実感した。
この大切な人たちをこれからも大切にしていきたい。だから、自分の中でけじめをつけるように言葉を続ける。
「先日は私のことでみなさんにご心配をおかけしてごめんない」
デビュー発表で盛り上がっていたところに水を差すように会場は静かになる。「あ、記事のこと触れるんだ」という動揺が伝わってきた。
私もこの流れで謝罪をするのは、皆の気持ちを下げてしまうようで避けたかった。だけど、何もなかった顔をしてこの先もアイドルを続けていくのは後ろめたさを感じた。
SNSでは肯定的な意見が多かったが、目に入るものがすべてではない。内心では怒りを抱えている人もいるだろうし、悲しい気持ちになった人もいただろう。私が謝ったところでその気持ちが晴れることはないと思う。
恐らく誰から見ても自己満足な行為になってしまっているが、
「これからも、リリュの一員としてこれまで以上に頑張って活動を続けていきたいと思います」
しんと静かになった空気の中、パチパチと拍手の音が響く。
拍手の音でみんな我に返るように「しろりり最高~!」「凜々架のことずっと好きだよー!!」「ずっとアイドル続けてね」と各々の言いたいことを大きな声で伝えてくれ、会場は熱気を取り戻した。
「そして発表はこれだけじゃないんだよね?」
ねむりから次の発表へ繋げるパスが来る。
「はい。これから披露する曲は、新曲となります。そして……」
「そして?」「そしてそして~?」と別メンバーが盛り上げた。それに乗っかるようにファンの皆が「何々~?」と合いの手を入れてくれる。盛り上がりが絶頂に達したところで次の言葉を紡ぐ。
「デビューシングルの表題曲になります!」
会場がうおおおおと大きな声に包まれる。気持ちの高まり続ける中、タイトルコールを入れた。
「それでは聴いてください。『恋は仄かに灯りを宿して』!」
バラード調のイントロが流れる。私はステージの真ん中に立ち、覚えてまだ間もない振りを披露する。
踊り慣れていないのでいつものようにはいかないが、前の曲に引き続き赤のペンライトを探しては、ありがとうの気持ちを込めて目を合わせていく。記事の効果か初めて見る人の姿もあった。しかも私推しだ。しっかりと顔を覚えられるように熟視しよう。
誰かのものになっても変わらずに愛してくれるファンたちへ掛ける言葉が見つからない。だから私は推してくれる人がいなくなるまでずっとアイドルを続けていこうと思う。上手い言葉が見つからないから行動で示していきたい。ダンスも歌も、もっともっと上手くなって、皆が自慢できる推しになっていくよ。
そして最後の列に差し掛かったとき、見つけてしまった。
白沢を。
白沢はいつも通りにねむりを目で追っている。私のことが好きなはずなのになぜ推しは変わらない。
でもまぁいい。きっと推しとはそういうものなんだ。
私を推してくれる人の中には独り身の人もいれば、恋人がいる人、結婚している人もいるだろう。それぞれの人生を歩む中で一番好きな人は私ではないかもしれないけど、ここにいる時間は私を一番に好きでいてくれる。それだけで十分だ。
私だって、推しはここで赤いペンライトを持った人たちなんだから。だから白沢が誰を推そうが受け入れよう。ここではねむりが一番かもしれないけど、外に出たらきっと一番好きな人は別にいる。そう、推しは推し。
しかし私は気づいてしまった。
今日の白沢の手には、白と
赤のペンライトがあったことを。
〈了〉
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