第十五章 ウィシュアール王国 全編
風のエレメントストーンを手に入れた翌日。リゾットとキッシュが、宿屋へとやって来た。
「昨日はライム達のおかげで助かった。本当に感謝している」
「それで、オラ達皆にお礼がしたいって思って、ここに来たんだ」
僕達が借りている部屋へと入ってきた二人が、にこやかな笑顔で話し始める。
「オイラ達の家は湯屋をやってるんだ」
「それで、父ちゃん達に頼んで、今日は貸し切りにしてもらったんだ」
リゾットの言葉にキッシュが続けて話す。
「つまり、俺達の為に湯屋を貸し切りにしてくれた……って事か?」
「ああ、そう言う事だ。皆怪鳥との戦いで疲れただろ。うちの湯屋で疲労回復していくと良い」
ライムの問いかけに彼が一つ頷き言った。
「お風呂か……最近全然入れてなかったから良いわね」
「うん。ここの所戦い続きで、疲れも溜まっていたし、良いんじゃないかな」
風呂に入れると言う事で、ピーチとアップルが嬉しそうにはしゃぐ。
「それじゃあ、家に案内するよ」
キッシュが言うと微笑む。それから僕達は二人の家へと向かって行った。
湯屋へとやってきた僕達は、風呂用の肌着を借りて大浴場へと入る。
「わぁ。ひろ~い!!」
ライムが感嘆の声を上げて湯船へと飛び込む。
この湯屋の風呂は僕が以前生きていた世界で言うと、日本の天然露天風呂の様な感じの所だ。違うといえば、それが岩風呂だと言う所だろうか。
天然の源泉が岩山のマグマにより熱せられて出来たお湯が使われているらしく、マグマ風呂と呼ばれ観光の名所にもなっているらしい。
「はぁ~。やっぱりお風呂は良いわね~」
「うん。気持ち良い~♪」
湯に浸かりながらピーチが言うと、それにアップルが同意する。
「生き返りますね」
レモンも一つ伸びをすると呟く。
「これだけ広いと、泳ぎたくなるよな」
「そうだね……」
ライムの言葉にのんびりした口調でタルトが答える。
「セツナも早く入りなよ」
「僕は体を洗ってから入るよ」
洗い場の前まで移動してきた僕に、アップルがこちらに振り返り声をかけてきた。
僕はそれに淡々とした口調で言葉を返すと、石で出来た椅子に腰掛け石けんを手に取る。
それから数分後、僕が風呂に入るのと入れ替えに、散々湯船で遊びはしゃいでいた皆が、風呂から出ると体を洗いに行った。
僕達が風呂から出たのは、それから二時間後の事だ。
「この道を真っ直ぐ進んで行けば、サーラーン地方に入る」
「そうすれば直ぐに、ウィシュアール王国に着くはずだよ」
湯屋に行った日から更に三日、タルトの体調が整うまでこの村で過ごすと、今日旅立つ事になった。
村の出入り口の前まで見送りに来たリゾットとキッシュが口々にそう言う。
「この道を真っ直ぐ行けば良いんだな。二人とも色々と有り難う」
「ライム達のおかげで色々と楽しかった。……道中気を付けて」
ライムの言葉にリゾットが言うと微笑む。
「またこの村に立ち寄ることがあったら、オラ達に会いに来てくれよ。そしたらまた、父ちゃん達に頼んで湯屋を貸し切りにしてもらうから」
「キッシュ有り難う。でも、次に来た時はちゃんと料金を払って湯屋に入るわ」
キッシュの言葉に、ピーチが小さく笑いながら喋ると一つ頷く。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
「ああ。それじゃあ……二人とも元気で。さよなら」
僕は皆を促すとそれにライムが返事をし、二人に別れの言葉を述べた。
「ライム達も元気でな」
彼の言葉にリゾットが、笑顔で言うと手を振る。
「「皆~さよなら」」
きびすを返し歩き出した僕達の背後から、涙声で叫ぶ二人の声がかけられたが、その声に誰一人として振り返る者はいなかった。
「あの門を潜れば、サーラーン地方ですね」
前方にそびえ立つ門が、くっきりと見えるとレモンが声をあげる。
リトラール村を発ってから約三時間が過ぎ、僕達は今検問所の近くまで来ていた。
この検問所は領土を巡り国同士が戦い合っていた頃に、時の国王により建てられた物で、平和になった今では旅人達の休息所として使われている。
「ここでちょっと休んで行くの?」
「いや。ここを抜ければ、直ぐにウィシュアール王国に着く。だから、宿屋で休もう」
検問所の門までやって来た時に、アップルが立ち止まり尋ねた。それにライムが頭を振ると答える。
「分かった。なら、このまま抜けて行こう。ウィシュアール王国…どんな街なのか楽しみだね」
アップルが言うと、上機嫌に鼻歌を歌いながら歩き出す。
「この門を潜ればついにサーラーン地方。レモンちゃん。わくわくするね」
「はい、そうですね」
僕の背後から、浮かれたタルトとレモンの声が聞こえた。
「よ~し、一気に駆け抜けるぞ」
ライムのかけ声に、僕以外の皆が頷くと走り出す。
「……うるさい」
駆けて行く皆の姿を眺めながら、僕は小さく溜息を吐いた。
検問所を抜けてから暫く歩くと、砂利道が石畳へと変わる。更に進んで行くと、前方に古びた城壁が見え始めた。
この城壁も時の国王により作られた物で、かつての人々が苦労して積み上げた大きな岩で出来ている。
が、長い年月雨曝しだった為に今や所々欠けており、その上全体が清々しいまでの緑の苔に蔽われていた。
「ふぅ……。到着!」
街に着くなりライムが小さく息を吐き出すと、乱れた呼吸を整え明るい声で言い放つ。その声に道行く人達が一瞬こちらを見やるが、すぐに皆何事も無かったかの様に通り過ぎて行った。
「思っていたより、長い道程でしたね」
「真っ直ぐ歩いて来ただけだけど、意外に疲れた……」
長時間歩いた事により、吹き出た汗を手の甲で拭いながらレモンが言う。その彼女の背後からタルトが、疲れきった顔で小さく言葉を吐く。
「いつまでもへばってないで、さっさとお城に行くよ」
「えっ、お城に?」
城壁の前で立ち止まり、一向に動こうとしない皆へ向けて僕は言う。
すると、意味が分からないと言いたげにピーチが言うと、不思議そうな顔で僕を見やった。
「……このサーラーン地方を旅するのに、国王からの許可書を貰いに行かないといけないでしょ」
「「「「「あ」」」」」
淡々とした口調で僕が言うと、ライム達が声をそろえて呟く。
「……まさか、ボルカノ地方の許可書で、旅するつもりだったの」
「「「「「うっ……」」」」」
完全に忘れていたらしい彼等へ向けて冷たい言葉を投げかけると、図星を指され表情を引きつらせながら皆一斉に渋い声をあげた。
「……」
「は、はははは。さぁ、お城へ行こう」
無言で冷めた眼差しを皆へと送ると、ライムがわざとらしい笑い声をあげ歩き出す。
「うんうん。レッツゴー」
それに続くようにアップルが大きく頷くと、棒読みで言葉を吐く。
「別に、どうでも良いけど。城はそっちじゃないよ」
ライム達が忘れていた事など僕にとっては本当にどうでも良い出来事なので、特に何とも思わなかったが、明らかに城とは真逆の方向に歩き出した彼等へ向けて小さく言葉を述べる。
その言葉に皆が無言のまま慌てて方向を変えると、今度こそ城へと向けて歩き出して行った。
「あれ。どうしたんだろう……」
城の近くへやって来ると、城門の前に人盛りが出来ていて、怪訝に思ったタルトが首を傾げながら呟く。
「あの、どうかされたのですか」
「王様が突如城を抜け出し、行方知れずなんだよ」
そちらに近付くと、レモンが一番近くにいた王国兵士の青年に尋ねる。
「えっ。行方不明!?」
「明日は、陛下のお誕生日だというのに……ああ、困ったものだ」
ライムが驚き目を白黒させる。そこに、大臣らしき初老の男性が頭を抱え喚く声が聞こえてきた。
「大臣殿、落ち着いてください。……兎に角皆で手分けして陛下を探しましょう」
黒いタキシードを着た二十代後半ぐらいの男性が、大臣を宥めると兵士達へ向けて命令する。彼の言葉に兵士達が一斉にきびすを返すと、走り去って行った。
「大臣殿。いかな陛下でも国の外までは行っていないでしょう。ですから、手分けして探せば必ず見つかりますよ」
「うぅむ……。そうであると助かりますが。ああ…陛下は一体何をお考えで…はぁ~」
男性の言葉に大臣が呻き声をあげ言うと盛大に溜息を吐く。暫くすると彼等は城の中へと戻って行った。
「大変だ。俺達も王様を探そう」
「そうだね。行方不明って言ってたし、心配だよね」
話がひと段落ついた所でライムが、僕達の方へ体を向きやり言う。その言葉にアップルも同意して頷く。
「ちょっと待った」
「「「「「え?」」」」」
僕の呟きに皆怪訝そうにこちらを見やった。
「僕達は王様の名前も、容姿や年齢も知らないのに、どうやって探す気なの」
「「「「「あ」」」」」
僕の言葉にまるでディジャブの様に、ライム達が声をそろえて呟く。
「やっぱり何も考えていなかったね。王様を探すのは諦めて、僕達は今夜泊まる宿屋を探すよ」
冷ややかな眼差しを皆へ向けて言うと、僕はさっさと歩き出して行った。
「私達が今いるのは、大通りだから……ここから南に行ったところにある職人通りの方に宿屋があるみたい」
ピーチが旅人用に作られた街内地図を見ながら呟く。
なぜ、そんなものを持っているのかと言うと、先程休息で立ち寄った料理店で僕達が旅人だと知った店主がくれたからだ。
「えっと……職人通りへ行く道は、この道であってるのかな」
「今いるのは大通りの第四地区だから……うん。ここから見えるあの教会を目印に進んでいけば、職人通りに出れるはずよ」
ライムの言葉に地図と睨めっこしていた彼女が顔を上げると、前方に薄ら見える教会の屋根を指し示し説明する。
「それじゃあ、このまま道なりに進んで行けばいいんだね」
その言葉にタルトが軽い調子で話す。
「でも、この街は本当にデカイよな。道も建物もいっぱいあって、まるで迷路みたいだ」
「あ、ライムさん。前……」
頭を左右に振り景色を見やりながら、話し歩きをするライムへ向けて、レモンが慌てた様子で口を開いた。
「うわっ」
「っ」
彼女の言葉が終わる前に、彼は横道から走ってきた人物とぶつかり、お互い驚きの声をあげ尻餅をつく。
「あ~あ。ちゃんと前見て歩かないからだよ」
その様子を見てアップルが苦笑した。
「いたたっ……。あ、そうだ。君大丈夫か?」
ライムが腰を摩りながら立ち上がると、ぶつかって来た相手へ声をかける。
彼とぶつかった人物は十二、三歳位の少年で、鎖骨の辺りまである茶色の髪をうなじの所で一本結びにしており、頭にはキヤスケット風に仕上げた品の良い深緑色の千鳥格子帽子を目深まで被っていて、服装は上質な絹で作られたワイシャツにベルトのついた青緑色のズボン姿で、靴はこれまた上等な革で出来たこげ茶色のブーツを履いていた。
(明らかに、一般人じゃない……)
「……平気だ。君こそ怪我は無いか」
僕が内心でそんな事を呟いているなど知る由も無い彼が、静かに立ち上がると赤茶色の瞳をこちらへ向けて、短く答えた後ライムに尋ね返す。
「俺は大丈夫だ」
「そうか。……ぶつかってしまって、すまなかったな」
彼の言葉に少年が一つ頷くと、すまなさそうな表情を浮かべ謝る。
「いや。俺の方こそ、よそ見してたから……」
「だが、ぶつかってしまったのは私が悪い。君に怪我が無くて何よりだ」
苦笑いしながら話すライムに向けて、彼が首をゆるりと左右に振り言うと微笑む。
「君達は……見た所旅人のようだけれど、この街には観光にでも来たのか」
「俺達はメディンの森の精霊様の頼みで、世界に広まりつつある異変の真相を確かめるための旅をしているんだ」
少年の言葉にライムが軽薄な調子で、僕達の旅の目的を話し始める。
「君達が?!」
その話を聞いた彼が、驚愕の表情でこちらを見詰めた。
「それで、俺達は今世界の異変を鎮める事が出来ると言われている、六つのエレメントストーンを集める旅をしているんだ」
「エレメントストーンを……」
彼の言葉に出てきた単語を少年が復唱するように呟く。
「ああ。今火・水・風の三つまでは手に入れたから、残りの地・光・闇の三つのエレメントストーンを手に入れれれば、何とかなると思うんだ」
「そうか……大変な旅をしているんだな」
ライムの話が終わると、彼が小さく頷き僕達へ向けて言った。
「それで、このサーラーン地方を旅するための許可書を貰おうと思って、さっきお城へ行ったんだけど……王様が行方不明になっていて、凄い騒ぎだったわ」
「……そうなのか。それはそれで大変だな」
城での出来事を思い出しながらピーチが話すと、少年がそう言って小さく苦
笑する。
「心配だよね。王様……どこに行っちゃったんだろう」
「早く見つかると良いですよね」
アップルが心配そうに表情を曇らせて言うと、その横で同じ様な顔をしたレモンが小さく呟く。
「そうだな。早く見つかるといいな」
「……そんなに心配しなくても、もうそろそろ王様は城に戻るんじゃないの」
二人の言葉に同意するように話す彼へ向けて、僕は問いかけるように言う。
「……行方知れずになったのにも何か理由があるのだろう。王も、街中が騒ぎになる前には城に戻るさ」
「そうだと良いけど……」
少年の話にタルトがそう言って溜息を吐いた。
「それじゃあ、私はこれで失礼する」
「あ、そう言えば……急いでたみたいだけど……話し込んじゃって悪かったな」
彼が言って一礼すると、ライムが今気付いたと言わんばかりに話す。
「さして急いでいる訳ではないから、気にする事は無い。それでは、今度こそ失礼する」
少年が言うと歩き去って行った。
彼と別れてから二時間が過ぎ、僕達は職人通りに面している宿屋へとやって来る。
「さて、これからどうする」
部屋を借り荷物を降ろし一息ついていると、不意にアップルが口を開いた。
「どうするって言われても……アップルは、何かしたい事でもあるのか」
「うん。明日は王様の誕生日でしょ。それで今街で一週間お祭りをやってるんだって」
タルトの言葉に、満面の笑みで彼女は答える。
「そういえば、さっき宿屋の店主さんも同じ事言っていたわね」
「うん。それで、今からお祭りを見に行こうかなって、思ったんだけど……皆も一緒に行かない?」
ピーチも宿屋の料金を支払う時に、店主が話していた内容を思い返して言う。それにアップルが大きく頷き僕達に尋ねる。
その時、僕達が借りている部屋のドアを叩く音が響いた。
「はい」
「お客様宛てに封書を預かりましたので、届けに参りました」
ライムが怪訝そうに返事をすると、扉が開かれ店主が一通の白い封書を手に部屋へと入ってくる。
「封書? ……有り難う御座います」
「確かに届けましたよ。では、失礼致しました」
彼が更に怪訝そうに首を傾げると、それを受け取り礼を言う。
店主が言うと一礼して部屋を出て行った。
「僕達に封書なんて……一体誰から」
「ん~。封筒の方には、何も書いてない」
タルトが怪訝そうに眉を顰めると問いかける。
それに対してライムが、手に持つ封書の裏表をしっかり見やると、小さく唸り言う。
「それじゃあ、中を見てみたら」
「よし、それじゃあ開けるぞ。えっと……しょう、たい、じょう……招待状!?」
彼がアップルの言葉に従い、封を切り中に入っている上質な紙を取り出すと、たどたどしい口調で読み始める。
そして、自分で読み上げた単語に驚愕の声をあげると、まじまじとそれを見やった。
「招待状……って、何で。誰から、内容は」
「取り敢えず落ち着けって、そんな一遍には答えられないよ。今から読むから……」
興奮した様子で捲し立てるアップルへ向けてライムが言うと、書状に目を通し始める。
「えっと……明日、ウィシュアール城にて行われる国王生誕際のパーティーへ貴方方を招待致します。……当日、この書状を持ち、門番兵に見せて下さい」
「お城のパーティーへの招待状? どうして、そんな物が私達の所に届くのかしら」
彼が読み上げた内容に、ピーチが不思議そうに首を傾げ呟く。
「間違えとかじゃないですか」
「ちょっと、それ見せて。……招待状は六人分ずつ入ってる。明らかに僕達宛てに届いたものだね」
レモンの言葉に僕はライムから封書を受け取ると、中を確認して言った。
「どう言う事なんだろう」
「明日お城に行けば、分かるんじゃないの」
訝しげに問いかけたタルトの言葉に、僕は淡白に答える。
僕の言葉で話はまとまり、その後は街でやっている祭りを見に行き一日を過ごした。
翌日。城へとやってきた僕達は昨日届いた招待状を門番の兵士へと見せる。すると兵士がなぜか、気持ち悪いぐらいの笑顔を浮かべ、僕達を城内へと通した。
「陛下が中でお待ちだ。くれぐれも失礼の無いよう、気を付けてくれたまえ」
案内役の兵士の後を付いて行き、謁見の間の前まで来ると、彼が言って扉を開ける。
「王様。客人達を連れて参りました」
兵士が垂直に立ち緊張した声で言う。
「分かった。君は下がれ」
「はっ!」
その言葉に国王の声が発せられると、それに彼が短く応えた後立ち去っていく足音が聞こえた。
「よく来たな。皆顔を上げろ」
彼の言葉に従い、僕達は一斉に顔を上げる。すると、僕以外の全員が驚いて息を呑んだ。
「私が、この国の王……ババロアだ」
「っ。き……貴方が」
「王様だったのですか?!」
玉座に座りおかしそうに笑いながら、昨日ライムとぶつかった少年…ババロア王が言った。
ライムが大きな声をあげると、驚愕の表情で彼を見詰める。
ピーチも驚きの声を発すると、呆気にとられた様子で目を見開く。
「昨日は済まなかったな。……君達の事はバニラ女王から聞いている」
「え?」
彼の言葉にレモンが、目を丸くして呟いた。
「それで、今君達はエレメントストーンを探して、旅をしている様だが……エレメントストーンがどこにあるのか、知っているのか」
「いいえ。今までは立ち寄った村に、たまたまエレメントストーンがあっただけで……実際。どこに行けばエレメントストーンがあるのか、分からないんです」
彼の問いかけに、タルトが小さく頭を振ると丁重な口調で答える。
「……実は、エレメントストーンの行方に、心当たりがあるのだ」
「えっ。本当ですか」
静かな口調でババロア王が言うと、アップルが大きな声をあげ、確認の意味を込めて聞き返した。
「ああ。君達は、ガリレロ大陸を知っているか」
「え。ガリレロ大陸って言うと……」
彼がまず肯定すると、次に僕達に問いかける。その言葉にライムが呟くと、隣を見やった。
「うん。僕の故郷だ」
彼の視線の先にいたタルトが、軽く頷くと嬉しそうに話す。
「そうか、それなら話は早い。その大陸に地のエレメントストーンがあるという話だ。オルガノ王国の魔王がそのありかを知っているそうだ」
「え、魔王様が?」
ババロア王の話に、彼が驚愕の表情で言った。
「ま、魔王って……なんか凄い名前だね」
「魔王って言うのは、呼称であって名前ではないよ」
アップルの言葉に、僕は溜息混じりに言い放つ。
「あはは~。そうなんだ」
「でも、魔王だなんて、怖そうなイメージよね」
空笑いするアップルの横で、ピーチがそっと呟く。
「うん。まあ、魔王って言えば怖いイメージかもしれないけど、阿種族の王だから魔王って呼ばれてるだけで、実際。魔王様はそんなに恐ろしい人じゃないよ」
「そうだよな。……良かった」
笑いながら話したタルトの言葉に、ライムが大きな声で言う。
その後に誰にも聞取れない程の声音で呟いた言葉を、僕はしっかり聞き取っていたが、どうでも良い事だったので流した。
「それじゃあ、次の目的地はガリレロ大陸だね」
「そうですね」
アップルの言葉にレモンが相槌を打つ。
「魔王には、私の方から手紙を送って君達が行くことを伝えておこう。……それから、これが許可書だ」
話が一区切りついたところで、ババロア王が言うと、脇に控えていた付き人が書状の乗った盆を持って、僕達の方へ歩み寄って来るとライムの前で立ち止まる。
「有り難う御座います」
それを丁重に取り上げた彼が、礼の言葉を述べるとこうべを下げお辞儀した。
「それから、誕生日パーティーが行われるのは夜なので、それまでは自由に過ごすといい。……城の中が気になるのなら、見て回っても良いぞ。城の中を見る機会など滅多にないだろうからな」
「「「「「有り難う御座います」」」」」
彼がその言葉で締めくくると、口角を吊り上げいたずらっ子の様に笑う。
その言葉に瞳を眩しいくらいに輝かせた皆が礼を言うと、嬉しそうに扉へ向けて駆け出して行った。
「ははは。やはり、子どもだな」
「そういう君も、まだまだ子どもだけどね」
おかしそうに笑うババロア王へ向けて、僕は淡々とした口調で話す。
「王様に向かって、無礼な!」
「よい。……君は、もう少し子どもらしい事をしてみたらどうだ」
先程書状を持ってきた付き人が僕へ怒鳴る。
彼がそれを一言で止めると、僕へ向けて意図の分からない問いかけをしてきた。
「……僕は、ライム達とは違うからね」
「君はずいぶんと冷めているな」
それに淡々とした口調で言うと、ババロア王が表情の読めない面で呟く。
「お~い、セツナ。置いてくぞ!」
「……」
そこに僕を呼ぶライムの大声が聞こえて来たため、無言できびすを返し扉へと向かう。
「……子どもらしさなんて、僕には必要ない」
誰の耳にも届かない程小さな声で言うと、僕が来るのを待っている皆の下へと近寄って行った。
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