第八章 頂上決戦
僕達は食事をすませると疲れた体を休ませるために一眠りする。そして目を覚ますと頂上を目指して再び歩き出した。
「ねえ、あそこに光が見えるよ」
「え、ホントだ」
アップルが前方を指し示して大きな声を上げる。その言葉にタルトが反応するとそちらへと顔を向けて嬉しそうにそう言った。
「よし、皆。もうちょっとだ。頑張ろう!」
「はい」
ライムが僕達を見回して言うと右腕を天井へと向けて勢いよく突き上げる。その言葉にレモンが元気良く答えると小さく頷く。
僕達が光に近付いていくとそこには洞穴の入口と同じ大きさの穴が開いていて、そこから外へと出られるようになっていた。
「わ~い。頂上だわ」
「やった」
外に出るなりピーチが言うとその場で何度も飛び跳ねて喜ぶ。彼女の言葉に続くようにタルトも嬉しそうに笑いながらそう言った。
【グギャァァァ】
「「「「「っ!?」」」」」
突然低い唸り声が上空から聞えてくると、ライム達は身を縮こませて怯える。
「邪竜……」
僕はその声の主を見据えながら淡々とした口調で呟き、背中に下げている鞘から剣を抜き放ち構えた。
僕達の頭上にいるのは巨大な体格の竜で、瞳を怪しく光らせながらこちらを見てくる。
「あ、あれが邪竜」
「お、大きい……」
ライムがそう言うと生唾を飲み込む。アップルも呟きを零した。
「何ぼさっと突っ立ってるのさ。さっさと武器を構えてよね」
邪竜から目線を逸らさずに前方で棒立ち状態のライム達へ向けて僕は冷たく言い放つ。僕の言葉に皆が慌てた様子で武器を構えると急いで魔物から距離をとった。
【グギャァァァア】
「皆、来るぞ。気をつけろ」
邪竜が唸り声を上げながら一度態勢を低くしてから勢いよくこちらへ向かって突っ込んでくる。その様子にライムが声を張りあげ警告を発した。
【ガァァッ】
「っと。ふぅ~……」
魔物の体当たりを何とか横飛びで避けることに成功した彼が小さく安堵の息を吐きだすと額に滲んだ脂汗を拭う。
「食らえ。っ!? いった~い」
「アップルどうしたの」
邪竜の腹部へと勢いよく拳を突き付けたアップルだったが、途端に顔を歪ませて涙声をあげた。そんな彼女の様子にピーチが驚いて尋ねる。
「あいつの鱗が鋼のように硬くて手が痛くなっちゃった。いてててて……暫く手が使えそうにないや。皆ごめんね」
「分かった。俺が前に出て戦うからアップルは攻撃を食らわないように気を付けながら休んでいてくれ」
アップルが涙を流しながら言うと真っ赤にはれあがった手を摩った。その言葉にライムが頷き言うと彼女を庇うように前に出ていく。
「やぁ。……剣も効かない!?」
「そんな。どうすれば良いんですか」
先頭に立った彼が魔物に向けて剣を突きつけ攻撃するも、それは硬い鱗により簡単に弾かれてしまう。ライムの言葉にレモンが困り果てた様子で皆に尋ねた。
「可能性でしかないけど……魔法なら効くかもしれない」
「ええ。やってみましょう」
タルトの考えにピーチも同意する。
【グギャア】
「っ、ブレスだ。皆、気をつけろ」
邪竜が一鳴きするとブレスを吐くために大きく息を吸い込む。その様子を見たライムが警戒した声をあげる。
(ブレスを使える竜……)
僕はその技を持つ竜を本で読んだ事があった。しかしそれだけなら他の竜でも使える。
(鋼のように硬い鱗……濃紫色の皮膚……四本のコウモリ羽のような翼……それに二本の鋭い角と赤黒い瞳)
目の前にいる魔物の技がいつ来てもいいように警戒しながら、記憶を辿りその全ての特徴をもっている竜を思い起こす。
【ゴゥウウ】
「わぁ」
「ひゃあ」
そこへ邪竜のブレス攻撃が僕達に襲いかかる。
先頭にいるライムの下へそれが迫りくると、彼は技が当る瞬間に悲鳴をあげながらも顔だけは庇おうと両腕をクロスさせ顔面をおおう。
次にアップルの目前に攻撃が来ると、彼女は悲鳴に近い声をあげながらブレスを食らわないようにと素早い動きで地面にしゃがみ込み難を逃れた。
「っ……」
「きゃあ」
僕も技を受けて体制を崩すも瞬時に立て直して魔物から距離をとる。背後にいたピーチもブレスを食らったようで彼女の悲鳴が聞えてきた。
「くっ」
「きぁっ」
タルトも攻撃を受けた様子で苦しげな声をあげる。最後尾にいたレモンの下にも技が当ると、彼女はバランスを崩したようで尻餅をつく音が聞えた。
「レモン。大丈夫か」
「だ、大丈夫です」
ライムが心配して声をかけるとレモンがそれに答える。
「ウィンドシュート」
【グゥウウ】
ブレスを食らいながらも詠唱を続けていたらしいタルトの風属性の術が発動された。すると邪竜の下へ小さな風の刃が飛んでいきその体を切りつけ消える。技を受けた魔物は一瞬体制を崩し仰け返った。
「効いてる。魔法攻撃に弱いんだ」
「魔法が効く……思い出した」
嬉しそうに叫ぶアップルの言葉を聞き流しながら、以前本で読んだ内容を思い出した僕は声をあげる。
「セツナ。何を思い出したんだ?」
「……あいつは古代竜ビビンバ。鋼のように硬い鱗が身体を覆っているから、剣の攻撃は効かない。しかし魔法には弱い。……昔読んだ本に載っていたのさ」
ライムが僕を見やり聞いてきたので仕方なく答えた。
「魔法ならなんでも効くんですか?」
「火属性には耐久を持っているから効かない」
レモンの問いに僕は淡々とした口調でそう話す。
「ライムは魔法に切り替えて攻撃して」
「分かった。セツナ、前衛は任せた」
体力のあるビビンバに勝つためにはピーチとタルトの魔法攻撃だけでは到底太刀打ちできない。
僕は直ぐさま作戦を考えるとライムに命令する。彼はそれに大きな声で承諾すると背後へと下がっていった。
「シールド」
「レモン、有り難う。よーし、私も復活」
レモンの援護魔法がアップルにかけられると、それに彼女は礼を言って両手の拳を握り締め元気良く素振りしながら僕の前に立つ。
【グギァアア】
「はっ」
魔物が腕を振り下ろして僕に攻撃してくる。僕は大剣の平で上手にそれを受け流すとそのまま跳ね返した。
「飲まれろ、アクアヴェーブ」
【ギァゥア】
ライムの中級魔法がビビンバに向けて放たれる。素早い水の渦が相手を飲み込んで弾けると魔物は悲鳴をあげてよろけた。
「ロック」
【グアァァァ】
ピーチの技が発動されると、ビビンバの足元にある地面から巨大な岩石が競りあがり奴を突き刺して消える。
続けざまに攻撃を食らった魔物は苦しげに唸り声を上げて体制を崩し膝をつく。
「今だ、シャドウボール」
【グゥゥゥゥ】
タルトの闇魔法攻撃がビビンバの頭上より流星のごとく降り注ぐと、敵は苦しげに声をあげて大きな音をたてながら地に倒れ伏す。
「倒したの!?」
「や、やった」
戦闘態勢を一気に解いたアップルが言うと、ライムも嬉しそうに喜びの声をあげる。
「あれ、あそこにあるのは何だろう」
「っ」
彼女が魔物の背後にある何かを見つけて一歩足を踏み出す。その時に鋭い殺気を感じ取った僕は抜き放ったままの大剣を持ち直して前へと走り込む。
【グァア】
「えっ。ひゃあ」
死んだと思われていたビビンバが行き成り顔を上げるとアップル目掛け大きく口を開き突っ込んでくる。
予想外の出来事に彼女もその場から動くことができずただ悲鳴をあげて突っ立っていた。
「やっ」
アップルの前へと走り込んだ僕は数秒で魔物の全体を見回し喉元の鱗だけが薄い事を知ってそこを斬り付ける。
【ギァァァッ!!】
ビビンバが奇怪な悲鳴を上げて倒れると今度こそ事切れた。
「セツナ。有り難う」
「……別に。あそこに行くのに邪魔だったから斬っただけだよ」
笑顔で礼を言ってきた彼女から目を背けると邪竜が倒れている背後にある物に視線を投げかけながら淡白に言う。
「あ~。そ、そうなんだ……」
「何してるの。さっさとあそこに行くよ」
アップルの落胆した声が聞こえてきたが当然それを無視して彼等へと言葉を放った。
「「「「「え?」」」」」
「……単独行動は禁止なんでしょ」
同時に不思議そうな声を漏らす皆の様子に僕は彼等へと顔を向けやり、苛立たしい思いを胸に抱きながら淡々とした口調で呟く。
「あ、うん。皆行こう」
その言葉を聞いたライムがなぜか嬉しそうに笑み一つ頷くと、ピーチ達に声をかける。僕達がビビンバの背後にある物の前へと近付いていくと、そこには古めかしくて粗末なつくりの小さな祭壇があった。
「あれ、これなんだろう」
「石……みたいだけど鉱石かな」
アップルが怪訝そうに呟くと祭壇と壁との隙間に挟まっていた小さな赤い球状の物体を手で摘み取り出す。それを覗きやったタルトが不思議そうな表情をして言う。
「ナンさんに見てもらえば何か分かるかも知れませんね」
「そうね。持って帰りましょう」
レモンの言葉にピーチも同意して頷く。
「それじゃあ、村に帰ろう」
ライムの言葉に僕以外の皆が無言で頷き答えると、来た道の方へときびすを返し歩き出す。
(……祭壇にあった物を勝手に持ち帰るなんて皆どうかしてるよ)
あれが何かは知らないが祭壇にあったものなら祀られている物に違いない。
それを持ち帰るなんて本当にどうかしている。
「ま、僕には関係ないけどね」
だから彼等が何を持ち帰ろうが僕の知った事ではない。
邪竜を倒したからなのか、洞穴内にいた魔物の気配は余り感じなくなり、帰りは敵と遭遇することもなくふもとまで辿り着いた。
「おお。お前さん達無事だったか!」
「ナンさん。どうしてここに」
洞穴から出ていくとなぜか入口の近くで仁王立ちしていたナンが、僕達に気付き笑顔で声をかけてくると側まで寄ってくる。
彼がここにいる事に驚いたライムが怪訝そうに尋ねた。
「いゃ~。お前さん達が心配で、ずっとここで帰ってくるのを待ってたんだ」
「そうなんですか。ご覧のとおり私達は無事です」
ナンの言葉にピーチが笑顔で答える。
「おお。その様だな」
彼は一つ頷き安堵した様子で微笑む。
「あ、そうだ。ナンさん。これ山頂にあった祭壇の所で見つけたんですが、何か分かりますか」
「祭壇にあっただ? ……どれ見せてみな」
アップルが先程持ち帰った物をナンに見せる。
「……こいつは、火のエレメントストーンじゃねぇか」
「火のエレメントストーン?」
顔色を変えた彼が驚いた声をあげると、彼女の手の平にある石を見詰めた。その言葉に不思議そうに首を傾げながらライムが復唱する。
「お前さん。こいつを持ってて大丈夫なのか」
「へ、別に大丈夫ですけど……何で」
ナンの問いかけにアップルがまるで意味が分からないといった様子で、怪訝そうな表情をして呟く。
「そうか。……ならお前さんはこの石に選ばれた者なんだな」
「あの~。話しがよく分からないのですが……」
一人だけ納得して小さく頷いている彼にレモンが困った様子で尋ねる。
「あっと、すまん。……エレメントストーンってのは、火・水・風・地・光・闇の六つあって、それ等は自然のエネルギーが凝縮してできた石なんだ」
静かな口調で語り始めたナンの言葉に僕も情報を得るために耳を貸す。
「エレメントストーンは世界を変えるだけの力が秘められている。だから誰でも簡単に使うことができないように石が持つ者を選ぶのさ」
「石が人を選ぶ?」
彼の話しにアップルが不思議そうに目を瞬かせた。
「そう。さっきも言ったが、自然の力が凝縮してできた石だ。普通の人間は触れる事もできねぇ。なぜなら触れただけで体が消し飛んじまうからな」
「え、消し飛ぶ!?」
ナンの言葉に彼女は自分の手の内にある火のエレメントストーンを凝視する。
ライム達も不安げな表情になると恐々とした様子で石を見詰めた。
「って噂されてるが実際に消し飛んだりなんかしねぇよ。まぁ、属性に応じた力が発動して、触れられない様になってるって話しだ」
その様子を見た彼が明るい声でからからと笑いながら皆を安心させるように柔らかい口調で話す。
「火のエレメントストーンならその熱さで火傷しちまう。だから触れる事ができねぇのさ。まぁ、お前さんはその石に選ばれた者だ。心配はいらねぇよ」
「そっか。よかった……」
ナンの言葉を聞いてアップルは安堵の息をはいて呟く。
「そうそう。そいつが人を選んだ時ってぇのは、世界が崩壊の危機に迫られているからだって聞いたな。六つのエレメントストーンをそろえるとそれを沈める事ができるって話しだ」
「世界の危機を沈める力……これがあれば世界を救えるって事だな」
彼の話しにライムが嬉しそうな声をあげる。
「まぁ、そう言うことだろうな」
「それじゃあこれから私達はエレメントストーンを探しながら旅をすれば良いわけね」
彼の言葉に今度はピーチが嬉しそうな声をあげた。
「そうだね。六つ全てそろえれば世界は救われるんだから!」
タルトもそれに同意して大きく頷く。
(……僕達も選ばれるとは限らないのに)
僕は言おうと思った言葉を声には出さずに内心で呟いた。まぁ、ライム達が選ばれなくて落胆しようがどうしようが僕には関係ない事なのだが。こうして僕達はエレメントストーンを探す旅を始めることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます