第三章 ラムール城下町

 村を出た僕達は旅をする許可を貰うためにラムール城へとむけて歩き続ける事数週間。ようやく城下町へと辿り着く。初めて見る街にライムが興奮して辺りを見回していた。


「村にはない物ばかりで凄いや!」


「この城下町は交易が盛んだから、いろんなお店があるのよ」


興奮しまくりの彼にピーチがおかしげに笑いながら得意そうにそう説明する。


「へー。詳しいんだな」


「いろんな書物を読みあさっていたからね」


ライムの言葉に彼女が照れ笑いして話す。


「あのお店にある物は何でしょうね~?」


「レモンちゃん。あっちにも面白そうなものが売られているよ!」


レモンが興味津々と言った様子で言うと、タルトが瞳を輝かせて露店を指し示す。


「……目移りしてないでさっさと城に行くよ」


うるさくはしゃぐ皆に向けて僕は冷たく言い放つと一人先に城の方角へと歩き出した。


「あ、おい。一人で先に行くなよな!」


背後からかけられるライムの言葉など軽く無視して歩き続ける。しばらくすると小高い丘の上に立つ城の外壁が見て取れた。


「皆、お城まであと少しだ」


「この丘を登るのは辛いけれど、頑張りましょう」


肩で息をしながらタルトが言うと、ピーチも疲れ切った表情をこちらに向けて声をかける。そして右手の拳に力を入れると空へと振り上げた。


「や、やっと着いた……」


「ちょっと……休んで行きませんか?」


長い坂道を登り切った時にライムが息も絶え絶えにそう言う。その後ろではレモンが息を弾ませながら同意を求めるように尋ねる。


「さ、賛成……」


彼女の言葉にタルトが同意すると僕以外の全員がその場にしゃがみ込んだ。


(だらしない……)


内心で毒づく僕を余所に彼等は荒れた息を何とか整えようと深呼吸を繰り返す。

数時間僕が立ち往生していると、ようやく体力を回復したらしいライム達が立ち上がった。


「日が暮れる」


僕は不機嫌な思いをそのまま言葉に変えて小さく毒付くと一人先に歩き出す。その背後を慌てた様子で追い駆けてくる皆の気配を感じ取ったが気にせず歩く速度を速めた。


やがて小高い丘を登った所に佇んでいるラムール城の正門が見えてくると、僕達はようやく門の前まで到着する。


「あ、あの……女王様から旅の許可を戴きたいのですが……」


初めて見る門番の兵士に緊張した様子でライムが声をかけた。


「旅の許可? ……君達が?」


「そうです」


それに彼が僕達を見回し訝しげに眉根を寄せて言うと、タルトが小さく頷き答える。


「ここに来れば誰もが旅の許可を貰えるわけではない。それに君達みたいな子どもを相手にするほど女王様は暇ではない」


「そんな! 私達はメディンの森の精霊様から頼まれて、女王様に話しをしに来たのに」


冷たくあしらう兵士にピーチが食ってかかるように喚く。


「メディンの森の精霊様からだって!? それは本当か?」


すると兵士が驚き再確認してくる。


「これが証拠だよ」


「そ、それは紛れも無く精霊様の手形! ……分かった。ここで少し待っていてくれ」


この遣り取りに嫌気がさしてきた僕は、旅立つ前に精霊から渡された手形を兵士の前に突き出した。


それを見た彼の反応は予想どおりだったので驚く事もなく、城内へと慌てて走り去る兵士から視線を外す。


「精霊様と女王様はお知り合いなのかな」


「あれ。知らなかったか。精霊様は古くから王族の人達を教え導いてきたんだ」


不思議そうに首を傾げるタルトになぜか得意げに胸を張り説明するライム。


こうして僕達はようやく謁見の間で玉座に座っている女王と話しをする事になった。


「わたくしもこの国に迫りつつある暗闇に危機を憶えておりました……」


面倒な挨拶や口上を聞き流していると、ようやく女王が本題にはいる。静かな口調で話し始めた彼女の言葉に耳を傾けた。


「貴方達にわたくしの権限が及ぶ範囲の土地を旅する許可を与えましょう」


「有り難うございます」


旅をする許可が下りたことにライムが喜び言う。話しに興味を持っていなかった僕はただただこの遣り取りが終わる事を願った。


「まだ幼き貴方達にこのような事をお願いするのは、こくなことと思います。ですが……」


女王が途中で言葉を止めると僕達の顔を順番に見やり口を開く。


「この国を……いえ。世界を救う事が出来るのは貴方達しかいないと、わたくしは確信しています」


重苦しい口調で述べられた言葉に僕以外の全員が息を呑む。


(……僕達が世界を救うだって? はっ! 笑えない冗談だね)



女王の口から先ほど発せられた内容に僕は鼻で笑うと内心で毒付く。言葉にして言うのを何とか抑えた僕は偉いと思う。


「各地に異変が起きています。旅をするには十分気をつけて」


「はい。女王様」


彼女の言葉にピーチが返事をしてお辞儀する。ライム達もそれに続いて一礼していくので、仕方なく僕も頭だけは下げておいた。


「道中気をつけて。疲れた時はいつでもこの街に戻ってきなさい。……今日は疲れた事でしょう。町の宿屋に泊まっていきなさい」


「はい。有り難うございます」


女王が締めの言葉を発すると僕達を見て微笑む。それにタルトが感謝の意を述べると深々と頭を垂れる。どうして皆はバカみたいに頭を下げているんだろう?


(へらへらして媚びへつらっったって何も変わらないのに)


そんな事を思いながら扉へと向けて歩いていくライム達の後に続いていった。


城を出てから行きは必死に登ってきた坂道を今度は楽な足取りで下っていく。


「ねぇ。あそこの川で水浴びして行かない。汗もかいちゃったし」


「いいね。まだ日も高いし、せっかくだから遊んでいこう」


城下町に行く途中にある小川の前を通りかかった時に、ピーチが不意に声をかけてきた。その言葉にライムが賛同するとレモン達も無言で頷く。


僕もいろいろと動き回った事で身体が熱かったためそれに乗ずることにした。


そうして僕達は日が傾きだす少し前まで小川で水浴びをして過す。その際にふざけて遊ぶタルト達の巻き添えとなったがまぁ仕方ない。

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