書店EUREKA
EUREKA(エウレカ)
第1話 迷い込む少年 前
友達からのいじめ、蹴られ殴られ、散々な罵声を浴びる。もうこんなのたくさんだ! もう嫌だ! そう思いいじめてくる奴らの手を振りほどき走った。涙と頭を殴られていたせいで、どこをどう走ったか全く覚えていない。とうとう息が切れて足を止めた。肩で息をしながらあたりを見渡すと、全く知らない路地の中に入ってしまったようだ。戻る道はなぜか昼間なのに真っ暗で進む足がひくつく。
コーヒーの香りがしてハっと振り返ると、そこには古びた木造のお店があった。風貌はカフェのようだが、看板には”書店 EUREKA”と、書かれているので本屋であることが考えられた。
帰り道を訪ねるべく、ここは一旦店に入ろうと勇気を出してその扉を押した。
カランカランと鐘の音とともに扉が閉まる。夢でも見ているのか、そこには色とりどりのオーブが浮遊していた。どれも異なる色をしていてよく見ると何か風景のようなものが見て取れる。
入り口でポカンと突っ立っているのに気が付いた店主がこちらに声をかけてきた。
「やあ、いらっしゃい。ようこそ書店エウレカへ。ここには色んな言葉の珠、言珠って書いてことだまって読むんだ。ここにきっと君にも合う言珠が見つかるんじゃないかな?ここはどこかって?さぁ、ここは珍しい人がたどり着くからね。ゆっくりしていきなよ。コーヒーを出してあげよう、待っててね…あ君はまだ幼いからジュースの方がいいかな?」
「…ジュースで」
「おっけー窓辺があるだろ?そこの席に座って待ってておくれ」
窓辺の椅子に腰を掛け、外を見る。するとなんと普通に人が歩いており、駅近くの街並みにそっくりだった。慌てて店の扉を開けるがそこには先の見えない路地があり、風景と異なる。頭がこんがり始めたとき、店主がポンと肩をたたいた。
「さ、オレンジジュースしかなかったけどサイダーがあったからオレンジソーダを作ったんだ。外は危ないから中においで」
いわれるがままに中へ入り先ほどの窓辺の席へ案内される。窓からの風景は確かに駅の近くなのだ。しかし、よく考えるとさっき時間帯は夕暮れ時で日も落ちかけていた。だが窓から見る空は青々としていて昼前を彷彿とさせる。
「窓がそんなに気になるかい?」
「…さっきまで夕方だったし、それにここに着いたときは路地だった」
「そっか、君には駅近くの路地に見えるんだね。そうだ、個々のことをもっと詳しく教えてあげるよ」
店主はコーヒー片手に店の中央まで歩く。
「さっきも言った通りここにはいろいろな人の放った言葉が集まってくるんだ。それは実際に言った言葉じゃなくて思った言葉も含まれる。一連の流れであったりもするけどね、それがこの飛んでる珠。ぼくは言葉の珠と書いてコトダマって呼んでるんだ。ここに来る人は何かなにか考えてたり思い詰めてしまった人や、偶然たどり着いてしまったっていうのが大半だね。自分の言珠を見つけた時、お店はお客様をお見送りするよ、僕の名前はエウレカ。よろしくね」
そういって手を差し出してくる。その手を握るととても暖かかった。柔らかく、あたたかい優しい手。いつぶりだろうか…そう思うと涙がこみあげてくる。
店主のエウレカは少年が泣いている間、そっと彼を抱きしめてあげていた。
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