第6話 シュフィール学院へ傭兵は向かう


 いくつもの険しい山道を荷馬車は難なく進んでいく。

 目的地はシュフィール学院、帝国と王国の三カ国の中心に位置する大陸最大級の生徒育成機関である。


 ちなみにあの封書をもらってさらに数日後またタグウェスから使者を通じて封書が届いた。



 シュフィール学院行きの荷馬車を手配した

 きっとこの封書が届く次の日には荷馬車が来るだろう!

 クロワールお前は逃げることなんぞできない!

 ワッハッハッハ!



 …以上である

 どうやら本当に拒否権はないらしく勝手もいいところであった。


(教師か…)


 教師と言っても俺は何をすればいいのだろう?

 傭兵の俺に教えられることは限られているし、そもそも人を指導した事など余り経験にない。


 もしくは俺の名を使う気か…。


(…あいつは馬鹿だが俺の嫌うことは理解しているはずだよな。)


「…。」


 シュフィール学院


 あの時代は暮らし向きも良く、自由もあり、平和で毎日が騒がしくも楽しかった。

 学び、動き、築くどれも学院時代の淡い思い出に刻まれている。


 クロワールの人生に変化があったのはそれからたった一年後。


 そっとまぶたを閉じると嫌でもあの頃の自分の姿が映り込む。


 耳元で繰り返されるのは死地へと送り出すファンファーレの旋律。

 まぶたの裏に広がる塵の舞った灰色の空と、散乱した人間の身体。

 鼻につくのは何かの焦げた匂いとむせるような血の匂い。


 激戦地では更にそれらの光景は酷い状態だ。


 鈍い痛みを訴える頭痛がし、そっとまぶたを開ける。


 暖かい陽ざしが差し込み、

 真っ青な青空が見えた。


 さっきまで見ていた光景とは打って変わって穏やかな景色だ。

 そのことに安堵感を覚えそっと息を吐く。


 それからしばらくすると木々の隙間から白い外壁の巨大な建造物が見えた。

 大陸の創造神女神ティアレシアも祀るそこは学院内に聖堂も構えており、他国にある学園などと比べても最大規模であると言える。



「…まぁ、なるようになるか。」


 拒否権はないとのことだから前向きに捉えることにした。

 とりあえず何ヶ月かで契約を結び報酬さえもらえればそれでいいいい。あくまで傭兵としてのスタンスで考えれば大して今までの仕事と変わらないだろう。

 …なんなら命の危険性がない分こっちの仕事のほうがいくらか優しい気がしなくもない。


 過去のことは記憶の奥深くへと閉じ込めておき、目の前の現実に目を向けた。



 ー…こうしてクロワールの第二の人生が幕を開けようとしたのだった。











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