第5話 封書の内容困惑する傭兵

 届けに来たあの騎士が帰っていったあとクロワールは一人この封書と向き合っていた。


「はぁ…」


 クロワールは重い溜め息を漏らし、入っていた便箋一枚をもう一度眺める。

 封書は読んでるだけでタグウェスのうるさい声が聴こえそうな文面であった。


 肝心の内容は簡潔にまとめるとクロワールに学院の教師を任せたいとのことらしい。学院の教師の高齢化、人員不足の増加により人手が足りないようだ。


「…。」


 教師…

 教師かぁ…


 話を受けた訳でもないのに…もうすでに胃が痛い。


 教師なんて面倒くさい。

 やりたくない。

 今の自由な生活を続けていたい。

 人と関わりたくない。


 ちなみにその学院とはクロワールの通っていた母校。


 【総合国家立シュフィール学院】だ。


 この学院は周辺国家が友好関係を築くために建設されたと言われている。


 通うのは貴族の生徒が大半であり、王都から離れ森に囲まれた場所に位置していることから学院内には買い物などできる街も作られており、生活施設、設備ともに整っていた。


 5年以上前に通っていたから現在どんなふうになっているかは分からないが…。


「…ん?何か小さくかかれてる…」


 タグウェスからの封書の端に何か書かれているのを見つけた。


 お前に拒否権はない!

 もうすでに学院長と話を済ませて教師になるよう手筈を済ませたからな!

 ワッハッハッハ!


「…。」


 この馬鹿は何を言ってるんだろうか…。


 何が学院長と話を済ませているだ、俺はそんなこと了承した覚え全くない。

 というかそんな面倒なことしない。拒否する。絶対に。


 この場にいない本人の代わりに犠牲となったのはタグウェスの封書の便箋であった。手に力が入ってしまったせいでくしゃりと鈍い音を立てるといくつかのしわをつける。


「…全く面倒なことを」


 しかし、もう話がついてしまったのなら仕方ない。

 本来の姿のクロワールであれば断れる話だが今はただの傭兵なのだ。


 タグウェスにしてやられたような結果に不服ではあるが頷く以外の選択肢は持っていないのである。


 …というか要件を頼むために送ってきたのに拒否権がないのであればこの封書の意味とは一体?


 全く持ってわからない。

 下手な盗賊の言い分よりもわからない。


(やはりあの馬鹿の考えていることは理解できないな。)



 今も脳内で大きな口を開けて麦酒片手に笑い声を上げる友人にクロワールは呆れるようにため息をついた。







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