第4話 腐れ縁の友人からの手紙

 エグモントに見送ってもらったクロワールは彼の家からほど近い距離にある宿舎への帰路についていた。

 別れる寸前までエグモントから生活習慣を見直せと口酸っぱく言われてしまい、どうやら少し見ないうちにあの友人は元々の心配性をこじらせたらしい。


 クロワールの両手にはもらった薬の他、患者から頂いたらしい有名店の菓子、エグモントの自宅にあった使いきれなかった余り物の野菜など入った包が握られている。

 もはや実家に帰省したような気分だった。


「…。」


 クロワールはポケットの中から鈍く光りを見せる金属を取り出すと、草や木々に囲まれた一見何もないところへ投げつける。


「うぐぅ‥っ」


 痛みと衝撃を受けたような声が茂みの中から聞こえた。


「…。」


 気配のする場所へと向かうと、予想通りナイフの刺さった男が血をにじませて倒れ込んでいた。


 男のもつ武器、さっきまでの殺気からクロワールを殺そうと狙っていたのは明白だ。


「盗賊か…」


 体を起こしてやろうとすると腕を乱暴に振り上げ男は抵抗する動作を見せる。


「離しやがれッ!……ヒェッ」


 暴れまわる盗賊に向かい血の付着したナイフを向けると盗賊は顔を青ざめて押し黙った。

 それはさっきまで自身に刺さっていたナイフだ。


「…今なら見逃してやろうさっさと行け」


 硬直したままだった盗賊は顔を青くしてその場から逃げ出すように茂みをかけ分けて走り去っていた。


 その様子を黙ったままクロワールは見つめており完全に姿が見えなくなったところでため息を吐く。


「…はぁ、これではまるで‥俺が襲ったようにも見えるな」



 ◇◇◇


 ――数日後


「こんにちはクロワール様!タグウェス様の使いできたものであります!」


 朝日の昇り始めた早朝、せわしなく宿舎の扉が叩かれあまりの騒がしさにまだ寝ぼけた様子で顔を出した。


「朝から…うるさいと思ったら…タグウェスのところのやつか…」


「はい!レパード王国王立騎士団員です!」


 突然の訪問客は鮮やかな色合いの騎士服をまとった青年だった。


 タグウェスとはエグモント同様クロワールの元学院時代のクラスメイト兼腐れ縁の友人である。


 そしてこのタグウェスは隣国レパード王国の騎士団長なのだ。

 ことあるごとにクロワールを巻き込む危険人物でもある。

 …少し前は内部調査を頼まれ、従者のふりをしてとある貴族の邸宅へと侵入したこともあった。


 なんか絶対面倒事だろうなぁ


「詳細はこちらに書かれているそうです!」


 あ、これ面倒事だろうなぁ


 手渡された封書を見て瞬時に思った。

 もちろんまだ中身は見ていない、ただの勘であるがクロワールの中の何かがこれは面倒な案件であると騒いでいる。


「あ!タグウェス殿がまた迷惑かけるかもしれんアッハハ!と言ってましたね」


 一筋の希望も残さぬままそれは騎士の笑顔によって塵となり吹き飛ばされた。


 …嫌だなぁ



 クロワールは寝起きでだるくなっている身体にさらにだるさが追加されたような気がした。




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