第2話 クロワールの悩み事

 時刻は朝日の昇り始めた明け方、薄暗い室内に朝日が差し、ベッドに横たわっている青年を映し出す。

 青年は辺りの眩しさに目を細め、ゆっくりとした所作で体を持ち上げた。


 灰色髪の目元に深い隈をつけた青年だ。

 青年の名はクロワールといい、元帝国騎士で、現在は傭兵として生計を立てている。


 傭兵といっても傭兵団などで活動しているわけではなく、クロワールは個人での活動をしている。仕事内容は行く先々で違うが主に盗賊の討伐、商人の護衛などだ。もしくは敗戦国の兵の残党を捕縛したりなどで依頼によっては危険は付きものである。


 そんな危険な仕事を引き受ける機会が多いにも関わらず、自身の身体を気遣うことはおろかクロワールには生活習慣にすらも難があった。 


 昼夜逆転、栄養失調、長時間労働、野外生活などなど身体を気遣わない生活を繰り返しているせいか、クロワールは元の色白さも相まって青白い顔をしている。

 しかし、母親ゆずりの整った容姿は、手入れを怠っているせいでところどころ痛みはしているものの、長いまつげに形の良い輪郭、鼻筋、中性的な顔立ちは目を惹く妖艶さを含んでいた。


 多少肉が付いてない箇所はあるが元騎士だったこともあり鍛えられた腹の辺りは、唯一男性らしく引き締まってる。

 身なりを整えれば世にいう王子様に見えなくもないが、今のクロワールは王子というより顔色の悪い病人のほうがあっている。


「ふ…わぁぁ」


 魂の抜けるような欠伸をすれば、まるで幽霊が生き返ったようにも見えた。

 ふらついた足取りでベッドから降りるとあらかじめ用意していた衣服へと着替え、寝癖を整え、顔を洗い、朝食に携帯食を口にした。 素朴な味わいのそれは美味しくいただくものというより、空腹を抑えるために食べるもののほうがあっている。


 口内の乾きを潤すために机上に置いてある珈琲を口に含み、同じく傍にあった新聞に目を通す。


 特に面白い話題などはなく、民間であった事件や近々開催される祭りについて取り上げられているようだ…興味がそそられることは無い。


 凝り固まった肩を軽く回すとギチギチと音を立て鈍い痛みを訴えた。


(…どうも最近は身体がだるいなぁ)


 …勿論その原因は乱れた生活の全てなのだがその事に本人は気づいていなかった。


「…エグモントのところに行ってみるか。」


 丁度仕事も落ち着いたところだったためふと頭の中で思い出した友人のところに行くという案を思いつく。


(…暫く会っていないから様子でも見に行くかな。)


 …こうしてこの傭兵はこんな簡単なことも見抜けないまま友人の医者の元を訪ねるために出かけた。





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