元帝国騎士の傭兵からの教師生活 〜最強教師の第二の人生計画〜

だし巻き卵

第一部

第1話 とある悪夢の夜

 けたたましい足音、耳にこびりつく悲鳴。

 踏み締める足は血の海に染まってあちこちに死体が無造作に転がっていた。


 大砲の撃たれる爆発音そして視界には土煙の舞う様子が映し出され、兵士が波のように押寄せてくる。

 否、実際には砲弾が直撃した兵士が吹き飛ばされていた。


 すぐそこにはさっきまで酒を飲み交わした友が光のない瞳で致命傷を負って倒れ込み、偶像でできた神に懇願をする兵士の姿が目に映る。


 そう…これが戦争だ

 そう…これが戦争の本質であり、現実なのだ


 ただの死に場だ。

 もしかしたら生きて帰れない。

 生きるためには……他人の命を奪うしかない。


 人殺しになるしかないのだ。



 ー…。



(…嫌だ)

 理解した途端隠し通していた本音がちらつく。




(…嫌だ)

 それは今まで人を殺めてきた自分の我がままな思い




(…嫌だ)

 それはここにいる仲間を見捨て、裏切る思い




「嫌だ…死にたくない、死にたくないっ、俺はまだ…っ」




 恐怖に怯えた彼の体は、武器を持つ手も、地を踏みしめる足も、痙攣したように震えていた。


 それでも走りだした。


 戦場から目を背けるように、否、逃げるために。


 生き、残るために


 また、か…族に…会うために


 人生、

 を

 ま、たおくるために…



 …ろれつが回らない。


 視線を下げると軍服には真っ赤な染みが滲んでいた。


 視界がぼやけて、息苦しさとあまりの熱さにその場に倒れ込んだ。


 なんとか振り返るとそこには…悪魔のような騎士がいた。



 …いや死神だ。


 美しい死神だった。


 つややかな黒髪、長いまつげに縁取られた深海のようなきらめきを放つ蒼眼は神秘的な存在感を放って、俺を静かに見下ろしていた。



 嗚呼、俺は死ぬんだ。

 生まれ育った故郷ではなくて、こんなどこかも知らない血にまみれた戦場で。


 そして、こんな綺麗な死神に、殺されるなんて思っても…見てなかった。






 ◇◇◇



 敵兵は最期の寸前「死にたくない」と口にしていた。

 顔は蒼白であった。

 おそらく死を感じ取り、パニックに陥ったのだろう。


(……。)


 しかし俺は容赦なくあの敵兵を倒した。



 …共感はしても同情はしない



 この戦場における暗黙のルールに則って。

 残酷なことにそのルールには人本来の優しさなど存在せず、


 ただの人殺しを正当化させるためのルールであり、

 人を殺す人間にとっての都合のよいものであった。


 俺はそのルールが嫌いではあったが何度も、何度も利用した。


 それはとても単純なことだ。

 人を殺すことで自国から称えられこの国の救世主となれる。

 ―血に塗れた称号だ。


 正直、俺は複雑だった。

 人を信じられないほど殺し続けて。


 殺し続けて殺し続けて殺し続けて殺し続けて殺し続けて殺し続けて殺し続けて―。


 こんな俺が最愛の家族や友に、

 再会しても良いのか、


 ―会いたくない

 時にそう思い


 ―この戦いから逃げ出したい

 時に矛盾した考えが出る


 そして戦いが始まって長い長い月日が経っていた。




 …夜が明けた

 長い長い悪夢のような夜が明けた。

 神々しい朝日が、薄暗い室内に日差しを射す。


「また、あの夢か…」


 そして夢から醒めた青年は、そう苦ぐるしく呟いたのだった。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 一話目を読んでくださりありがとうございます


 まだまだ話は続くので付き合ってくださるととても嬉しいです!



 もし今後読み進めていき面白かったらレビューやハートをくれると嬉しいです(^^)/











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る