その18.『時空を超える恋人たち』と『危ない賢者』と『造物主を亡ぼす者』と派生類型
今回は、前回に引き続き類型の詳細について説明させていただきます。
ちなみに説明するのは以下の3つ。
『時空を超える恋人たち』
『危ない賢者』
『造物主を亡ぼす者』
その後、類型から新たに発展した派生類型についても少し触れます。
■時空を超える恋人たち
愛する者のためにあらゆる苦難に立ち向かうキャラクター。
初期の神話・民話にも見受けられるキャラです。
ある意味、前回説明した4属性のプロトタイプとも言えるでしょう。
ちなみに『恋人たち』とありますが片思いの場合でもOKで、そんなキャラが相手と結ばれることを物語の主題にしている作品は多く見られます。またすれ違いや三角関係はよく使われるシチュエーションです。
他の属性との相性が極めてよく、例えば、
○『さまよえる跛行者』の求めるモノ
○『塔の中の姫君』が救世主に寄せる思い
○『武装戦闘美女』でキャラが戦う理由
○『二つの顔を持つ者』が仮面を被る理由やその苦悩の根源
など、各属性の動機や背景などによく使われます。
主属性となった場合、ほとんどのケースでキャラクターの恋路を邪魔する障害が発生。それを乗り越えるためにキャラが努力することになります。
その障害の内容は両親の反対などのリアルなものから、生贄や呪いなどファンタジックなものまで様々。傾向として作品が書かれたときの社会的な空気や流行に影響されることが多いです。
その障壁は高く強固ですが、常に完璧に遮断するわけではなく時折弱まり、一時、二人の逢瀬が実現し、より関係や気持ちを加速させる。そんな描かれ方をされます。
また障害はより難易度が高いほど盛り上がりますが、あまりにも厳しくするとシリアスが過ぎてしまうこともあるので、作品に合わせて温度感の調整も必要でしょう。
障壁は(家柄・国・世界などの)二つの異なる秩序の間に横たわることもあり、その場合だいたい定番的な終わり方になることが多いです(例えばその壁を乗り越えるか破壊するか、両方の秩序から逃げるか、障壁をどうにもできずに別れるなど)。また障壁が破壊されても『時すでに遅く二人が破滅する』パターンもよく見受けられます。
■危ない賢者
自分の持つ力(主に知識)を自分自身のためだけに行使するキャラクター。
賢者というのは『非凡な知識力を持つ者』のイメージであり、科学者や職人などの場合もあります。またバリエーションとして、『(特に中世において)野望と政治的知識を持つ権力者』、『(特に近代において)戦う知識を持った傭兵崩れやテロリスト』などがあります。
基本的に秩序を乱すことに遠慮がない(または自ら好んで破壊する)選択をする場合が多く、悪意なく純粋な善意で周りに混乱をもたらすこともあります。
また『二つの顔を持つ男』と絡め、基本的にそういった知識は一切表に出さず一般人と同じような生活を送り、仕事の依頼など主に自分の利益絡みで必要に応じてその力を行使するようなキャラクターもいます。
この属性のキャラが主役やライバルなど物語の前面に押し出され、秩序を著しく乱す側に立った場合、
○因果応報で破滅する
○彼が原因で世界が滅びる
○ヒーローに倒される
○反省して自らの発明ごと自滅する
などの定番の流れで終わることが多いです。
その展開のなかで英雄的な扱いになることもありますが、『さまよえる跛行者』とは違い筋書が失敗前提で描かれることも少なくありません。
全面に出ない場合、仙人のように俗世から離れ一人自分自身の知識欲の充足や道楽のためだけにその力をひっそりと使っていることが多いです。それらは時として世間を脅かしたり、逆に人のためになったりする不安定な存在となります。
また物語中、世界に未知のなにかを取り込む存在として描かれることもあります。その場合(主人公サイドに味方して)こう着した物語展開を進める役割を担うこともあります。
また最近は、前面に出ない仙人タイプのキャラをあえて主人公にして、その生活ぶりを描く作品もあります。
■造物主を亡ぼす者
自分(の立場)を作り出した者を打倒し、その支配から脱しようと抗うキャラクター。
こちらも古くは神話でもよく見られるキャラです。
この属性を物語の主軸に置いた場合、造物主は『悪しきモノ・古きモノ』として描かれ、それを『正しきモノ・新しきモノ』である主人公が打ち倒す話になることが多いです。しかし近代においては善悪新旧では割り切れない複雑な関係性を持つ作品もあります。
特にSFにおいては逆に主人公が造物主サイドで、創造した生命・知能に人類が脅かされる展開もよく見られ、さらには人類がそれらにすでに屈した状態にあり、そこから逆転を目指すような話もあります。
作中で扱われる『造物主の亡び』に関しては、単に宿敵の打倒と環境の好転にとどまらず、時代の終わりや一つの世界の終焉にまで波及する場合もあり、他の属性と比べて広大な展開をはらむ可能性を多分に含みます。
またキャラクターが支配者を打ち破ったあとに、自分が支配側に立ち反抗者を待ち受ける状態に逆転するなどのループ構造をはらむ場合もあり、世代をまたいだ壮大な話に発展する可能性をも秘めています。
しかしその本質は『親を乗り越えていく』キャラクターであり、広く解釈すれば『業界もので、(良くも悪くも)自分を育んだ業界の旧時代を脱して新時代を目指す』『スポーツで現トップ選手に憧れ自分を鍛え、やがてそれを打ち破ることを目指す』などの身近な題材の登場人物でも持ちうる属性です。
キャラクターの抵抗の結果それを乗り越えられるかは作品によってさまざまで、成功・失敗どちらもありえます。また、最終的に打倒ではなく『独立や和解、共存』をもって平和的に話を結ぶ場合も考えられます。これらを念頭に置いたうえでどちらを勝たせるか(あるいはどうなれば読者が喜ぶか)を考える必要があるでしょう。
以上が7つの属性の説明となります。
ホント繰り返しになりますが、今回の話は新城カズマ氏著の「物語工学論 キャラクターの作り方」の内容をもとに以下略。
ちなみに前にも触れましたが、一つのキャラクターが複数属性を持つこともありえます。
そしてさらに現代においてはその組み合わせが定石化し、新たな属性として定着していることも。
物語工学論の中でも、例えば以下のような派生類型の可能性が示唆されています。
○『危ない賢者・さまよえる跛行者(または二つの顔を持つ男)』を組み合わせて、(自分にその意思はないのに)周りから頼られ(半ば仕方なく)その力を行使する『多忙な万能者』
○『危ない賢者・さまよえる跛行者(または塔の中の姫君)』を組み合わせて、自分が万能であることに飽いてその解消を望む『退屈な万能者』
○『造物主を亡ぼす者・時空を超える恋人たち』を組み合わせて、自分の主の破滅まで添い遂げるキャラクター『愛憎の権化』
また、なろうで定番化している『無自覚最強キャラ』も、根本は『本来すでに自分の望む力を持ちながら、無知・鈍感という弱点・制限のために望む状態にたどり着けない』さまよえる跛行者や塔の中の姫君の混合とみることもできます。
『異世界まったりライフもの』の主人公たちも、『さまよえる跛行者』のなれの果てが望みを叶えられず。挫折をへて『二つの顔を持つ男』化や『危ない賢者』化する場合が少なくないと思われます。
『転生もの』の主人公に関しては、昭和あたりは『時空を超える恋人たち』のバリエーションとして多く描かれていたように記憶しています。
しかし現在は異世界が絡み、現代社会という環境では生かされない能力を持つ『さまよえる跛行者』の主人公が、転生によって環境が変化し強い力を行使できるようになり、活躍する(あるいは『武装戦闘美女』化や『危ない賢者』化する)描写が主流のように見受けられます。
また『追放もの』や一部の『悪役令嬢もの』の主人公もその多くが『転生もの』の設定を別の環境に置き換えたものと言えるでしょう。
もちろん上記説明は属性ありきのあと付けであり、その手のキャラクターがこれらの思考のもとで生まれたわけではありません。
ただ、キャラを考えるときに漠然と『なんかいい感じのキャラが思いつかないかな……』と想像にふけるよりは、『このキャラとこの属性を組み合わせて、さらにこの要素を置換して、ここを誇張すればいい感じのキャラができないか?』などと考えたほうが理論的に試行錯誤しやすいのではないでしょうか。
また生み出したキャラクターの背景を考えるときに属性を考慮すれば、漠然とそのキャラクターの過去をなんとなく想像するより、深く掘り下げることができると思われます。
次回は上記を踏まえた上で、次のステップとしてどうキャラクターを作っていくかを説明します。
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