その17.『さまよえる跛行者』と『塔の中の姫君』と『二つの顔を持つ男』と『武装戦闘美女』

 前回は『読者に親しまれやすいキャラクターの類型』について7つの属性の概要を挙げ、その運用方法について語らせていただきました。

 今回は、物語上でどう使うかをよりイメージしやすいように、属性一つ一つ詳細を説明させていただければと思います。


 また繰り返しになりますが、今回の話は新城カズマ氏著の「物語工学論 キャラクターの作り方」の内容をもとにしていますので、より詳しい情報を知りたい方は手に取っていただければと思います。



■さまよえる跛行者

 不自由・不安定な存在で、安定を求めて活動をします。


 跛行とは片足が不自由な状態で前進することを意味する言葉。ですが特に歩行の障害にこだわらず、ネガティブな身体的特徴(目が見えない、力がありすぎてすぐにモノを壊してしまうなど)、精神的なもの(能力ゆえに性格が歪んでいる、非凡ゆえに周りに溶け込めないなど)も含まれます。

 またその力と不安定さは生まれた時から持っている場合もあれば、作中で与えられる場合もあります。


 基本、『強い力を持つ(あるいは持たされた)がゆえに、その反動で、力とは別方面の致命的な弱点や不自由を強いられる』キャラクターとして表現されます(例えば吸血鬼にされて強い力を得たが、日に当たることができなくなった等)。

 これは典型的なヒーロー像とも多く重なり、古くは神話などでもこの手の属性を持つキャラクターが多く登場します。

 ただ最近はデメリットがあまり目立たず(あるいはコメディー要素として表現され)強い力のメリットと行使が強調される場合も少なくありません。


 またこの不安定・不自由さを解消するために苦難に立ち向かう物語展開も少なくありません。その結果、力の喪失と引き換えに安定・自由を手に入れる場合もあれば、力と欠点を持つ今の自分を受け入れるケース、あるいは最悪すべてを失うケースもあり、作品によって様々です。



■塔の中の姫君

 何かにとらわれて不自由を強いられ自分にはどうにもできず、それを打破する存在が現れるのを渇望しています。


 姫君となっていますがあくまでもイメージであり、作中では姫でない(それどころか男である場合すら)もありえます。

 塔も『囚われている状況』のイメージであり、場所が塔とは限りません。またキャラクターの行動を著しく縛る存在の象徴でもあり、場合によってはトラウマなどの精神的な制限や、職業や役回りなどの場合もあります。

 また塔は『内側の世界と外側の世界の境界』のイメージでもあり、(身分や風習的な要因などの)住む世界の違いを表すときも。


 多くの場合この属性持ちのキャラクターが主人公になるケースは少なく、主役と対になるヒロインが持つ場合が多い属性です。


 作中で不自由を強いられる点は『さまよえる跛行者』に似ていますが、その解決が自分で行えるか否かの違いがあります。


 また解決のために当人にできることはほとんどなく、基本他人の手によって解決してもらうしかない場合がほとんどです。じっとそこに閉じこもる場合が多いですが、できないと分かっていても自分から解決を試みているケースも。


 感動を与える、あるいは悲劇に仕立てるなど、泣ける展開にするために使われる場合もよく見受けられます。



■二つの顔を持つ男

 相反する二面性を持ち、それがゆえに生きることに苦悩します。


 男としていますがイメージであり、作中では女性である場合も。


 主に「仁義を取るか、秩序を取るか」という命題に向き合うキャラクターとして描かれる場合が多いです。キャラは物語のなかで明確な答えのない2択に悩まされる事に。


 また、片面が日常、もう片面が非日常を背負う場合が多く『日常=読者のリアルを投影』『非日常=世の中にありがちな闇』としたうえで、社会風刺、問題提起の表現を担っている場合もあります。


 そして多くのキャラクターが『どちらが自分の本性(とするべき)か』に悩むことになりますが、その二面性とうまく付き合えている(あるいは切り替えて使いこなしている)場合もあります。

 たまに「偽物の面が本物の面より(特にコミュニケーション能力において)優れていること」に悩むケースもあります。


 『さまよえる跛行者』とは違い、超人的な力がなくても仮面一つで誰でも二面性を維持できることから、等身大のヒーローとして描かれる場合が少なくありません。

 また、先天的あるいは他責でそうなってしまうことが多い『さまよえる跛行者』と違って、自分から望んで2面性を持つ選択をすることが多いです。



■武装戦闘美女

 文字通りの存在として作中に出ることが多いですが、広義としては「戦う女性」のイメージであり、スポーツや政治の場で活躍している場合もあります。


 基本的に女性キャラクターに適用される属性ですが、まれに男の娘(あるいは女装美男子)やTSを絡めて女体化した人物が属性を帯びることも。


 その本質は『本来強者が担当するべき部分を(立場的)弱者が努める』というシチュエーション。もっと広い意味では男女関係なく『ホントは弱者である主人公が運やハッタリで強者を装う』『影武者などの偽物が(やむなく)本物に成り代わって業務を代行する』などの役割のキャラクターも属性の一部を帯びる可能性があります。


 弱者であるとされている女性が戦いの場で強さを見せるギャップが描かれる場合が多く、上記の広義の内容も合わせて『二つの顔を持つ男』との併用がしやすくあります。


 また、女性でありながら女性らしからぬ力を持っている(あるいは与えられる)という側面から『さまよえる跛行者』に通じるキャラクター性を持ち合わせることも。


 男性読者想定の物語の中に出した場合、読者が女性に自己投影できることは少なく、よって多くの読者の目線は自然と『キャラクターの活躍を見守るスタンス』となり、その優位感を刺激することになり興味をひきます。

 そこを見誤ってキャラクターに安定した活躍をさせると自己投影できない分読者に疎外感を覚えさせることになるので、ピンチを適度に程よく繰り返す必要が出てきます。


 女性読者想定の作品に出てくる場合、基本的にその役割は『二つの顔を持つ男』『さまよえる跛行者』の別バリエーション的な展開になります。しかし描写としては両方の立場に苦しめられるより、両方の立場を持てることによって得られるメリットのほうを強調して描かれる場合が多いです。


 女性が戦う、その結末においてほとんどの場合、力を持ったまま現状維持となるか、力を得る前の状態に戻るかの限定的な結果に落ち着きます。ただし、まれに最終的に(普通の女性では見舞われないような)不幸な結末を迎えたり、性別を超えた象徴・概念的な存在(あるいは神)に昇華したりするような作品も。


 どういった結末を迎えたほうが読者は喜ぶのか。そのあたりは作品の公開時期の流行や空気に左右される側面が他のキャラクターより強い傾向にあります。考えているものが定番の結末でない場合、より細心の注意が必要となるでしょう。




 長くなったので『危ない賢者』『時空を超える恋人達』『造物主を亡ぼす者』の解説は次回に持ち越します。

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