その16.キャラクターの7属性
前回は『物語に合ったキャラクター』の話をしました。今回からはそれを踏まえた上で、数回にわけて『読者に親しまれやすいキャラクターの類型』について語らせていただければと思います。
ちなみに、このあたりについても前回と同様、流行について基本触れません。
また見た目や、性格の要素についてはキャラクターを具体的に構築するプロセスで触れます。
ではここでなにを説明するのかといいますと、それは『神話から最近の創作にいたるまで、親しまれるキャラクターがどのような行動原理や背景をもっているか』というあたり。もっとかみ砕いて言えば、そのキャラが物語中でどういう動きをするか、その類型になります。
見た目や性格を決めるにあたっても、まずそのあたりをはっきりさせたほうが進めやすいでしょう。
そしてこの類型について理論的にわかりやすく説明しているのが、新城カズマ氏著『物語工学論 キャラクターの作り方』という書籍。
それによりますと、主要な登場人物は大体以下の7つの属性を持つとされています。
〇さまよえる跛行者 :強い力を持つ一方、重大な欠点も持ち、その不安定さを解消するために奔走する
〇塔の中の姫君 :自分ではどうにもできない不自由を強いられ、それを解消する存在を待ちわびる
〇二つの顔を持つ男 :相対する二つの側面をあわせもち、その間で翻弄される
〇武装戦闘美女 :女性でありながら男性的な役割を担い、戦う
〇時空を超える恋人達:ままならぬ恋愛感情を持ち、それをかなえるためにあらゆる苦難に立ち向かう
〇危ない賢者 :常識にとらわれず、高い知識(およびそれによりもたらされる力)を自分の思うがままに行使する
〇造物主を亡ぼす者 :自分(の立場・状況)を作り出した者を打倒し、その支配から脱しようと抗う
ちなみに属性名はイメージであり、例えば女性が『二つの顔を持つ男』の属性を持つ場合もあります(武装戦闘美女も基本は女性ですがバリエーションとして男の娘やTSも含みます)。また『姫君』『賢者』もイメージであり、作中での実際の職業や立場を示すわけではありません。
また、一人が複数の属性を持つことも。例えばコードギアスという作品の主人公は『さまよえる跛行者』『二つの顔を持つ男』『造物主を亡ぼす者』の3つを帯びています(+『危ない賢者』の側面もあるかもしれません)。
これらを見て多くの人は『確かにこういう属性のキャラクターって物語に多いよね』と感じてもらえると思います。ですが、それだけに『だから、なに?』と思う人もいるかと。
というかあまりにもオーソドックスすぎて、名作にも駄作にも出てくるキャラの特徴なわけで。いったいこれをどう作品を面白くするのに生かせるのか、と。
キャラクターの属性を定める意義。それは『キャラクターに厚みをつけ、説得力を持たせる』目安になるところにあります。
どの属性も、それを持つに至った過去があり、出来事があり、理由があるわけで。そしてそれは現在においての動機や行動原理や信念の下地となり、物語を動かす原動力になっているはず。
創作する際にそれらを考え描写することは、ただ漠然とキャラクターの昔の体験を想像して描写するよりも読者がキャラクター像をイメージしやすくなり、説得力を持たせることができるはずです。
では、厚みをつけるためにキャラクターにどう設定すればいいでしょうか?
その具体的な内容は、属性によって多少の違いがありますが、おおむね
〇キャラクターがその属性を持つに至った経緯
〇その属性はキャラクターになにを与え、奪っているか
〇キャラクターは今の自分の状態をどう思っており、それに対してなにを望み、どう行動するか
〇その行動の果てに望みが叶ったら(あるいは叶わなかったら)キャラクターはどうするか(またはどうなるか)
これらを決めておけばいいと思います。また複数の属性持ちは、可能なら属性ごとに設定を用意するとより複雑なキャラクターを作れると思います。
(ちなみに「物語工学論 キャラクターの作り方」では属性ごとにチャートを用意。その空欄に設定を書き込んでいけば、キャラクターの属性がらみの設定を容易に作ることができるようになっています)。
それと、キャラクター設定は時間が許す限り厚くしていって問題ないのですが、物語上でそれをすべて出してしまおうとすると、読者に不評をかってしまう場合があります。
例えばギャグ作品などは説得力を持たせる必要のないものも少なくないでしょう。にもかかわらずギャグに結びつかない設定描写を入れればテンポを悪くしてしまう場合もあります。
もちろん一概に『ギャグでは厚みは不要』ということはありません。結局、前回話した『作品にマッチしているか否か』というところが重要であり。その具合によっては厚みの表現の調節が必要になるということです。
また、調節を間違えた例としてはアニメ作品などでの『回想シーン』がわかりやすいと思います。というかシーン中に『ああ、この回想邪魔だな』と思う場合が少なくないでしょう。
漫画や小説などではまだ読者が自分で読み飛ばせるのでマシなのですが……。アニメではスキップや早送りをするのも手間で、なおのこと視聴者にウザがられることになるわけで。
あくまでも厚みを出す主目的は『キャラクターの存在や動機や行動に説得力を持たせる』ことであり、その目的を超えて描写に時間を割くことは過剰になりがち。
なので(前振りや伏線回収や演出など)なにか特別な意図がない限り、過去描写は基本抑えたほうがいいでしょう。少なくとも単にキャラクターやその心情、状況の詳細を解説するためだけに長々と設定語りをするようなことは避けるべき。
理想としてはキャラクターの発する言葉の端々や癖などだけで『このキャラはなにか深い過去・背景を持っている』と匂わせられれば上出来だと思うのですが……。言うのは簡単なのですが自分も中々苦戦している感じではあります……。
そのあたりは常に表現方法を考察したり勉強したりで試行錯誤で積み重ねていくしかないのでしょうね。
次回はこれらを踏まえたうえで7種類の各属性について細かく説明していきます。
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