その11.起承転結の問題点。および『三幕八場構成』との互換性

 前回まではテーマやアイデアを形にする方法として起承転結を説明し、物語の具体的な大筋に落とし込む流れを解説させていただきました。


 ただ、世間では構成に関して『三幕(八場)構成』を推す傾向にあり、起承転結はむしろ問題があるとしている人もいます。実際、三幕構成のほうが作法としてより具体的であり、実践的であることに異論のある人は少ないでしょう。


 ただ、三幕構成は具体的であるが故に運用前に理解しなければならない事柄が多く、また運用時にも短編などで利用するには仰々しいところがあります。起承転結でいけるならそれで済ませたいと思っている人も少なくないでしょう。


 そもそも、起承転結は何が問題視されているのか?


 その意見の多くは『起承転結は単調になる』という論調なのですが、そこを細かく読み込んでいくと、どうにも起承転結を誤解しているように思えるのです。


 どのような誤解が生じているのか。その鍵となるのが『序破急』という構成法。

 そして誤解は、それらの説明の際によく言われる『起と承をまとめたのが序』という考え方にある。と自分は推察しています。



■起承転結の誤解と『序破急』


 序破急は元々雅楽の構成法として使われ始め、以来、能や浄瑠璃などでも多少アレンジされて使われている構成法。『和風三幕構成』と例えている人もいます。


 その構成は(雅楽の場合)1つの話を5つに分割し、1つ目を『序』、2・3・4つ目を合わせて『破』、5つ目を『急』と3つのグループにわけ、それぞれに


序 …… 事件の発生

破 …… 事件の展開

急 …… 事件の解決


 上記の役割を与えて物語を展開させていくものとなっています。


 3幕構成の場合は話を4等分にわけ、1つ目を『1幕』、2・3つ目をあわせて『2幕』、4つ目を『3幕』としていて構成が似ており、よく引きあいに出されるわけで。


 で、この構成と起承転結が並べて語られるときによく言われるのが『序破急の『序』は、起承転結の『起』と『承』を合わせたもの』という内容。ちなみに全百科でも序破急の『序』についてはそのような説明になっています。


 起承転結に問題があるとしている人はこの『起と承をまとめたのが序』という部分を「『序=起+承』なので序が長くなり、中盤に『破=転』が入り事件が始まるので、物語がダレた感じになる」と解釈しているようなのです。確かに一見これは問題があるように思えますが……。


 そこに異論を差し挟みますと、これは起承転結の問題というより『起と承をまとめたのが序』という定義が問題であると思うのです。



■本当に『破』=『転』か?


 そもそも『起+承=序』とする把握の仕方は『転』と『破』、『結』と『急』の意味が近しいものであるところから来ていると思われます。『結』と『急』の類似性は疑う余地がないとして、しかし『転』と『破』は同一と考えていいのでしょうか?


 起承転結の説明を思い返しますと『転』の役割は状況の転化を担い、一方『破』は対立・衝突・事件の発生を担うとされており。確かに対立・事件の発生などは状況の転化の典型的な例であり、類似性は一見疑う余地がないように思えます。


 しかし、状況が転化するのは事件開始時だけでしょうか? 例えば事件が起きて犯人の手がかりが見つからず悩んでいる状況から、手がかりが見つかり解決に向かう流れ。これも転化と言えるのではないでしょうか?


 また物語を構成する役割を考えた場合、転は結(あるいはオチ)を効果的に表現する為のスパイスみたいな役割も期待されているわけで。この辺を加味すると、『事件の始まり=転』とするより『事件解決の糸口が見つかる=転』とするほうが、転としての役割を果たしていると言えます。



■承でも事件の始まりは担える


 そして『事件解決の糸口が見つかる=転』と考えた場合。事件の始まりはその前の段である『承』で表現されることになるわけですが、そこに問題があるかどうか。


 一般的な定義では『承』は『起』で示された設定が展開される部分。また『起』の補足説明という役割も担っています。


 だとすれば例えば『起』で探偵が示され、『転』でその活躍が表現され、『結』で名推理が披露され解決するような話の場合。『承』で事件が発生してその説明が入ることは起承転結の展開に何一つ逆らっておらず、また『承』の役割をはたしていると言えるでしょう。



■『承』の使い方・『転』の使い方


 まとめます。


 起承転結について『序=起+承』という説明そのままに表現すると、起承転結否定論で言われている問題を解決できません。物語の前半が間延びしてダレ、大した変化もしないまま後半に入り、そこで読者置いてきぼりの事件展開を迎え、読者がぽかーんとした状態で結末を迎える話にしかならないのです。


 そうならないためには、『転』が表現するモノはたんなる状況の変化だけではなく『話の流れが『結』に向けて大きく逆転するモノ』でもあったほうがいいでしょう。『承』は単に『起』の続きを表現するものではなく『起から転へ話の勢いをつけるモノ』であるほうが望ましいと思われます。


 起承転結を構成法勉強の足がかりとしたい人は、こう考えておくと後々ほかの構成法を取り込みやすいかと。



■起承転結と三幕構成の互換性


 ちなみに、以上のように考えた場合、起承転結と三幕構成はある程度の互換性を持ってきます。すなわち


起 = 第一幕「設定・メインキャラクターを固めるための説明」

承 = 第二幕前半「ファースト・ターニングポイント、対立・衝突、困難の発生とアプローチ」

転 = 第二幕後半「混沌への急降下、セカンド・ターニングポイント、状況の転化」

結 = 第三幕「決着、解決」


 かならずしも上記のように区分できるわけではないですが、起承転結から入った人はこんな感じで認識しておけば、三幕構成について理解が進めやすいのではないでしょうか。



 次回は全百科の内容に戻り、4コマ漫画の起承転結の考え方を長い話の構成に用いる考え方をまとめます。

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